第74話 俺は己を賭け、【叡智】は名を賭ける
この世界は前世の物がたまにある。やはり転生者や転移者がいたのだろう……会った事無いけど……。
ブラックジャックもポーカーも前世の記憶にあるゲームだったはずだ。
両方ともトランプを使ったギャンブルの一つだと認識している。
ブラックジャックだが──
ディーラーとプレイヤーにカードが配られ、その合計値が『21』に近い方が勝ちというカードゲームだ。
ルールも簡単で、なるべく21に近づけ、21を超えないようにカードを引くことが基本ルールでブラックジャックの流れは──
2枚ずつカードが配られ、自分のカードの合計値が21に近づくよう、カードを追加したり、追加しないかを決める。ちなみに絵柄は10、エースは1or10で使える。
そして、カードの合計値が21を超えてしまった時点で、その場で負けが確定。
プレイヤーはカードの合計値が21を超えない限り、好きなだけカードを追加でき、ディーラーはカードの合計値が17を超えるまでカードを追加する──
というものだったはずだ。
店側の人間である三光のおっさんはディーラー、プレイヤーは俺だ。
勝率が0%と【叡智】に告げられた時点で相手はイカサマをする気満々だろう。
しかし、先程【叡智】は──
[こんなの余裕だし? というかこんなの負けたら叡智の名前捨てるし?]
と堂々と文字を表示させていた。
ギャル風の文字に俺は少しイラついたが、なんとかしてくれるらしいので俺は我慢する事にした。
そして、一世一代のギャンブルが幕を開けようとしている。
ちなみに、勝負する為に移動する際には仲間全員が騒ぎを聞きつけて近くに来ている。
賭けの内容を知った時──
何故か皆から謝られた。
理由を聞くと、自分達が俺を押し切って店を潰そうと行動したからだと言う。
確かに! と思ったが、それは口に出さずに「わかってた事さ……」と適当に返事をした。
わかってたのはこの勝負の事じゃない。人身売買をしているような連中を相手にするんだ……絶対に面倒な事になるのがわかってたんだ……この勝負は俺の中では最悪なケースの一つだが。
だが、俺の事は誰一人心配はしていなかった。
どうやら俺を信じてくれているようだ。
そんな俺は現在、胃痛が酷くて穴が空きそうだが……。
目の前には三光のおっさんが俺を睨み付けている。
本当、勘弁してほしい。
「これにサインをしろ」
話しかけられたと思ったら【契約魔法】の施された『契約書』を差し出された。
中身を見ると──
・ブラックジャックで俺は己とここでの勝ち分を、三光のおっさんは全財産を賭ける。
・勝負は一回のみ。
・負けても文句を言うな。要は終わった後も手出し無用という事だ。
簡単に言うとこんな感じだ。
特に問題は無い──
[条件を一つ付け足して下さい。『気に入らなかったらカードの配り直しをする』と理由付けで──]
はいはい。
俺は【叡智】の文字通りに話す。
「おっさん、フェアにする為に一気に二枚配る所を一枚にして──気に入らないと思ったカードが来たら勝負を流すけど良いだろ?」
「……わかった」
『契約書』に文面を足してもらい、サインをする。
通常は勝負を降りる際はベットした半額を渡さなければならないが、
今回は特殊ルールだ。一回の勝負で全てが決まるので俺の条件は飲まれたのだろう。
これで後戻りは出来ないな……。
しかし、これで勝てるのだろうか?
俺は心底不安なんだが……俺にはイカサマなんて見抜く力は無いぞ?
[ヘタレは大人しく従っとけ]
……態度がでかい……しかし、こいつに従わないと勝てないだろうし、従う他ない。
『子孫よ、黙っていたが──正直眠いから寝る。起きた時に奴隷になってたら笑ってやるからな』
初代がさっきから黙ってたのって眠いからなの!? 亡者に睡眠が必要とは……。
「では──始める──」
初代とやり取りをしていると、カードが一枚ずつ配られる。一応、おっさんの手元をガン見しているが、イカサマをしているのかさっぱりわからない……。
手元に来た俺のカードはエース。おっさんは7だ。
カードは公開されている為、周りでは俺が勝負するだろうとこそこそ話をしている。
通常であれば間違いなく、このまま勝負するが、【叡智】からの指示は──
[サレンダー]
勝負降りるのね? 本当に? これで絵柄か10が来たらブラックジャックなんだけど?
[そんな未来は来ません。さっさと降りろ、このカス]
……はい。
「サレンダー」
──!?
周りの人はまさかのサレンダー発言でざわつく。
まぁ、普通の反応だろう。
ヘタレと聞こえてくるが、俺は指示通りに動いただけだから心が全く痛まない。
その後、数十回とサレンダーをし続ける。
いつまで経っても【叡智】の『サレンダー』のコールは止まない。
その為、俺もずっと言い続ける。
周りも罵倒しだしているし、目の前のおっさんも切れかけている気がする。
ちなみに俺は全く気になっていない。
王都で身に付けた鋼の精神はここでも役に立っているな……人間どこで何が役に立つかわからないものだ。
ブラックジャックで行われる主なイカサマは、セカンドディールとマーキング、ショートデック、シャッフル、カード拾いだ。
目の前のおっさんはこれのどれかを行っているはずだ。
現在は5や6などの微妙な数字が来ている事からカード拾いをしているのだろう。
要は捨て場からカードを拾って山場に戻している。
そのせいで、ろくなカードが来ないな……。
たまにお互いに10や絵柄が来てもサレンダーの指示が来るという事はセカンドディールで一番上のエースを自分に配るつもりなのだろう。
なんともカードテクが凄まじい。
全くイカサマをされているのかわからない。
いつになったら【叡智】は動くのだろう?
[もうすぐですよ。もうすぐ──来ましたね。コールです]
──!?
シャッフルされ、提示されたカードはお互いにまた10だった。
「いつまで逃げるつもりだ?」
「いや、もう十分だ。勝利の女神が微笑んでくれたからね?」
女神かどうかも、男か女なのかもわからないけどね。
「ふん、これでお前は俺の物だ──」
「男に好かれても全く嬉しくない。さっさと配れ」
「ちっ、ほら」
伏せられたカードが来る。
俺は少しめくって確認する。
数字は──
[自信満々に笑顔でストップと言いなさい]
「ストップだ」
これだけを見ると周りは良いカードが来たと思っているだろう。
俺はカード見れなかったけど……。
きっと【叡智】には何のカードが来ているのかわかっているに違いない。
[そんなもんわかるわけないでしょうが]
──えっ!?
おっさんは自分のカードを配る──
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