第80話 まずはプランAでいく──
闘技場に到着した俺達は観客席に移動する。
今日は昨日見た、どの会場よりも騒がしい……ここは奴隷対戦会場だ。
セリアさんの勝負は奴隷対一般人の勝負だと聞いている
何故、こんなに賑やかなのだろうか?
俺は会場を見渡すと──
すると、偉いさんが座る席に筋骨隆々の男が目に止まると同時にそいつが話し出す。
「あー、聞こえるか諸君? 俺はここの責任者であるゴウキだっ! 昨日俺は予想外の大損をしたばかりだっ! だからこそ今日は俺も憂さ晴らしに賭けさせてもらうぜっ! お前らは血が大好きだろう? 今日は前もって告知していた通り──最高のバトルになるようセッティングしてある! 自由になる為に連戦連勝しているセリアvsこの街でも最強と名高い男──【虐殺】のガインだっ!」
ゴウキが風魔法か何かの魔道具を使って声を全体に聞こえるようにして話し出した。
大損とは俺が大量に賭けた事だろう。嫌がらせにはなったようだ。
【虐殺】の二つ名は有名だ……対人戦がもっとも得意で闘技場などでは相手を殺して荒らし回る姿から付いた二つ名だ。
素行が悪く冒険者ランクはAだが、強さだけでならSランク相当と言われている。
流石に相手が悪い気がするが、サリアさんの強さも噂ではSランク相当だと聞いている。
だが、サリアさんの表情は苦しそうに見える。
体調が悪い?
それにしては苦しそうだ。
【叡智】──
[遅効性の毒を盛られてます。現段階での勝率0%。毒が無ければ勝率60%]
はぁ?
毒?
勝たせない為に?
こんなのは──勝負ですら無い……許される行為じゃ無い──
俺の中で何かが切れる音がした。
「──エル、抑えなさい。珍しく殺気なんか出してどうしたの? 確かにセリアは体調が悪そうだけど、あの程度の奴には負けないわ」
「……ごめん、ミレーユ……この勝負──確実にサリアさんは負ける。毒を盛られているからね……」
俺が珍しく殺気を出した理由がわかったのだろう。
全員の表情が歪む。
「必ず助け出そう。皆、打ち合わせ通り配置に──」
配置についてくれ──そう言おうとしたらゴウキの大音量の声にかき消される。
「──諸君、そして──今回はスペシャルゲストがいるぞ? 普段は謎に包まれている──『エルグランド魔帝国』の一席である通称『天眼』が来てくれている! 盛大な拍手で迎えてくれ!」
ゴウキの言葉に俺は驚愕する。
──こんな時に『天眼』だと!?
何でここにいるんだ!?
拍手と共に現れたのは目元を包帯でぐるぐる巻きにした小柄な女性だった。
『あいつ──まだ生きてたんだな……』
──おい、ちょっと待て……初代と知り合いなのか?!
『あいつは俺の教え子だな。フィーリアはかなり強敵だぞ? お前あいつに目をつけられるとか運が無いな……今回邪魔されないといいがな。今の状態だと十中八九負ける』
……懐かしんでる所悪いんだけど、こっちとしては邪魔されると非常に拙い事になるんだけど……。
どうしてここにいるのかがわからない。
悪口を言った俺をボコりに来たのか?
偉いさんがそんな事の為に来たのか?
何より、初代の教え子って……何歳なんだよ!?
『天眼』──いや、フィーリアさんが俺の方向に顔を向ける。
……どうやら俺の存在はわかっているようだ。
俺に向ける三日月状の口元が何を指しているのやら……。
タイミング的に俺の考えが読めるなんて事はないよな?
とりあえず、邪魔さえされなければ問題ない。俺の今回の目的はセリアさんを助ける事だ。
「──『天眼』がどう動くかわならない以上、やはり打ち合わせ通り状況を見てプランAで行く。プランBに移行する際は先に俺が動く」
全員が頷く。
今回で俺は仲間だけに【応援】スキルの事を少し話している。
魔法を使うとバレてしまう。だが、【応援】スキルであれば誰にもバレない。
つまり、プランAはセリアさんに『全強化』を使用し、そのまま勝ってもらう予定だった。
それだけで終わるなら問題なかったが、毒を盛られてる以上、戦闘が長引けば──プランBに移行しないとダメになる。
プランBは総力戦で作戦も何も無い、臨機応変だ。
「──では、血が沸るバトルを──開始だっ!」
大歓声の中、セリアさんの勝負が始まる──
とりあえずは『全強化』で様子見だ。『天眼』がいる以上下手に動けない。【応援】も初代の知り合いであれば知っている可能性もあるが──
そんな事は今はどうでも良いっ!
ノア、お前の姉は絶対に死なせはしないっ!
親友──代わりに俺がお前の姉を応援する──
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