第76話 事務処理から解放されたい!

 あれから数日は事務処理に追われる日々だった。


 非常に寝不足だ……。


 あの元三光のおっさんは──


 この街のカジノ系列を全て牛耳っていたようだ。他にも勝負をしたカジノの上にある高級宿やいくつも物件を持っていた。


 それに相当悪どい事をしていたようだ。


 人身売買、売り、薬──


 数えきれない証拠の数々が出てきた。


 しかも、私兵もギャンブルで無理矢理負けさせて奴隷にしていたようだ。


 もはや、救いようが無いぐらいのレベルで腐敗していた。あの時捕まえて牢屋に入れさせれば良かったと思うぐらいだった。あれ以降情報が全くない。どこかに失踪したみたいだ。


 当然ながら俺にこれら全てを対処するのは不可能だ。


 現在は──


 ミレーユとメリルさんの3人で元三光のおっさんの屋敷の一室でこの状態をどうするか話し合っている所だ。屋敷も当然今や俺の物だ……こんなでかい建物貰っても使い道とか全然ないんだけど……。


 ちなみに他のメンバーは適当に観光とかをしてもらっていたりしている。


「とりあえず、売りと薬は直ぐに辞めさせて、無理矢理奴隷にされた人だけは解放したけど他に出来る事が無い……」


 ギャンブルで自業自得の人は真っ当に働いてもらうように手配したぐらいで、他の奴隷達は解放済みだ。


 売りも無理矢理させられていた人は自由にして、薬は処分した。


「……これ、エルが止めた所で──他でまたやられるわよ?」


 そうなんだよな……俺がしなかったら他が利権を求めてやってくる……。


 簡単なノリで潰したのに後処理の方が大変なんだよ……。


「エル君の友達に相談してみたらどうかしら? まぁ同類なら進歩無しだけど……」


 フローに相談しようにも元三光のおっさんと同類だったらどうしよ? ってなっていて未だに会いに行けていない。


『子孫よ、会いに行かねば始まるまい? という事で行けっ! 俺は暇だっ!』


 初代は今の状況がつまらないせいで、ずっとこの調子だ。


 そりゃー、フローに会って確認するのが一番手っ取り早い気はするけど……会いに行って襲われたらどうすんだよ!?


『そんなもん潰せっ! 訓練の成果出して来いっ!』


 ……他人事だと思って……。



 ドア越しに声が聞こえてくる。


「ボス! お客様です!」


 この屋敷にいる人は皆が俺の事をボスと呼ぶ……執事もメイドもだ……勘弁してくれ……。


 この世界の執事やメイドは主を『ボス』と言うのが普通なのか?


「誰?」


 やたら滅多と人が会いに来るな……新しい三光に媚を売る為に皆必死なのだろう……。


「三光のフロー様です!」


 ……ここでフローか……。


『出向く手間が省けたな』


 そうだね……まぁ、ここならミレーユ達が守ってくれるだろ……というかフローだけならそんな心配もいらないか。


「ここに案内してくれ」


「はっ! 了解ボスっ!」


 あの元三光のおっさんって絶対、前世で言う極道とかマフィアだよな……。


 俺の想像していた三光ってもっとこう成り金的なイメージが強いんだけど……。


 しばらくすると、フローがメイドさんに案内されて部屋にやってくる。


「この間振りだね。とりあえずそこに座ってくれるかな?」


 俺は高級そうなソファーに座るように促す。


「エル……いつの間にか新しく三光になったと聞いたぞ……何をしたらそんな事に……」


「成り行き?」


「成り行きで街のトップの一人になれるか!」


 ごもっとも……。


「でも、フローも三光じゃないか」


「僕は最近、親から引き継いだだけだからね……実力は無いよ」


 そうなんだ。なら似た者同士だな!


「ちなみに三光って何するの?」


「三光は基本的には特に無いかな? 今は街の運営は僕達、三光が雇った優秀な人材で構成された評議会が行っていて、そこに顔出しして意見言うぐらいかな? 基本的に三光は各々のギャンブルで今は大まかに分かれているんだよ。僕であればレースやくじ、君はカジノってね? 他は闘技場だね」


 へぇ、三光ってギャンブル別になっているのか……つまりその道を統治した人──栄光を掴んだ三人って事なのね……。


「三光の力関係はどうなってるんだ?」


「……順番的に闘技場を受け持つゴウキ、カジノを受け持つ君の順で強い。次いで僕だね」


 ……フローより強いのか……。


「……そうなのか……あのおっさん悪い事ばっかしてる証拠しかなかったんだけど?」


「そうだろうね……ゴウキと二人で悪い事しかしてなかったよ。目を付けられたら同じ三光である僕でも面倒臭い事になる──まぁ、そんなわけで僕は新しい三光である君に三光として挨拶しに来たのさ」


 という事はフローは少なくともまともに運営しているんだな。


「……フロー、俺達──友達だよな? 頼み事があるんだ……」


「ん? もちろんさ! それに昔の恩人でもあるんだ! 何でも言ってくれ!」


 ……全く覚えてない……きらきらした目がとても心に刺さるな……。


 昔の俺はいったい何をしたんだろうか?


「フロー」


「なんだい?」


「俺の利権全部あげるから後頼んだ」


「……無理無理」


「友達だよな? 昔の恩もあるって自分で言ってたよな? 俺もう、この事務処理嫌なんだよ……金も別に困ってないんだよ……」


「ふふっ、君ぐらいだよ。そんな事言ってるのは。本当は助けてあげたいけど──僕だと無理だよ……ゴウキはここぞとばかりに僕にターゲットを絞って──絶対に覇権を握る事になる。それは街の人は望んでいないんだ……」


「なら、そのゴウキなんとかするから情報くれ……」


 もはや、なりふり構ってられん。俺は旅に出たいんだよ! そして、この事務処理から解放されたいっ!


 連日の寝不足で無駄にテンションが上がってるから──怖い物なんて無いっ!


『ぶっ潰せぇぇぇっ!』


 初代も乗り気だ。ミレーユとメリルさんも頷いている。


「簡単になんとかするって言ってるけど、かなり武力はヤバいよ? さすがに街の兵力までは使えないけど、ゴウキは個人で街1番の武力を所持しているからね。なんせ闘技場を運営しているから……。闘技場での賭けは一般枠、そして奴隷枠がある。奴隷は君の前人から買っていたみたいだ。それだけに強い人ばかりで危険だ。父さんも闇討ちで殺されている……僕はなんとか無事だったけど──そのうち殺されるだろうね」


 まさか、セリアさんもそっちの奴隷なのか? 俺の方のリストにはなかったからそれしか考えられないか。


 やる事が増えたな。


「……なるほど。俺が仇をとってやる。そしてフローも助けてやる……友達だろ?」


 この業務から解放されるのであれば、俺が仇の一つや二つぐらい必ずとってやる!


 友達だからな!


 俺の数少ない!


 セリアさんも気になるしな!


 セリアさんの弟のノアも気になるしな! 同い年の親友だからな!


 セリアさん助けたらまた会いたい。


 なんせ数少ない親友だからな!


 大事な事だから何度でも言うぞ!


『友達少なくね?』


 うっさい!


 友達は数じゃない! 質だ!


 広く浅くじゃなく、狭く深くが俺の主義だ!


「無理しなくて良い。本当危険なんだよ……手段を選ばない。──というか何故、エルは三光になってるのかな?」


 正直に言うと──その内ゴウキとかいう奴もなんらかの接触をしてくるだろう。もうここまで来たら後戻りが出来ないから一緒だ。


 俺はとりあえず三光になった事情を話す事にした。


「……エル、君ってやっぱり凄いんだね……あのイカサマの達人相手に勝つなんて普通出来ないよ……」


 そんな感想が来た……確かに結果だけを見ると俺は勝っているので何も言い返せない。勝ち方はどうであれ……。


 そんな感じで後はたわいも無い会話をしてお開きになった。


 俺の前任はイカサマは凄いようだったが、経営や運営をする程の力はないらしく、全てこの屋敷にいる部下に任せていたと聞いたりした。


 この山積みになってる仕事もその人に任せようと思う。


 さぁ、明日から情報収集だな。

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