第77話 情報収集中の訃報
とりあえず──
ゴウキとかいう人をなんとかする為にまずは敵情視察するしかないだろう。と言っても大した情報は得れないだろうが──
せめてセリアさんの情報ぐらいは知っておきたい。
という事で、ミリーさんを除く全員で闘技場に来ている。
フローも一緒だ。
ミリーさんは情報集めが得意と聞いたので他で情報収集してもらっている。
そもそも、こんな事になっているのは【叡智】を使ったのに──
[たまには自分で動け]
と表示されたせいだが……。こいつ役割果たしてないと思うんだよね……。
闘技場があるだけあって中はかなり広い。
人の賑わいも凄い。
賭けだけでなく、やはり戦いを見に来ている人も多いのだろう。
もちろん俺達も賭けも行う予定だ。やる気満々のメンバーがそわそわしながら後ろを歩いて来ているからね……。
今回は白金貨を50枚程持って来た。あのおっさんの屋敷には大量の白金貨があった。かなり溜め込んでいたようだ。
受付らしき場所で案内版があったので確認してみる。
一般枠と奴隷枠の闘技場があるのは間違いない。
一般枠は腕自慢の人同士が対戦するようだ。こちらは殺しは無し。
奴隷枠は奴隷同士の対戦や一般からも参加可能で、殺し有り。
他にも、魔物との対戦もあるようだ。これは魔物同士や人と魔物の対戦に分かれている。
「兄貴っ! 一般の奴に出ていいか!?」
「私も出るわ」
「私もっ!」
「フレアも腕試しするのです!」
『我も出るぞ』
到着早々に一般枠の闘技場にクロム、ミレーユ、カレンさん、フレア、シロガネの順で出場したいと言う。
武闘派だな……だが、こんな所で時間を割いている場合じゃないんだよな……。
「ダメなのです?」
フレアが俺の手を握りながら言ってくれている……なんとか叶えてあげたい……。
うん、別に何人かいなくても大丈夫だろ……たぶん。
それに実際に参加しての意見も聞きたいしな。
「わかった。クロム以外は実力試しに行って来い」
「えっ!? 俺は?!」
「お前はダメ、そもそも案内役だろ?」
項垂れるクロム。
だが、出来るだけ護衛を減らしたく無い。それに──せめて借りた金分ぐらいは働け!
フレアには誰かいれば何かトラブルがあっても大丈夫だろう。
フレアは一般枠の対人戦、ミレーユは奴隷枠の一般参加、カレンさんは魔物との対戦、シロガネは魔物同士の対戦で受付を済ませる。メリルさんにはフレアのサポートを頼んだ。
登録には冒険者ランクの記載などあった。これを参考にオッズを決めるのだろう。
もちろん賭けも行なっている。『白銀の誓い』メンバーに手持ち全てを賭けた。負ける気が全くしないとフローに伝えると便乗して全額賭けていたが……。
そして俺、クロム、フローは他の皆を置いてその場を去る。
少し離れた闘技場からは熱狂的な声が聞こえてくる。
「フロー、とりあえず見て回るが構わないか?」
「そうだね。僕もあまり見た事が無いからついて行くよ。それに離れた瞬間に拐われそうで怖いし」
確かに、【気配察知】で付かず離れずでいる奴らがけっこういる。
こいつらは俺達がここに着いた時から監視をしている。
『もてもてだな』
初代の言う通り──
今はフレア達にも分散して人数は少ないが、仮にも新しい三光である俺とフローには相変わらず多い。
撒くのは無理そうだ……。
とりあえず、見て回って様子見しか出来ないな。
「クロム」
「兄貴どうした?!」
「俺とフローを守ってくれよ?」
俺は念押しで言っておく事にする。
「いやいや、兄貴に護衛なんて必要ないだろ? なんせ魔人倒したんだろ? いや〜俺もその場にいたかったなぁ〜」
何で、その事を知ってる!?
あれかギルドから情報が出回っているのか?
「馬鹿言うな。あんなのもう二度とごめんだ。死ぬかと思ったわ!」
シロガネがいなかったら死んでたし、初代がいなかったらこの先遠くない内に死ぬ事になってたしな。
フローの顔を見ると羨望の眼差しで俺を見ている。
確かに魔人は災害クラスの討伐対象ではあるのだが……。
クロムの発言で魔人を倒した事になってる俺は守ってくれと言い辛くなったじゃないか!
シロガネが倒したのに!
「最悪、フローだけは死ぬ気で守ってくれ……というか借りた金の分ぐらいは働け! 俺は──なんとかするよ……自分で……」
やっぱり、皆を闘技場に参加させるのやめといたら良かった……。
マジで今日はトラブルだけは勘弁してくれ!
そんな心の叫びを胸に秘めて俺は歩き出す。
すると、セリアさんの歩く姿を見かける。
ここにいるという事は──
やはり、ゴウキの奴隷で闘技場に参加していると見て良いだろう。
「セリアさんっ!」
「──錆!? 何でこんな所に!?」
「観光ですよ。時間も無いし、監視もあるから単刀直入に言います。セリアさんを──俺が買い取ります」
なんとか助けたい一心でそう俺は告げる。
「──!? 断る。私はもう少しで自由になれるだけの金が貯まる。必要無い」
「……そう、ですか……自由になれるなら良いです」
一瞬断られ歯噛みするが、自由になれるなら問題ないだろうと俺は平静を保つ。
「そう……だな……」
解放される目処があるのなら気になるノアの事を聞こう。
「そういえば──弟のノアは元気にしてますか? 久しぶりに会って話がしたい──「死んだよ……」──!? 死ん、だ?」
「そうだ──……ノアは死んだよ……」
「……う、嘘でしょ? ノアはそう簡単に死ぬ奴なんかじゃないっ! それは俺がよく知ってるっ!」
俺はいきなりの訃報を聞き、頭に血が昇る。
「本当だ……もう──会えない……私も会いたい……だからこそ弔いの為に──自由になって、あいつの目標だった……お前のご先祖の墓に行く」
──初代の墓に?
何故?
「何をしに行くんですか?」
「……以前、ノアに初代オーガストの墓に行った話をしただろ? それを聞いていつか危険な場所である岬に行きたいと言っていた……あそこに行けば──最強になれると信じて……あそこはSランク冒険者でも一握りしか行けない場所だしな……だからこそ価値がある──そう言っていた」
初代の墓は強者しか行けないぐらい危険な場所の一つだ。
俺も父さんに連れて行ってもらわなかったら行けないぐらいに……。
確かにあそこに単独で辿り着く事が出来たなら──
世界でも数えるぐらいの猛者になるだろう。
『白銀の誓い』にも単独では行ける人はおそらくいない。全員でならまだ行ける可能性はあるが──危険すぎる。
それこそ行けるのは『天眼』とかの規格外の強さを持つ者だろう。
そうか……ノアも行きたがっていたのか……。
「錆──これをやる……」
セリアさんは首に付けていたネックレスを外して渡す。
見た事があると思ったけど……これは……俺が初めて作った魔道具だった。
『結界』の文字を刻んだネックレスだ。
冒険者をしていると死ぬ……だからこそ友達であるノアには死んでほしくないと渡した思い出の魔道具……。
「……俺が作った──懐かしい物です……」
「そうみたいだな。これに救われた事は数知れないと言っていた」
「そう、ですか……あいつを最後まで守れなかったのは残念ですが役に立てたなら嬉しいです……これを代わりにプレゼントします。同じ魔道具ですが、魔力の量で強度が変わるようにしています。ご武運を……」
「……ありがとうな。闘技場では使えないから旅に出る時に使わせてもらう。私も後2回勝てば自由だ。その時はパァーッと飲もうぜ?」
「えぇ、楽しみにしてます。必ず──再会しましょう」
俺は拳を突き出す。
セリアさんも俺の拳に合わせる──
そして上下左右に叩き合い──
互いの拳を力を込めてぶつけ合う。
これは昔、挨拶代わりにしていた事だ。
最後の拳を合わせる時に俺は吹っ飛ばされる事が多かったが今回はこっそり『型』の応用でしっかり踏ん張る事が出来て醜態を晒さなくて済んだ。
そんな俺をセリアさんは見て驚きつつも振り返り、歩いていく。
「兄貴……」
「エル……」
「……気にしなくて良い……いつか必ず弔う。親友の為にも必ずな?」
俺は笑顔でそう二人に応える。
ノアに会えないのは辛い……だけど──
初代の眠る墓にいつか、このネックレスを届けたい……。
あいつの夢──俺も叶えたい──
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