第67話 悪口言ったら攻撃されたんだが!?

 土で出来た道を馬車がことことと音を立てて走っている。


 俺は今、御者をしている。


 大きくなったシロガネは馬車を引きながら、さっきから念話で『我は馬でないのに……』とぶつぶつ送ってくる。


 だが、毎日初代から脳内で言われ続けている俺は慣れてしまったのか雑音のように感じて以前程気にならなくなった。


 まぁ、ご飯食いたかったら頑張ってくれとしか言いようが無い。


 俺もこの程度でミレーユ達に物言いはする気はないしな。飯の恨みは怖いんだぞ?



 何より意外だったのが──


 馬車を操作出来る人が俺以外にいなかった事だ……。


 それぞれ聞いてみると──


 ミリーさんは基本走って行くらしい。暗殺者っぽいしな。


 メリルさんは単純にした事がないと言っていた。なんかセレブな感じだし、走ってる姿や御者をしてる姿が想像出来ない。


 カレンさんとミレーユは仲間に任せていたそうだ。


 ミレーユは……うん、そういえば俺がしていたな……。


 という事で俺が索敵も一番なので御者をしているというわけだ。


 まぁ、シロガネが動かしているから操作とかいらないと思うんだけどね……。


 リーダーとしてこれぐらいはしなければならない! 断じて一番弱いからではない!


 そう、俺は女性に優しいリーダーなのだっ!


 適材適所! これ常識!


 ちなみに道中は、たまにゴブリンが現れるぐらいなので魔弾銃で対応している。


 他の魔物があまり現れないのはシロガネがいるからだろう。


【威圧】スキルも使っている為、そこそこ強い魔物はいてもシロガネの存在に気付くと離れて行く。


 魔除けのシロガネだ。そういえば訓練中もゴブリンが多かったような気がする……。



 皆は馬車の中で雑談をしている為、たまに笑い声とか聞こえてくるから旅を満喫出来ているのだろう。


 ──平和だ……。


 周りの青々しい木々が風になびいているから余計にそう感じる。


「全く……これで戦闘狂で変人の『天眼』とかに目に付けられてなかったら本当良かったんだが……」


 この平和は少ししか続かないと思うと悲しいな……。



[上方に結界の発動を推奨します]


 目の前に【叡智】の文字が羅列する。


 ──はぁ!? 敵か!?


 即行でフラグ回収とかやめてくれませんかね!?


 俺は魔力を手に込め始め、【索敵】を使用する。


 敵がいない?


 いや、【魔力察知】には反応がある。


 これは──


「主っ!」


「シロガネわかっている! 『結界』を張る──」


[攻撃魔法『火』──着弾まで、残り2秒──]


 俺は即座に『結界』を半円状に張る。


 すると降り注ぐ雨のように火の玉が結界に阻まれる。


 けっこうな量が降り注いでる……炙られてる気分だ……。


 いったい誰が?


 盗賊か?


 いや、それなら【索敵】に反応があってもいいだろう。


 俺の感知している範囲外からの攻撃か……厄介だな。


 まさか──


『天眼』じゃないだろな!?


 いくら何でもこんなに早くに遭遇するとか勘弁だぞ!?


 俺は【索敵】の範囲を広げる──


 やはり──敵がいない? 正確には弱い魔物はいる。


 何がいったいどうなってるんだ……。


『子孫よ、これはだ……敵は近くにはいないぞ?』


 ──マジか……遠距離無双出来そうな攻撃手段だな……。


 って事は【空間魔法】か【次元魔法】なんだろうけど……後者しかこんな使い方出来ないだろ……イザベラさん以外に使い手がいるとは……。


 しかし、こんな攻撃をされる程恨みを買った事は無いと思うんだが……。


[『天眼』ですね〜。悪口言うから]


 はぁぁぁっ!? 俺って監視されてるの!?


「「「敵!?」」」


 馬車の中から皆が顔を出して来る。


「……敵と言えば敵になるのか? 『天眼』の悪口言ったら火の玉が大量に降って来た……」


「「「……まぁ、遠距離攻撃ぐらいならエル(君)なら防げるでしょ」」」


 ミレーユ、メリルさん、カレンさんがそう言い残し馬車の中に戻る……ミリーさんとフレアも特に思う事なく中に入って行く……。


 何その絶大な信頼……。


 確かに防御にはけっこう自信はある──


 だが、こんなもん日常茶飯事に攻撃来たら対応が出来ないんだが!?


 というか──


 悪口言っただけで攻撃とか性格悪すぎない!?


 覗いてるのも趣味悪すぎるだろっ!


 なんとかしてくれ……。


『倒せるぐらい強くなれば問題ない』


 初代……それは非現実的だ……。


[今日の晩ご飯は炙りエル一丁です]


【叡智】……お前、絶対楽しんでるだろ!


 これからは『探知系』のスキル全部使わないとダメだな……いつ攻撃されるかわからないしな。


 まぁ、悪口言わなきゃ大丈夫だろうけど……。


 本当は『この、覗き魔の戦闘狂の変態っ!』と本心を大声で叫びたいが……。


 そういえば──トゥーリさんはちゃんと言ってくれたのだろうか?


 いや、期間的に無理か……。


 早く報告して俺の安全を確保してほしいが──


 よく考えれば、ならあのやり取りも見てるよな?


 ……完全に目をつけられてるな。


 あぁ……なんか考えるだけで胃が痛すぎる……。


 夜中にスワロウを修理して、新しいのも作ろう……備えあれば憂いなしだ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る