第79話 父さん達ならどうする?

 俺達は屋敷に到着すると既にミリーさんが戻って来ていた。


 一室で座りながら俺はセリアさんやノアの事を話す。


「ノアが!? 何故!?」


 反応したのはノアと会った事のあるミレーユだ。

 ミレーユも信じられないと声を上げる。


 俺も信じられない……ノアはそんな簡単に死ぬような奴じゃない……死ににくい希少なスキル持ちだからな。


「セリアさんが言った以上は事実なんだと思う……」


 俺は預かったネックレスを握りしめる。


「エル……」


「大丈夫だ……」


 大丈夫とは言ったが──


 胸に穴が空いたような感じがする……。


 損失感か……『銀翼』がなくなってからは久しぶりだ。


 ノア……どうして死んだんだよ……いつかまた一緒に依頼こなそうって約束したじゃないか……。


 どうしてなんだ……何があったんだよ……。


 未だに信じられない……。


 頭の中でそんな事ばかり考えているとミリーさんが言葉を発する。


「エル様──おそらく、その件にも関連する情報を手に入れています……」


 どんな事でも良い……知りたい。


「──話してくれ……」


「では、まず私の知った情報を一つずつ上げていきます。ゴウキはエル様の前任者から高ランク冒険者を買い取り、闘技場に参加させて勝ち続けた猛者のみを私兵にしています。そのセリア様もおそらくはその話を受けていると思います」


「セリアさんは旅に出ると言っていたぞ?」


「おそらく、その話を断ったのでしょう。私が調べた結果──断った者の未来は──です」


 解放の条件は勝ち続ける──それは死という名の比喩か……。


 ……胸糞悪い……従わなければ殺すという事か……。


 ノアの為にも必ず助ける。


「……わかった。セリアさんは助ける方向で動こうと思う。それで、ノアについては?」


「……」


 言い淀むミリーさん。


「……言いにくい事なのか?」


「とても……しかし、これは知らなければならない事実でもあります……」


「なら──話してくれ」


「はい……ゴウキはを作ろうとしています。方法としては瘴気を特殊な加工を施して液状にした物を投与するみたいです。『魔人薬』と呼ばれていました」


 ──!?


 全員の表情が強張る。


 魔人が人の手で作れるなんて脅威だ。皆も以前の件で魔人の驚異はわかっているだろう。


「それで成功しているのか?」


 ここが重要だ。もし成功していたなら──


 俺達には手が余る案件になってくる。


「失敗しています。一時的に超人的な力を得る代わりに死ぬようです……」


 失敗しているならなんとかなるか? それよりも──死ぬ?


「まさか──ノアも実験台に?」


「はい……忍び込んだ時にリストに書いてありました」


 そうか……。


「ノアはもうやっぱりいないんだな……」


「「「……」」」


 皆は黙り込む。


「エル君……気持ちはわかるわ……けど、一人で先走らないでほしい……」


 メリルさんは心配そうに俺にそう言う。


「……わかった……セリアさんの方が今は緊急度が高い──ミリーさん、セリアさんはいつ殺されるかわかるかな?」


「おそらく、エル様の情報から察するに──明日になります。最後の試合でゴウキの私兵が登場すると思います……」


 明日か……早いな……。


「わかった……なら、その時──状況を見ながら乱入して阻止しよう。ゴウキは邪魔をしてきても容赦する必要は無い。炙り出せたら──潰す」


「「「了解」」」


 これには全員が賛成してくれる。


 目的がすり替わってしまったが──


 優先順位は知り合いの方が俺の中では高い。


 ゴウキも放っておけないが、それよりも緊急度の高いセリアさんの救出が最優先だ。


 その後、ゴウキの事は考えよう。



 そして、その場は解散する。



 俺は今──


 夜の街を一人で歩いている。


 食事は作る気力がなかったので、作り置きしていた物を置いてきている。



 もう会えなくなるとわかると無性にノアに会いたくなる……。


 いつも雰囲気を明るくしてくれるムードメーカー的な存在で気の良い奴だった。


 まだまだ未熟だった頃、俺が戦えないと知っても──


 励まし、そしてたまに会うと一緒に訓練に付き合ってくれた……初めて出来た友達だ。


 ノアは俺をずっと応援してくれていた……だからこそ『銀翼』が無くなる前は、それに応えたくてずっと剣を振り続けた。『銀翼』がなくなってからは投げ出してしまったけど……。


 いつかお互いに強くなって再会しようと約束をして別れた日が懐かしい。


 あいつは人では珍しい【再生】スキル持ちだ。


 致命傷で無い限り、回復する。不死身みたいな奴だったのに……。


 そんなあいつが薬で死ぬなんて……未だに信じられない……。


 セリアさんを助けれたら──ゴウキはどんな行動を取るのだろうか?


 人工的に魔人を作ろうとしている奴だ。俺達が邪魔をしたら間違いなく手段は選ばずに殺しに来るかもしれない。


『魔人薬』か……使われる可能性も考慮しないとダメだな……。


 魔人は危険討伐指定されている……それこそ国で総力を上げるぐらいにだ。


 俺に出来るのか? 命令され、強制的に襲いかかる人を──


 事が……いや、今の実力じゃ勝てないかもしれない──その指示を出す事が出来るのだろうか?


 俺は──


 どうしたら良い?


 俺は煌びやかに映る街中を見上げる。


「なぁ……父さん達ならどうする?」


 そんな言葉が漏れる。


「お父さんなら──『なるようになる。その時決めろ』ってきっと言うのです!」


「そうね、アランはそんな感じよ? キャロルなら──『優しさを忘れずに、後悔しないよう、自分を貫きなさい』って言うでしょうね」


「フレア、ミレーユ……皆……」


 俺は声のする方向に視線を向けると仲間全員が俺に優しい目を向けていた。


「エル君の親友は助けられなかったわ……けれど、そのお姉さんは助けられる……」


「エルを邪魔する奴はぶっ飛ばすよ!」


「情報収集は任せて下さい」


「俺も案内役は微妙だが、護衛役ぐらいは全うする……」


 メリルさん、カレンさん、ミリーさん、クロムが順に声をかけてくれる。


 ゴウキの私兵はAランク級がほとんどだと聞いている。


 そんな危険な件に首を突っ込もうとしているのに、皆は反対もせず、付き合うと言ってくれる事に胸が暖かくなる。


「俺の我儘に付き合ってもらってごめん……そして──ありがとう……」


 俺は皆の目を見てそう言う。


「「「そんな事気にしないっ!」」」


 本当ありがとう……なんとか覚悟を決めれそうだよ。


 俺は空に見詰める。


 やれる事をやる!


 それだけは変わらないっ!



 その後、居酒屋みたいな所で少しお酒を飲んでから帰った。


 たまには飲みたい気分の日もある。




 そして、次の日──


 俺は朝早くに目が覚める。


 今日これから俺は──


 ノア……お前の姉を必ず救う。


 初代も【叡智】も昨日から茶々は入れてこない。


 きっと、俺を見守ってくれているのだろう。



 全員、食事を済ませる。


「……先に言っておく……相手は──この街でも最高の武力を持った奴だ。負ける事もあるかもしれない……だから、皆は──」


「残らないわよ? ずっと一緒よ」


 ミレーユ……。


「殲滅なのですっ!」


 フレア……。


「このまま、エル君が支配者になったら良いじゃない?」


 メリルさん……。


「必ず助けて──敵討ちっ!」


 カレンさん……。


「アメリア様は成し遂げると必ず言いましょう」


 ミリーさん……。


「兄貴の覇道はこれから始まるっ!」


 クロム……。


「我がおる。安心するが良い」


 シロガネ……。


『自分の力を信じろ』


 初代……。


[ご武運を]


【叡智】……。


 皆──


 俺には勿体無い奴らばかりだ……涙が出そうだ。



「必ず──必ず、全員生きて残ろうッ!」


「「「応ッ!!」」」



 俺達は歩き出す──

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