第83話 『魔帝七席』の責務

 俺の目の前は死屍累々のようになっており、『白銀の誓い』のメンバーは誇らしい顔をしている。


 それに対して敵は全員が苦悶の表情をして倒れている。


 それもそうだろう……確かにが、部位欠損などの怪我で今後戦闘を生業にするのは不可能な怪我人ばかりだ。


 まぁ、この人達は後で治すとして──


 今はゴウキだ。


「どうする?」


 大人しく逃がしてくれない以上はそう聞いてみると、ゴウキは『天眼』に向かって何やら話している。


 ここで『天眼』が出てくるとかなり厳しくなる。


 しかし、『天眼』は動く気配は無い。


 この人はいったい来たんだ?


 この感じだと俺が目的では無い。他に目的が──ある?


『天眼』と関連性が生まれたのは……の一件があってからだな……。


 ──まさか、魔人関連!?


 可能性は十分にある。ゴウキは魔人薬を作るぐらいヤバい奴だ。


 それの確認なのか?



 痺れを切らしたゴウキは声を張り上げる。


「ちっ、これより──最後のショーを始めるっ! 間違いなく、最強であろう俺の切り札だ。俺を舐めたお前らは必ず殺すっ! おいっ、あれを出せっ!」


「──はっ」


 1人の男が命令されてを出す──


 そこには──


「ウガァァァツ」


「「──ノア!」」


 肌は黒くなり、白目をこちらに向け、叫ぶ──正気を失った表情をしたノアがいた。


 生きていた?



 俺とセリアさんはノアに向かって叫ぶが、返ってくるのは雄叫びのような叫び声だけだ。


 これが──ノア?


 嘘だろ……嘘だって言ってくれよ……。



「ノア……生きていたのか? 私だ……姉さんだぞ? ほらっ、もうすぐ自由になれるんだ。オーガストの墓にだって行けるんだぞ?」


 セリアさんの嗚咽を堪えた言葉もノアには全く届かない──


 ミリーさんは「一時的に超人的な力を得る代わりに死ぬ」と言っていた。


 だが、ノアは生き残っている。


 しかし、自我が無い?


 これが魔人薬の副作用?


 正気を失うのか?


 生き残った代償が自我の損失?



「檻を壊せ」


 ゴウキの言葉と共にノアは放たれ──


 フレア並の速さでセリアさんに迫る。


「クロムっ!」


「了解だっ! ──ぐぅ、うおっ!? なんつう馬鹿力だ──」


 俺の声に反応したクロムは迫るノアの拳に大剣を放ち防ぐが拮抗する事もなく吹き飛ばされる。


『応援』を使ったカレンさんとそんなに変わらない強さであるクロムがこれでは──


 フレアとカレンさん、ミリーさんは危険過ぎる。


「シロガネっ! 俺の事は良い──足止めをっ!」


「うむ」


 シロガネは大きくなり返事をしてノアに向かって行く。


 単独で一番強いであろうシロガネであれば間違いなく足止めは出来るはず。


 その間になんとかしないと──


 ノアが生きている以上はなんとかして治さなければ!


「フレアとカレンさん、ミリーさんはセリアさんの護衛を──ミレーユ、メリルさんはこっちに来てくれ!」


「「「了解」」」


 フレアとカレンさん、ミリーさんはサリアさんの元へ向かい、ミレーユとメリルさんはこちらにやって来てくれる。


「ノアを元に戻したい……何か手は無いかな??」


 何でも良い。何か方法を……。


「「……」」


 2人は黙る……。


 ──わかっている……わかっているんだっ!


 どうにもならない事ぐらい……。


 でも、初めて出来た親友を助けたいんだよ!


 何でも良いんだ……何か手は──


【叡智】っ!


[現状不可能です]


 初代っ!


『無理だ……あぁなっては──もう──』



「殺すしかないっ!」


 ──!?


『天眼』が降りて来て俺にそう言う。


「……『天眼』……か……お前の目的は──ノアか?」


「その通り。害悪となる魔人討伐は『魔帝七席』の責務だ。悲しみの連鎖はここで詰む」


「ノアは生きている……」


既に自我を失っている。じゃない者はこの世の悪になる。始末する──」


「待ってくれっ! 元に戻す方法はないんですか!?」


「ない。久しぶりに強敵と戦える──お前は邪魔をするのか? そんな雑魚同然の力で? 笑わせてくれる。これがオーガスト様の末裔とは……さぞや残念に思っておる事だろう」


 戦うしかないか。


 俺は『型』を使う。


「……」


『いや、見込みはある……だが、性格が全てを台無しにしているのは否めないが』


 初代オーガストがそう言っているんだから別にこいつの言っている事は気にする必要も無い。


 どこまで、俺、ミレーユ、メリルさんの3人の力が通用するのだろうか……。


「『天眼』の足止めを頼む」


「……足止めをしてどうするのかしら?」


をくれ……」


 覚悟を決める時間を……。


「ほら、ミレーユ! 良い女は男のやろうとしてるいる事に口を出さない! エル君なら最善を選ぶわよ。私達は頼まれた仕事をこなせばいいわ」


「……そう……ね。エル──後悔しない選択をしてね?」


 そうするよ。2人とも俺が何の為に時間を欲しているのかわかっているのだろう。


「私を止められるものなら止めてみるがいいわっ! この──『天眼』が遊んでやろう」


「エルの為に──必ず役割を果たす!」


「どんな困難にも打ち勝って来たエル君の邪魔はさせないわ!」


「「たかが、『一席』如きが──舐めるなっ!」」


 Sランク級の戦闘が目の前で始まる──

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