第73話 三光

 あれからしばらく時間は経過し、三カ所で歓声が上がっている。


 皆、調子が良いようだ。


 しかし、これだけ勝って出禁にならないのは不思議だな……やはりバックが大きいのか?


[イカサマがわからなければ出禁になる事はありません]


 なるほど……やりたい放題だな。



 ちなみに俺はというと──


 ひたすら【疾走】と【隠密】スキルを使い、さりげなく声をかけられる前に黒服の兄さん達から逃げている。


 完全に俺がロックオンされたようだ。


 カレンさんが大きな声で『白銀の誓い』って言っていたからね……間違いなく、下調べをした上でリーダーである俺と接触したいのだろう。


 ろくな事にならない気がするので関わりたくない。


 何やら黒服の人から声が微妙に聞こえてくる。


「まだ接触できんのか!?」


「早すぎて無理です……」


「このままだとここは潰れて俺達はクビだぞ!」


「……俺まだ子供が小さいのに……」


 どうやら潰れるぐらい皆が勝っているようだ……。


 ただ、最後の言葉に胸が痛む……。


 店を潰すという事は働いている人達は路頭に迷う事になるんだよな……。


 どうしよ?


『きっと……子供は貧しい生活を送り……満足に食べれなくなり──死んだらお前のせいだな。これが英雄である俺の子孫か……』


[人の人生を狂わすとは……畜生ですね]


 言いたい放題だな!


 そもそも、向こうが人生狂わせてるのもあるだろ!?


 どうすりゃ良いんだよ!?


[はぁ……私の知恵を貸しましょう。とりあえず接触したら良いです]


 それはもはや知恵でも何でもないだろう……。


 とりあえず言う通りにして俺は動かず停止する。


「目標停止中です!」


「むっ、確保だっ!」


「「「了解」」」


 まるで犯罪者のような扱いだ……。



 近付く男達に対して先に声をかける。


「何か用ですか?」


「……あの……少しお話をよろしいでしょうか?」


 凄く低姿勢で驚きを隠せないんだが……。


「いいですよ? ここでよろしいですか?」


 向こうが礼儀正しいなら俺も礼儀正しく返そう。


「はい、ここで大丈夫です。あの人達って貴方のお連れ様ですよね?」


「そうですね」


「ここら辺で止めて頂く事は出来ませんか?」


「……無理です。貴方たちが行った行為はこれよりもっと酷いですよね? 何人の人が絶望されましたか?」


「──……そう……ですね……」


 自覚はあるのか……。


 この人達は上から命令されているのだけだろう。逆らえないのもわかる。


 このままだとこの人達の未来は暗いのは確実だ。


 なんとか上だけを潰す事は出来ないだろうか──


 そうだ!


「というわけで俺が仲間を止める事はありません。しかし──一番偉い人を呼べば止めるかもしれませんよ?」


「──わかりました。少々お待ちを」


 走り去って行く黒服の人。


 何人かは俺が逃げないように見守っている。


 俺の作戦は──要は偉いさんと話をつけましょうって事だ。


 いくら金持ちでも──ここを破産させるぐらいの金があれば多少の交渉ぐらいは出来るだろう。



 しばらくすると、豪華な服を来た壮年の男が現れる。


「お前が──元『銀翼』のか……使えなさそうだな。このキンブリーのであるわしをここへ呼んだ理由は? つまらん事だとぞ?」


 物言わせぬ迫力で見下し、俺に話しかける男。既に俺の情報を知っているようだ。


 それより──三光? なにそれ?


【叡智】さぁぁんっ!


[現在、キンブリーをまとめている3人の内の1人です]


 ……まさかの大物が釣れてしまった……複数人で運営してるんじゃないの??


[少し前までは10人程いましたが、血生臭い出来事で3人になりました]


 ……要は派閥争いみたいな事があったのだろう……。という事は……フローも三光という事か……若いのに凄いな。


 しかし、脅されようが──


 ここで引く事は出来ない。


【叡智】の指示通りにしたが、どう考えても相手が悪い気がする……。


[わくわく]


 こいつ……お前の言う通りにしたらえらい事になってるんですけど!?


「ここは貴方の店ですよね? このままだと、貴方の店は大赤字ですよ? そんな態度で良いと思ってるんですか?」


「……おいっ、そこのお前、赤字はどれぐらいだ?」


 三光の1人は近くの黒服に命令する。


 現在、自分の店がおかれている状況を聞いているのが俺の耳に入ってくる。


「ふむ……なるほど。それでお前はわしを呼び出してなんの用だ?」


 態度を改める気はなさそうだな。なら俺も態度を大きく行こう。


「もちろん交渉だな。おっさんは赤字を減らしたければ──今後は無理矢理奴隷落ちさせたりするような事をやめれば俺はここらへんでやめてやる。普通に営業するだけで良いだけだし、問題ないだろ?」


 ぴくぴくと眉を動かす男。


 俺は下手に出る事はない。交渉とはあくまで対等で行う事だ。そう父さんから教えてもらっている。


 仮に相手が武力を持っていたとしても俺達であれば対応出来るだろう。


 こういう荒事も父さん達といた時に何度も体験しているからな。


 父さんからのアドバイスを思い出そう──


『交渉に大事なのは、その場の主導権だ。相手に対して対抗出来る為の手段がいくつもあるのであれば──片っ端から何をしても無駄である事を遠回しに悟らせろ』


 そんな事を言っていた。俺も常々そう思う。王都で商人相手に騙された時は苦い思い出だ。あの時に相手にもっと俺が出来る事を明確にして、優位に立てていたのであれば結果は変わっただろう。


 レシピだって、他にもあったのだ。後から嫌がらせに使うよりも交渉で提示して相手に俺の価値をわからせていたら違う未来があったのかもしれない。



 現状、俺が出せるカードは──


 こいつの損害を減らしてやるぐらいだが、金額が膨大なだけに無視は出来ないはず。


 仮に実力行使をしても下調べぐらいはしているはずなので、俺達の行って来た事を知っているなら下手に手出しはしないだろう。


 なんせオーランド王国では英雄扱いだからな!


 俺は全く望んでなったわけじゃないけど!


「……俺のメリットが一切ないな。別に金ぐらい損失してもまた増やせばいいだけだ。『白銀の誓い』だったか? お前らも後で処理すれば問題無い」


 予想通りの返事が来たな。だが、俺も守りは完璧だ。父さんのやり方で行こうと思う。


「メリットね? 俺と知り合いになれるだけ──光栄だろう? 俺達に手を出してみろ。お前に明るい未来はやって来ない。確実にだ」


 俺は普段滅多に使わない【威圧】スキルを使用し、信憑性を持たせる為に【演説】スキルでこの場を支配する。


 周りは冷や汗を流しているし、目の前の三光の男もたじろいでいる。


 実は俺って交渉向きなんじゃなかろうか?


 まぁ、ほぼ父さんの真似をしただけなんだが……父さんの威圧は人が失神してたからな……。



「──つまり、引く気はないんだな?」


「引く理由が無い。俺も仲間に手を出されて黙っている程優しく無いからな。このまま破滅するか?」


「中々肝の座った奴だ……錆──いやエルだったな……俺にはそれなりに私兵がいる。しかも全てAランク相当のだ」


【叡智】──


[真実です]


 ……なんてこった!


 間違いなく総力戦になるじゃないか!


「……何が言いたい? そいつらを使って襲うのか? 別に俺は構わないぞ? 俺の仲間はSランク級が2人いるし、他はAランク級だ。きっとお前は破滅するな」


「ちっ、脅しには屈しぬか……ならば勝負しようじゃないか。わしは全財産、お前は己を賭けろ。このまま負けが込めば──どうせ、わしは全力で叩き潰さなければならん。ならばお互いに全てを賭けようじゃないか。お前が勝てば──お前の望み通りになるだろう。キンブリーでわしはこうやってのし上がって来た。お前もわしの元に平伏せさせてやるわ」


 ……俺自身をチップにするって事か……。


 それより、勝負って……何するんだよ……。


[わくわく]


 お前、そのわくわくっての止めろっ! そして空気読めって!


 絶対こうなるのわかってただろ!?


[これが一番穏便な終わり方ですよ? 総力戦になれば──誰か傷付く可能性があります。暗殺者だって来ます。下手すれば誰か死ぬ事だってあり得る]


 ──!? 受けるしか無いか……。


「──勝負は何をする?」


「──ブラックジャックだ」


【叡智】、勝率は?


[現段階で0%]


 なにその数字……明らかにイカサマする気満々じゃないか……。


 お前なんとかしてくれよ!? 俺はギャンブルとかやった事ないんだからな!


[ふっ、ついに──力を見せる時がやってきましたか……]


 なにその思わせぶりな台詞は!?


 マジ頼むぞ!


「わかった──」


 こうして、俺と三光のおっさんは全てを賭けたギャンブルをする事になった。


[さぁ、伝説の幕開けだぁぁぁぁっ!]


【叡智】よ……本当頼むぞ?


おふざけとかいらないからな!




────────────


分けるのにも中途半端で少し収まりが悪くて長くなりました。


今章ではまだこれで1/3ぐらいだったりします。

ストックはありませんが、更新を続けられているのは皆様の『応援』の賜物です。


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