第81話 友のために『応援』する──
開始の合図と共に動いたのは【虐殺】ガイン。
武器は片手斧の二刀流──
対する【舞姫】セリアさんは曲剣の二刀流。
セリアさんは初動は遅れたものの、相手の強烈な乱撃に合わせて踊るように攻撃を逸らして避ける。
セリアさんの二つ名は回避する姿が美しく踊るようだと付けられている。
そこに独自の──おそらく『型』を使い、奇襲する。
もちろん、か弱い女性なんかじゃ無いから一撃の威力は折り紙付きだ。
上手く攻撃を捌いていると思う。
けれど、俺から見ていてもセリアさんの動きはぎこちない。
どれだけ強力な毒を飲まされているんだ……。
戦況も押され始めている。
やはり、使うしか無い。
『子孫っ!』
初代は俺のやろうとしている事がわかっているのだろう。だが、止まる事はない。
俺は【応援】スキルを更に使う──
次は『身体能力強化』を重ね掛けする。
これで約2倍増しだ。
これぐらいなら、俺はまだ耐えれる。
初代の言いたい事もわかる──
だが、セリアさんは武人だ。いきなり横槍を入れたくは無い。
それにカイの為に頑張ってる以上──自分自身の手で自由を掴み取って欲しいと思っている。
ならば──
俺は出来る限り応援するのみッ!
セリアさんは自分の変化に気付いたようだ。
先程より動きが良くなる。
「こんなとこで負けるわけには行かないっ! 『舞風』──」
あらゆる方向から【風魔法】の『風刃』と剣戟を混ぜながら猛襲する。
「──お前、どこにそんな力が!?」
ガインはおそらく毒の事を知っているのだろう。驚いた表情で攻撃を捌いていく。
所々にダメージを負うがガインはなんとか踏ん張り耐える。
そして、余裕だった表情は消える──
やはり──徐々に失われる体力に比例してセリアさんは弱体化している。
ガインはそれを察してか、近距離から中距離に戦闘スタイルを変えている。
片手斧をブーメランのように投げて近付けさせないように立ち回る。
セリアさんは元々、近接型だ。体力も消耗し、決め手にかけるのだろう。
次々とガインの攻撃を受けていくセリアさんは片膝を着く。
このままだと負ける──
「セリアさんっ! 貴女の力はこんなもんじゃないだろっ! ノアは貴女の敗北は望んでなんか無いッ!! ノアの代わりに俺が『応援』するッ!!」
俺は思わず大声で叫ぶ。
もう、後先は考えない──
初代から制止の声は無い。
まだ使った事はないが──『応援』の真骨頂を見せてやる──
【真】
部分強化、身体強化、全強化──
全てを重ね掛ける。
倍率は約3.3倍──
『身体強化魔法』は使っていないが、以前の
これなら例え、体力が消耗しようがやり合えるはずだ。
だから──セリアさんも頑張れっ!
自由を必ず掴んで、初代の墓に行くんだろ!
俺も頭はガンガンするし、吐きそうだし、今にも気を失いそうだ──
だが、これぐらいは耐えてみせる!
これが今出来る精一杯の『応援』だッ!
「錆……いや、エル──お前の言葉しかと心に刻み付けた! 必ず──勝つっ! ガイン、これで最後だっ!」
俺を見詰めるセリアさんは驚いた顔をしたが、一瞬にして戦闘に思考を切り替え──
最後の攻撃の為に魔力を溜める。
対するガインも斧に火を纏わせて走り出す──
「舐めるなよ、この死に損ないがぁぁぁぁぁっ!」
そして、セリアさんの首目掛けて片手斧を両サイドからハサミのように挟み込む──
「この身が朽ち果てようと──心は常に弟と共に──『風華乱舞』──」
バックステップで避け、セリアさんの攻撃が発動する。
咲き乱れる花のような風魔法と斬撃の融合攻撃がガインを捉える──
手数の多すぎる攻撃を捌くのは流石に無理なのだろう。
次々と攻撃を受けていくガイン。
追い詰められたガインは火を纏わせた片手斧を地面に振り下ろす。
すると、小さなクレーターが出来上がり──砂埃が舞う。
「「死ねっ」」
一旦距離が離れた両者は再度、最後になるであろう攻撃を繰り出す──
ガインは片方の斧を投げて特攻し──
セリアさんは【風魔法】とおそらく速さ的に【縮地】を使い距離を詰める──
両者の威力の籠った攻撃が衝突する──
砂埃が激しく更に舞い、状況はわからない。
次第に晴れやか砂埃に影が映る。
立っているのは一人だ。
その姿は──女性。
セリアさんだった。
周りの大歓声と共に俺はガッツポーズをとる。
ミレーユ達もホッと胸を撫で下ろす姿が見えた。
これで一先ずは問題が片付いた。近付いても問題ないだろう。
俺はセリアさんを解毒する為に駆け寄る。
倒れそうになるセリアさんを俺は抱き抱える──
「エル……か? 私はもうすぐ死ぬ……お前にオーガストの墓の件は託す──」
「お疲れ様です。ノアもきっと喜んでます。セリアさんがお墓に行くんでしょ? なら諦めたらダメです。これぐらいなら俺が治せますよ」
【回復魔法】の『回復』と『解毒』を使用する。
「──!? お前は『銀翼』の名に恥じない男になったな……この包み込まれるような感覚──キャロルさんみたいだ……お前の『応援』はしっかり届いていたよ」
俺にとって最高の褒め言葉だ。
母さんと肩を並べてくれるのは素直に嬉しい。
「ふふっ、ありがとうございます。俺の『応援』は一味違うんですよ。セリアさんはここからだ。後は全力で俺達がフォローします。なんたって──今噂の『白銀の誓い』ですからね?」
俺ははにかむ笑顔で自信満々に答える。
「そうか……たまに聞いた英雄パーティがフォローしてくれるなら安心だな。依頼料はしっかり払うさ。私は少し休ませてもらうよ」
「えぇ、ここからの護衛と脱出は俺達が請け負います。──クロムっ!」
「任せてくれ」
俺の呼びかけにクロムが近寄り、セリアさんを安全な場所に運ぶ。
【叡智】──
[ゴウキは逃がす気はありません]
やっぱりか……【応援】の副作用がキツいから出来れば逃げたかったんだが……。
俺は顔を上げ、ゴウキを睨みつける。
「──まさかガインを倒すとはな……それで乱入してきたお前はこれからどうする?」
「毒を飲ませて八百長してるぐらいだ──逃がす気はないだろ?」
「くっくっくっ、言いがかりだな。──さぁ、皆さんこれより──神聖なバトルを侮辱した輩の処刑タイムだっ! お前ら行けっ!」
「──皆、行くぞっ!」
「「「応っ!」」」
全員が俺の近くに寄る。
さぁ──
ここからが俺達の本番だ。
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