第69話 偉いさん現る!

「……何故か一応聞いても?」


「……いや、そこにいる魔物は災害クラスだろう? 従魔であっても危険が無いか確認が必要だ」


 ですよねー。


 衛兵さんはシロガネを指差して、そう言ってくる。


「えっと、全員ですか?」


「いや、そこの──従魔と、その主だけで良い」


 と言う事は俺とシロガネだけか……。



「……わかりました。──皆は宿で待っていてくれ」


「「「了解」」」


「お兄ちゃんは来ないのです??」


 フレア以外は理由がわかっているので素直に返事をしてくれる。


 こういうのは従魔持ちの冒険者だとよくある事だ。


「フレア……この人達は衛兵さんで、さっき言っていた通り──シロガネが街を害するかどうかの確認をするんだよ。大丈夫だとわかれば、お兄ちゃんは後から行くから宿屋で待っていてくれたらいいよ。そう、お兄ちゃんは怪しくもなんとないんだ。無実だから大丈夫──」


『ええから、はよ行け』


 初代、今フレアと感動の別れをしようとしてるんだ! 邪魔をするなっ!


 と思っていると──


「はいはい、じゃあ着いて来てくれるかな?」


 衛兵さんも、ほぼ同じタイミングで話をぶった斬る。


[妹愛が強すぎる件について]


 ぐぬぬ……。


『主よ、こいつら蹴散らしていいか?』


 こいつら……俺の精神を殺しに来てるな……とりあえず【叡智】はスルーだ!


『シロガネっ! 絶対暴れるなよ!?』


『つまらん……』


 いや、面白くなくていいから!


 とりあえず身分証の確認をした後、ミレーユ達とは一旦お別れをし、俺とシロガネは衛兵さんについて行く。


 そして、俺達は何故か一室に案内されずに何故か訓練場みたいな広場にいる。


 シロガネがでかいせいだろうと思いつつも嫌な予感がする。


[面白くなりそうだッ!]


 おい、やめろっ!


『シロガネ……小さくなってくれ……』


『承知』


 小さくなるシロガネ。


 これで中に入れてくれないだろうか?


「衛兵さん、これで部屋に入れると思うんですけど……こういうのって普通、中でやりますよね?」


「いや、余計に入れられなくなった……【変化】スキル持ちだろう? 危険度が高くなった」


 うん、どっちにしろ中には入れなかったらしい。

 それも当然か……世の中何が起こるかわからないしな。


 初めから小さくしてれば入れたのだろうけど……馬車のせいで無理だったな。


「……ですよね!」


「という事で──偉いさんがお前と会いたいらしいからここで少し待ってろ……」


「……え? 何か俺の知ってる取り調べと違うんですが!?」


「いや、最初はそのつもりで連れて来たんだけどな……報告を上げたら途中でそう言われたんだ……まぁ、身元は大丈夫だろ? そこの魔物の危険度もお前の言う事を聞いてるみたいだし問題ないだろうし……」


 身元が大丈夫なら普通に見なかった事にしてほしかったんですけど!


 ……ややこしい事になってきている気がするぞ?


 しばらくすると──


 身なりを整えた若い人がやって来た。


「待たせたね。僕はキンブリーの運営に携わっている1人、フローだ。あー、君の事は知っているから自己紹介は必要無い。短期間でAまで上り詰めた若き英雄エル君だろう? 今回はフェンリルらしき魔物を連れた冒険者と報告が上がってきた瞬間にピンっと来てね? 君と顔繋ぎをする為にやってきた。敵意も無いし、害するつもりも全く無い」


 凄い饒舌に話す人だな。


 災害級のフェンリルを従えている以上はこういう事はこれからもあるかもしれない。


 非常に迷惑で本意では無いが……。


 それ以上に気になるキーワードがある。何故か俺がAと言われている事だ……。


 俺は確かにこの間、本意ではないが──二階級特進をしてBにはなった……。


 だが、Aランクではないはずだ。


「それは光栄です。俺──いや、私はBランクですよ? 何かの間違いでは?」


「あー、いつも通りでいいよ。敬語も不要だ。冒険者にそれを求めるのは野暮だろう? Bランク? 僕の情報ではAランクと報告があったぞ? まぁ、良い。君の事は『銀翼』の頃から知ってるんだ……命を助けてもらったからね?」


 とりあえず、ランクの事は置いておこう。


 俺が命を助けたとフローは言っているが全く記憶にない……。


 カレンさんの事も覚えていなかった俺の記憶力に期待するのもあれだが……。


『銀翼』を知っている以上は俺の事を知っているのは間違いないだろう。子供だった俺が英雄パーティにいたというだけで有名だ。


 そもそも『銀翼』にいた頃はトラブルばっかりで細かい記憶などないっ! きっと父さん達が助けたのを勘違いしているんだろう。


『その年で健忘症か……』


[脳味噌ミジンコ]


 初代の声と【叡智】が表示させた目の前の文字を見て頬が引き攣る。


「……そうなんですね! とりあえず、仲間が待ってるんで行ってもいいですか!?」


 何事も無かったように俺は振る舞う。


 外野が煩くてたまらん! 早く行きたいっ!


「いや、君の安全は僕が保証しよう。街を入れるにあたって、一つ頼みがあるんだ……」


 偉いさんの頼み事か……。


「頼み事ですか……」


 俺は身構える。


「そんな顔をしなくても大丈夫だよ。ただ──君と友達になりたいだけさ……ダメかな?」


 肩透かしをくらったが、それぐらいなら良いだろう。


「……それぐらいなら……」


「本当かい!? いや、僕は友達少なくてね……」


 何か親近感が湧くな……俺も仲間はいるけど友達は少ないし……。


『似た物同士か……』


[ぼっちに仲間が出来たw]


 いや、お前ら本当やめてくれないかな!?


 けっこう、傷付くんだぞ!?


「えっと、フローだったよな? とりあえず、よろしく。俺も友達少ないから嬉しいよ」


 敬語は不要だと言っていたし、フランクに言ってみる事にした。


「あぁ、ありがとう! 憧れのと友達になれて嬉しいよ! 何か困った事があったらいつでも言ってくれ! あそこに大体いつもいるから!」


 どうやら態度は問題ないらしい。


 凄く嬉しいのだろう……雰囲気と表情で伝わってくる。これが演技なら俺は人間不信になりそうだ。


 ちなみにフローがいつもいると指差している方向には成り金趣味の金色に輝く大きな建物だった。


 内心、行き辛いと思いつつフローに別れを告げてフレア達の元へと向かう。

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