第71話 賑わいのある場所には──

 こういうギャンブルにはイカサマがつきものだったりする。


 皆が鴨になってないかが心配だ。


 そんな事を思いながら歩いていると──


 何やら盛り上がっている場所を発見する。


 ルーレットの場所だ。


 ルールはよく知らないが、数字の書かれた専用の板に小さいボールが入った場所が当たりで、ルーレットが始まると同時にその数字を予想するゲームだったはずだ。


 近付くにつれ見知った顔を発見する。


 メリルさんだ……。


 白いドレスを着こなしたメリルさんはワイングラスを片手に足を組み、片目を瞑りながらお金で交換したであろうチップを番号に置く。


 ルーレットが止まると同時に歓声が上がる。


 メリルさんの一人勝ちだ……。


 歓声の中には「もう20連勝じゃねぇか!」という声もある。


 勝ちすぎだろう……。


 よく見ればチップが山積みされている。


 更によく見れば濃い紫のドレスを着たミリーさんが隣で正座している。


 うん、あれは敗者の顔だな……負けてお金が無くなったのかもしれない。


 メリルさんの命令に素直に従っている……。


「メリルさん……」


 俺は声をかけてみる。


「あら、エル君! 待ってたわよ? 皆エル君に良い所見せる為に頑張ってるわよ? この子は負け犬よ」


 やはりミリーさんは負けていたか……。


「そ、そうなんですね。程々に──「7番! オールチップよ!」──オールチップ!?」


 ゲームが始まったようでメリルさんはチップを賭ける為に声を出す。


 まさかのオールチップ!? まさかずっと全賭けで勝ち続けていたのか!?


「エル君? このお金で貴方を買うわ……夜は空けてなさい……うふふふふ……」


 鳥肌がヤバい……酒も飲んでるせいかいつもより押しも強い気がする……とても妖艶で見惚れるような美しさではあるのだが……怖い。


「──!? 7番……です……」


 ディーラーさんの言葉に再度歓声が上がる。


 マジか!?


 どうなってんの!? こんな簡単に当たるものじゃないだろ!?


「うふふふ……エ〜ル〜くぅん──いない!?」


 俺は【疾走】スキルを使用して、そそくさとその場を後にした。呼ばれた気がするが気のせいだろう。



 しばらく歩いていると、場所がある事に気付く。


 カードゲームの場所だ。賑わいはあるが一ヶ所だけお通夜みたいな雰囲気が出ている……。


 近付くと──


 いたのは薄い青色と白を基調としたドレスを見に纏ったミレーユだ。


 ミレーユはどうやらカードゲームをしているようだ。


 5枚の手札から察するにポーカーという奴だろう。


 この世界にもポーカーやブラックジャックはあるのは父さんが昔に教えてくれていた事から知っている。


 ミレーユの席にはこれまた大量のメダルが置いてある。


 そして、よく見ると──


 その横には真紅のドレスで正座しているカレンさんがいた。


 あれはミリーさんと一緒なんだと即座に理解した。


 きっと反省させられている途中だろう……。


 声がかけにくい……。


 しかし、ここは勇気を持って話しかけようと思う……。


「ミレ──「レイズ」──……」


 ミレーユの上乗せの言葉に俺は声が止まる。


 今は真剣勝負の最中だ。ミレーユが俺に気付かないぐらいだし、邪魔は出来ない。


 ミレーユを見詰める──


 微笑を浮かべて全く表情が読めない!


 果たして、この上乗せはフェイクなのかさえも不明だ!


「……レイズ……」


 ここで、相手もレイズ!


 ちなみに相手はどこかの富豪っぽい人との一騎打ちだ!


「「──ショーダウン」」


 2人でカード公開の合図をする。


「フルハウスよ」


「スリーカードだ……ちっ、あんた強いな……名前は?」


「当然よ。私は『白銀の誓い』のミレーユよ」


「……覚えておこう……」



 結果的にミレーユの勝利だが……なんだこの空気……。


 ポーカーのルールは前世で言う、テキサスポーカーだ。


 フォールド=勝負を降りる

 チェック=賭け金をパスする

 コール=右隣の人と賭け金を同じにする

 レイズ=賭け金を上乗せする


 いずれかの、アクションを行う。


 確か順番とか色々と細かいルールがあったはずだが、ここでは省く。


 主なゲーム性としては表情を読み取ったり、駆け引きが物を言うゲームだったはずだ。


 状況を見るに──


 完全に周りは負け犬の雰囲気でミレーユの一人勝ちのようだ。


 カレンさんも微動だにせずにいる。


 きっと容赦ないミレーユに恐れをなしているのだろう。


 そして、ミレーユは俺には気付いていない。



 やはり、フレアと2人でもう一度来ようと思う。


 このお通夜みたいな空気の中に入るのはハードルが高すぎる。


 俺は【隠密】スキルを使い、そっとその場を後にしてフレアのいた場所まで戻ると──



 フレアの周りはメダルだらけになっていた……。


 どうしてこうなった!?


 シロガネは出続けるメダルを一ヶ所にまとめている。


「フ、フレア? これはいったい?」


「お、お兄ちゃん……なんかメダルがいっぱい出てくるのです……止まらないのです」


 ジャックポットか……つまり大当たりだ。


「凄いじゃないか! さすがフレアだ! これでフレアは大金持ちだな!」


 レートの一番高い奴をと記念にさせたのだが、まさか当たるとは……。


 しかし、そんな簡単に当たるものなのか?


 そんな事を思っているとシロガネから念話が来る──


『主よ、我に任せればこんなもの余裕だ』


『何が!?』


『主の説明から察するに、数字をに揃えたら良かろう? 【念動】で1発だったな。それを何回かしたらこの有様だ。これで金に困る事もなく、我の食事も大丈夫であろう? 食い扶持は稼いだぞ?』


 つまり──これは……。


『これは子孫が懸念していたイカサマという奴だな』


[おまわり──いや、衛兵さーん!]


 ……おい、やめろ!


 俺は何も悪い事はしていない!


 しかし、今更バラすと厄介そうだ……最悪、詰所行きだろう。


 ヤバい……胃に穴が空きそうだ……。



 人間知らなくて良い事ってあるんだな……。

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