第78話 結果的に嫌がらせにはなった
「絶対に真実に辿り着くぞ」
俺は行き場の無い怒りを我慢しながら呟く。せめて何で死んだのかぐらいは知りたい。
「「……」」
クロムとフローは俺の意気込みに息を飲む。
おそらく──ここにいてもゴウキの情報は得られないだろう。たぶん、ここにはいない。
これから起こる事を予想出来ているのなら俺の目の前に現れてもおかしくないはずだしな。
皆を集める為に俺はまずフレアのいる闘技場へと足を進ませる。
「あら、どうしたのかしら? フレアちゃん見に来たの? 丁度、ほらっ、終わる所よ──って酷い顔よ?」
「……あぁ、そんな所だね。ちょっと色々あってね。また後で言うよ」
メリルさんが俺を発見し、出迎えてくれる。
試合を見ると一瞬にして背後に回ったフレアは相手を斬り伏せる。
そして、静寂の後、観客席から大歓声が上がっていた。
「大勝利なのです!」
「「「お嬢ちゃん小さいのに凄いぞぉぉぉっ!」」」
「そいつはBランク冒険者なのに大したもんだっ!」
「俺達は大損したけど、良い物見させてもらったぜっ!」
フレアをよく見ると無傷だ。
もはやBランク冒険者ではフレアには相手にならないようだ。
それにルール的に何でもありじゃない。殺しは無し、魔法と武器の使用は許されているが、武器は一つだけだ。
この条件では生半可なBランク程度ではフレアに勝てる奴はいないはずだ。
今回のオッズは相手が1.1に対してフレアは20だ。わかりやすい場所に書かれている。
俺以外は賭けている人は少ないのかもしれない。このオッズはどうやって計算されているのか不明だな……俺の賭け金でも最悪払えるから倍率高めにしているのだろうか?
今回はパーティメンバー全員に賭けている。特に倍率が高いと予想したフレアとシロガネには白金貨20枚ずつ、カレンさんとミレーユには5枚ずつ賭けている。
フレアの勝利で手元に白金貨400が入って来る予定だ。日本円で400億円相当……嫌がらせというレベルじゃないだろう。
「──お兄ちゃんっ! フレア勝ったのですっ!」
「あぁ、よくやったね。終わったなら来てくれるかな?」
「……わかったのです! お兄ちゃん怒ってるのです??」
「──いや、ちょっと色々あってね。気分が優れないんだ。それで皆が終わったら帰ろうと思ってね。次はここから近い、シロガネとカレンさんを迎えに行こう」
「わかったのです! 無理はダメなのですよ?」
フレアにも心配されてしまった……なんとかしないとダメだな。
俺は気を取り直し、カレンさんのいる闘技場に向かう。
すると、ここでも熱狂の渦になっていた。
カレンさんは自由に剣を操作して、討伐ランクBのサイクロプスを手玉にとっていた。
さすがはカレンさんだ。訓練の成果が出ている。
余裕そうだな。
それよりも、あんな巨大な魔物をどうやって捕獲しているのか気になる。
しばらくすると、俺達に気付き──あっという間に斬り刻むカレンさん。
「エルーっ! 勝ったわよ! ただ不完全燃焼だわっ!」
俺に気付き走り寄るカレンさんはまだ物足りないようだ。
「また機会があったらやってくれたらいいよ。これからの方針を決めたいから来てくれないかな?」
「──わかったわ。何かわかったのね?」
「あぁ、と言っても大した事じゃ無い。さぁシロガネも隣の闘技場にいるだろうし行こう」
カレンさんはAランク冒険者だ。その為オッズは低めの1.2倍だったので白金貨5枚を賭けていたから6枚になる。
次はシロガネのいる闘技場に到着するが、まだシロガネの出番では無いようだ。
観客席でしばらく待っているとシロガネが小さい状態で出てくる。
周りからは「こりゃ、あの犬の負けだな」「勝ったな」とか色々聞こえてくる。
シロガネの相手はオーガだ。
見た目だけならば間違いなくオーガが勝つだろうな……。
ちなみにオッズはオーガが1.1倍、シロガネが50倍だった。
誰も賭けていないのかもしれないな。というかシロガネが勝ったらこれ支払えるのか?
開始の合図と同時にシロガネはジャンプして爪を振り下ろすとオーガは一瞬にして惨殺されていた。
シーンと辺りは静寂する。
まぁ、予想の範囲内だな。そして、シロガネだけで白金貨は1000枚入ってくる予定だ……。
『シロガネ、行くぞ』
『うむ、つまらんな……』
俺は念話を送り、シロガネを連れて出て行く。
そして、最後にミレーユの元に向かう。
ミレーユは奴隷との対戦だったはずだ。
第二闘技場に到着すると──
凄く寒かった……フレアやカレンさんの時とは真逆で静寂が支配している。
これ──【氷結魔法】使ってね!?
観客席の皆さん震えてらっしゃるけど?!
そして、ミレーユの殺気もヤバかった……。
これは寒さとミレーユの怖さで震えているのだろう。
何があったんだろ?
【氷結魔法】を使わなければならないぐらい強い相手だったのか!?
「ミレーユどうしたんだ?」
俺は遠目から声を掛ける。
「あら、エルじゃない。さっきから奴隷を殺せコールが煩いから黙らせた所よ?」
そういえば奴隷との対戦は殺し有りだったな……観客もそれを楽しみに来ているのだろう。
胸糞悪い。
「なるほど。勝負が終わったなら帰ろう。ここにいる意味は無い」
「……わかったわ。何かあったのね?」
俺は頷いて応える。
「屋敷に着いてから話すよ」
俺達は換金所に寄り、帰る事にする。
ゴウキの手の者も特にちょっかいかける事もなかった。
ちなみにミレーユの倍率も1.2倍とカレンさんと同じだった。
白金貨50枚が1412枚に変わった。受付の人の顔は引き攣っており、お金を集める為に待たされたがしっかり払ってもらった。
「エル……これゴウキが知ったら卒倒すると思うよ? 僕の所なら運営が危ういレベルだし……」
フローのそんな言葉で少し溜飲は下がる。
これで少しは嫌がらせにはなっただろう。
宣戦布告をしたつもりは全くなかったけど、結果的にそうなってしまった。
まぁ、別にもう構わない。ゴウキは好き放題やってきたんだ。因果応報だろう。
さぁ、後は皆と今後を話し合おう。
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