第70話 昔のあだ名

 フローと友達になり、俺はシロガネと共に歩いて宿屋に向かっている所だ。


 馬車はどうしたのか?


 さすがに災害級のフェンリルが街中を歩くのは拙いらしく──フローが心良く運んでくれると言ってくれたので任せた。


 ここまで良くしてくれると後で何か要求されるのではないかと思ってしまうのは俺の心が汚れているからだろうか?


『人の好意は素直に喜べ、このぼっちが!』


[これがぼっちの弊害か……]


 こいつらはさっきから本当に失礼な奴らだな!


 ぼっちぼっち煩いわ! それに俺には仲間がいるだろ!?


 それに友達は少ないけど、俺にだって親友がいるんだぞ!


『主よ、こっちだ』


 シロガネの『念話』が来る。


 シロガネにはフレア達の匂いを辿ってもらい、案内してもらっている。


 今はこいつの方が癒しだと感じてしまうな。見た目がだが……。


 実際の所は飯、飯と煩いから初代達とそんなに変わりは無い……。



「ん? 見た顔だな? ──か?」


 歩いていると──ふと、そんな声が聞こえてきた。


 間違いなく俺の事だろう……。


『銀翼』にいた頃、俺のあだ名がだった。


 銀に錆、翼に泥を付ける足手まとい──


 そう言われていた。


 弱い俺が『銀翼』にいる事に苛立ち、嫉妬されて付けられたあだ名だ。


 そのあだ名で呼ぶ人は間違いなく俺を知ってる人だ。


 俺は声の方向に視線を送ると、茶髪でツインテール、茶色の瞳で俺を見据える、露出の激しい服装で曲刀を2本携えた女性がいた。


 Aランク冒険者──


【舞姫】セリアさんがいた。


 実力はSランクだが、自由気ままな性格で昇格には興味が無い人で有名だ。


 5年ぐらい前に彼女がBランクぐらいの時に出会っている。


 セリアさんと目が合う。


「お久しぶりです」


 とりあえず、俺は挨拶をする。


「でかくなったな……。お前──こんな所に観光でもしに来たのか? 有り金無くなるぞ?」


 実は彼女とはそんなに仲は悪くはない。ただ口が悪いだけだったりする。俺の名前は覚える気がないのも知っている。


「観光──みたいなもんですね。少しここに尋ね人がいるので寄りました」


「そっか……見つかるといいな……。一つだけ忠告しておく。ギャンブルは身を滅ぼすぞ? のめり込むなよ? そうすれば──「セリア! 時間だ!」──ちっ、錆っ! お前は決してノアみたいになるなよ……じゃぁな!」


 会話の途中に黒服を来た人から呼ばれ、そのまま去るセリアさん。


 ──!?


 去り際、胸にが見える。


 何故奴隷に!?


 ノアみたいに──


 その言葉が俺の胸に残る。ノアは俺の数少ない友人──いや親友だ……ここにいないのか?


 いったい、何があったんだろうか?


 彼女は言動は荒々しいが性格は真面目だ……何故──


 俺はシロガネの後ろについて行きながらそんな事を考える。



 しばらくすると、背後から声がかかる。


「お兄ちゃん見つけたのです! 宿はあそこなのです!」


 フレアがいた。


 どうやら、フレアの指差す方向に見える大きな建物が宿屋なのだろう。


 間違いなく一泊で金貨は普通になくなりそうだ高級宿だ。まぁお金の問題は無いからいいんだけどさ……。


 それよりも最近よく思うのが、フレアは目が見えないはずなのに俺の位置を正確に把握し過ぎては無いだろうか?


「フレア! お兄ちゃんは無事に帰って来たぞ!」


「さすがお兄ちゃんなのです!」


「ふっ、お兄ちゃんはこらぐらいの事なら切り抜けられるさ! それで──皆は?」


「皆は遊びに行くって言ってたのです!」


 ──なんだと!? 行動が早い!


「どこに!?」


 って分かりきっているんだが……場所がという意味で聞いている。


「宿屋の地下に行くって言ってたのです!」


 この宿って地下にカジノがあるのか!?


 俺も向かうか……というか──


「フレア、その格好はどうしたのかな?」


 フレアは白とエメラルドグリーンを基調としたフリルの付いたワンピースを着ていた。


 とてつもなく可愛さを引き立てている。


 ぎゅっとしたくなるぐらいだっ!


 お兄ちゃんの胸が張り裂けんばかりに鼓動が凄い事になっている!


 うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!


 何でフレアはこんなに可愛いんだぁぁぁっ!!!!


『……お前心臓破裂させて、そのまま一回死んで来い……』


[不治の病発動中──]


『主よ……念話でキモい事送ってくるな……』


 初代、【叡智】、シロガネの順で俺に言いたい放題言ってくる。


 おっと、まさかシロガネに念話までしているとは……。


 きっと、フレアの素晴らしさを無意識に知ってもらいたかったのだろう。


「この服は前にミレーユから買ってもらったのです! 似合ってるのです?」


 きっと買ったのは以前、俺に着いて来るなと言われた時だろう。


「凄く似合ってるさ! まるで天使が舞い降りたかと思ったよ!」


 うちの子は本当、天使だなぁ……俺の言葉に頬を赤らめて照れてる姿なんて滅多に見る事がないから超絶嬉しい!


 これで俺は苦しくても、しばらくは生きていける!



 しかし、身なりを整えて行かないとダメっぽいかもしれないな。一旦中に入るか……。


 あと、シロガネは普通に入れるんだろうか?


 最悪、従魔専用場所に飯渡して放り込むか……。


 と思っていたら、ミレーユがちゃんとしていてくれたみたいで普通にシロガネは入って良い事になっていた。


 受付の人の顔が引き攣っていたので、どんな交渉をしたのか非常に気になったが、触らぬ神に祟りなしと思って、そのまま一旦部屋に行き、清潔な服装に着替える。


 そして、そのままフレアとシロガネを連れて地下にあるというカジノに向かう。



 扉を開けると、金を持ってそうな人達がルーレット、カード、スロットらしき物で遊んでいる。


「何かよくわからないのです……」


 目が見えないフレアには初めての事でわからないだろうな……。


 俺も初体験でよくわからないが──


 あのスロットらしき物はきっと前世にあった奴とそんなに変わらないだろう。どうやって動いているかの方が気になるが……。


「フレア、あそこに行ってみよう」


 俺はスロットらしき物が並んでいる場所まで行く。


 見ていると──どうやら、お金を専用のメダルで交換してそれで動くようだ。


 メダルを入れて、レバーを叩き絵柄が揃ったらメダルを放出するようだ。


 これならフレアでも出来るだろう。


 どうせなら思い出の為にレートの高い方にするか……金はけっこうあるし。


 交換所でメダルに交換し──


「フレア──ここにメダルを入れて──」


 フレアに簡単に説明するとも何故か一緒に頷く。


「──フレアやったるのです! お兄ちゃんに良い所見せるのです! えいっ」


 メダルを入れてレバーを叩くフレア。


 うんうん、我が妹はやはり可愛いな。


 シロガネに護衛を頼んで、メダルの麻袋を渡した後は皆を探す為に店内を移動する。


 セリアさんの言葉も気になるし、相談したい。

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