第68話 案内人

 さて、俺達の旅路はとても順調だ。


 国境を乗り越えて──


 既にいくつか国を渡り歩き、既に一月経過している。


『天眼』からはあれ以降、天からの攻撃はされる事はなかった。魔物の襲撃はあったけど……。


 やはり、悪口が原因だったのだろう。


 だからもう『天眼』の事は考えるのは止める事にした。


 目をつけられてるなら、その内会いに来るだろ……それまでに強くなれば良い。


 それに改良を重ねたスワロウ改も出来たしな……要は開き直りだ。


 俺ももちろん努力するし、皆と同じく訓練を(隠れて)しているが──


 近接では自衛で精一杯だっ!


 だけど、少しずつ強くなっているのも実感している。


 この間なんて、俺が剣だけでオークを一人で倒せたんだっ!


 これは俺の中では快挙だっ!


 フレアがその場にいなかったら、話を盛りまくって話したに違いないぐらいの激戦だった!


 その日の夜は赤飯を炊いたぐらい嬉しかったぐらいだし。



 さて、もうすぐ目的地のギャンブル都市『キンブリー』だ。


 この国はどこにも所属していない独立都市だ。


 他にも独立都市はある。商業都市、ダンジョン都市がそうだったりする。


 これらは王政では無い。


 簡単に言うと強さ、知恵などの実力や金、を持っている人達が複数人で運営している都市になる。


 前世で言う民主制と言えばいいのだろうか?


 それに近い運営方法である事は間違いはずだ。


『キンブリー』では博打で出来上がった都市。


 要はギャンブルで成り立っている。


 その力の入れ方は半端ないと聞いている。


 コイン、カード、ルーレット、レース、バトル──


 ありとあらゆる賭け事が出来るとミレーユ達から聞いている。


 俺は父さん達には連れてきてもらった事がないから少し楽しみにしている。


 フレアは見えないからあまり楽しくないかもしれないから、俺が面白おかしく教えてあげるつもりだ。


 俺とフレア、シロガネを除くメンバーはキンブリーに近づくにつれて士気が上がっている気がする。


 現れる魔物が彼女達の手によって瞬く間に屠られるのだ。


 それこそ魔物達は何が起こったかわからないだろう……。


 いつもなら俺が代弁しているところだが──


 今回は──


『ぐはっ』


[無念……]


 初代と【叡智】がこんな感じで俺の代わりに言ってくれている。


 こいつらはたまにノリが良い気がするな。初代も【叡智】もお互いを認識している気がする。


 まぁ、そんなこんなでもうすぐだ。


 もうすぐ、ゆっくり出来る。


 ギャンブル都市であれば食事もそこそこ美味いだろう。たまには俺も羽を伸ばしたい。


 シロガネのお陰でご飯作るのに少し疲れた……。


 材料が直ぐに無くなるから──


「自分の食い物ぐらい自分で調達して来い」


 と言ったところ……。


 がんがん討伐ランクB〜Aの魔物を運んでくる……。


 俺は顔面蒼白になった。


 何故か……それは【叡智】の羅列した文字が原因だ。


[……英雄まっしぐらなエル君に朗報だよ〜。その犬が狩ったのは、ばっちし討伐履歴に反映されているよん♪]


 そういえば、そんな話を調教師テイマー召喚師サモナーの人から昔聞いた事があった。


 正直、最悪だと思った……胃に激痛が襲ったのは言うまでもないだろう。やはり、俺の胃の具合的にも休暇が必要だ。


 はぁ……冒険者ギルドに行くのが怖い……。


 だけど、これぐらいなら別にAやSランクになんかならないよね?


 だって、俺は偉業を達成していないからな!



 そんな事を御者をしながら考えていると、目の前に何やら人影が見える。


 ……どこかで見た事がある顔だ……赤髪短髪で大きめの体格。そして見覚えのある背中の大剣……あれは俺が作った大剣だ。


 あいつは──


 Aランクパーティ『竜の牙』のリーダーである──クロムだ。


 にいるはずのあいつがここにいる事が謎すぎる。


「おっ、エルっ! やっと来たかっ! 待ちくたびれたぞっ!」


「……やっぱり、クロムか……何でこんなとこにいるんだ?」


「ん? そんなもんお前と会う為に決まってるじゃねぇか!」


「わざわざこんな遠い所まで?」


 あの距離を? どうやって──ってそういえば、クロムはだったな……。


 使役してるドラゴンにでも乗って来たのかもしれないな。


 きっと仲間が止めているのに置いて会いに来たのだろう。勢いだけで生きているような奴だし。


 年齢はそんなに変わらないが、竜人というだけで魔力、体力は並外れている。


 出会った当初は気弱だったのに強くなってからは俺をライバル視している……どう考えてもクロムの方が強いんだけどね……。


「あー、それはあれだあれっ! まぁ、そんな事どうでも良いじゃねぇかっ! さぁ、闘技場で一旗上げようぜっ! 伝説の幕開けだっ!」


「なんでやねん!」


 俺はクロムの言葉に関西弁でツッコミを入れた。


「いや、だってお前英雄だろ? オーランドで超有名じゃないか。やっぱ男なら肩書きが欲しいだろ?」


「いや、そんな肩書き全くいらないんだが!?」


「闘技場で一般募集用があったはずだから制覇しようぜっ!」


 サムズアップするクロムに俺は溜め息が出る。


 そういえば、こいつ強くなってからは全く話を聞かない脳筋だったな。


「全力で断るっ!」


「あら、エルの知り合いかしら?」


 俺達がやり取りをしているとミレーユが声をかけて来た。


「王都の冒険者で──「親友の」クロムだ……」


 何気に『親友の』って言ってきた!


「……そう、その親友が何をしに来たのかしら? エルが迷惑そうにしてるわよ?」


「ゔっ……」


 ミレーユさんの威圧が炸裂する。


 クロムよ……耐えてるだけでも凄いぞ!

 さすがAランクっ!


「ミレーユそこまでにしてやってくれ。クロムも悪気あったわけじゃない」


「貴女が元『銀翼』メンバーで──エルのであるミレーユさんですか?」


 敬語になった!?


「うふふ、そうよ?」


『婚約者』という言葉で満更でも無いミレーユ。


 うん、凄い微笑を浮かべているな。


「これからは姉御と呼ばせて頂きますっ! そしてエルの事は兄貴とっ!」


 いや、やめてくれないかな?


「許可するわ」


 えっ!? 許可するの!?


 俺はミレーユを二度見する。


 ミレーユは楽しそうに俺を見る。


「……ミレーユがそう言うなら……」


 俺はしぶしぶそう答える。


「ありがたき幸せっ! 2人の為に──いえ、『白銀の誓い』の為に命を賭けますっ!」


 ……。


『なんだこいつ?……子孫の周りはおかしな奴が多いな』


 それは俺も思ってる。


[きっも……]


【叡智】さん、ディスり方が半端ないです。



 クロムと再会を果たした後は皆に紹介して進んでいる。


 俺とクロムは御者席で並んで座っている。


 ギャンブル都市キンブリーはもう見えて来ている。もうすぐ到着するだろう。


「クロム……本当何しに来たの?」


「……キンブリーで見極め──いや、アメリア王女より色々と頼まれました……」


「はぁ? 何を見極めるんだよ?」


 全く意味がわからない。

 そこで何故、アメリアさんの名前が出てくる……。


「見極めて──」


「クロム」


「はっ、姉御っ! 何か御用ですか!」


「中に来なさい。エル、はクロムと話があるわ。カレンとミリー、フレアちゃんと少し時間を潰してくれないかしら?」


 有無を言わせない迫力に血の気が引いていくクロム。


 絶賛俺も何事かと思い、頷く事しか出来なかった。


 しばらく馬車を停車させて、時間を潰していると──


 酷くやつれた顔をしたクロムが出てくる。


 昔の気弱なクロムを思い出させてくれる。


「兄貴……怖かった……」


「何か怒らす事でもしたのか?」


「実は──「クロムっ」──はっ! 何も言いませんっ!」


 本当何があったの!?


 お前完全にミレーユの下僕みたいになってるじゃないか!?


「……とりあえず、言えばお前の身が危ういんだな?」


 首を縦にかくかくと振るクロム。


 ならば、何も聞くまい……。


「キンブリーでは、このクロムが兄貴達をする依頼を受けているとだけしか言えないっす……」


 ……凄く気になる部分がある……聞きたい……しかし、聞くとミレーユに怒られるのはさすがに気の毒だ。


 まぁ、案内ぐらいなら特に問題ないだろう。



 ──さぁ、到着だ。


「皆、着いたぞっ!」


 俺はギャンブル都市『キンブリー』を見上げる。


 俺は内心、成り金趣味の都市だと思った。


 白を基調に金色に輝く大きな建物、色のついたガラスに反射して目がちかちかする。


 まさしく『金持ってます!』と主張しているような都市だな。



「さぁ、始まるわね──私達の『伝説』が」


 メリルさんの言葉に皆が頷く。


 皆、この成り金趣味の雰囲気のせいで頷いているだけだろう。


 俺の伝説など始まらない。


『飯はよ』


 見てみろよ! シロガネなんて念話で鬱陶しいぐらい飯の催促してくるんだぞ!?


[わくわく]


【叡智】のわくわくは何に対してなのか凄く知りたいんだが!?


『さっさと行け。俺の時代にはなかった物だ、興味がある』


 初代は初代でギャンブルに興味があるようだ。


 俺達は門の場所まで進む。


「君達──ちょっと詰所まで来てもらおうか?」


 ……え?


 周りには衛兵さんが囲んでいた。

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