第66話 馬車に馬は必須ではない?!

 タリアさんの言葉をなんとか誤魔化して、その場を後にした。


 誤魔化し方は至って簡単だ。


【刻印魔法】の『拡張』と『状態維持』を刻んだ魔法袋をあげて話を逸らした。これは俺の知り合いには皆あげている。


 だって……タリアさんの後ろを見たら──


 どてかいリュックやらたくさんあったからな……。


 あんなもんどうやって運ぶんだよって事で餞別に譲った。


 大層喜んでくれたが、最後に──


「こんな貴重な物までありがとうございます。また会う日が非常に楽しみです。この料金分稼いでいつか返しますから……もし──稼げなかったら……よろしくお願いしますね?」


 フレア達と違い、また会うのが少し怖くなってしまった俺……。胸をチラ見させながら言った最後の言葉が凄く意味深だ……。


 なにより、タリアさんの目が笑ってなかったんだ……明らかに野獣の目だったよ……。


『……子孫よ……もてもてだな……さすが英雄である俺の末裔……』


 初代は言葉とは裏腹に気の毒そうに言ってくる。初代も同じような経験があるのだろうか?


[ドナドナ〜……]


【叡智】よ……何故、お前がそれを知っている……。この世界にはそんな歌は無いだろ!



「お兄ちゃん、ナナちゃん頑張って強くなるって言ってたのです!」


「そうみたいだね……リックの元に行くよう勧めたからね。必ず強くなるよ……」


「えっ?!」


 フレアがあまり見せない驚いた顔で反応する。


「あいつ、弓の扱いならエルフだけあって凄いからな……って、何でそんな顔なの?」


「……あの人、フレア嫌いなのです。やたらと距離が近いのです!」


 な、なんだと!?


 あいつ──


 ナナにも変な事したら絶対許さん!


「お兄ちゃんがちゃんと対処しておくから安心しておきなさい」


 手紙と──冒険者ギルドで伝言をしておこう。


 うん、そうだな。そうしよう。


 ついでにミリーさんに頼んでアメリアさんにも言付けをお願いすればナナの安全は守られるはずだ。


 なんせ王女様だからなっ!


 後、フレアに近寄った件については直で問い詰める。絶対にだ!


 俺が弱い? そんな事関係あるか!


 フレアの為なら、いくらでも強くなって、この命ぐらい差し出してやるわ!



『子孫よ、お前……やっぱり病気だな……まぁ強くなるのは良い事だが……』


[不治の病w]


 お前ら煩いっ!


 ほらっ、フレアを見てみろよ!


 俺の言葉にフレアは「さすがお兄ちゃんなのです! きっと凄い方法で奴を倒すのです!」と言っているだろ?


 お前らも少しは見習え!


 一言だけ言うと、フレア……倒すのは事実確認がとれてからだぞ?


 さて、皆は既に必要な物は買っているだろう。前に大方買っていたはずだからな。


 とりあえず、宿屋に戻るか……。



 しばらく歩いていると宿屋が見えてくる。


 すると──


 馬車が一台止まっていた。


 誰の馬車なんだろうか? と思っていると近くにはミレーユ達がいた。


 彼女達は馬車の手配を頼んだはずなんだが……何故か俺の目の前にはがある。


「ミレーユ、これはいったい……」


 俺はとりあえず聞いてみる。


「相乗りの馬車なんて嫌だから馬車を買ったわ」


 ……なるほど。


「サブリーダーはミレーユとメリルさんだ。必要だと思ったなら問題ない」


 出る前にミレーユとメリルさんをサブリーダーに任命して、俺のいない時の判断は2人で決めるように伝えている。


『子孫の彼女は豪胆だな……』


 それは俺も思う。たまに俺も怖い時があるから……。


 しかし、この人数だと乗り合い馬車だと席の確保が難しいのは事実だ。


 のんびり旅をするにはいつかは必要だったし問題はないだろう。


「むっさい男共と相乗りとかないしねぇ?」


 片目を瞑るメリルさんの要望が通ったような気がした……。


「女性が多いパーティだからね。馬車があった方が安心出来るし、何かと便利だから良いんじゃないかな?」


 とりあえず俺はそう返しておく。


 メリルさんの口元が三日月状になった気がしたが気のせいだろう。


 何か他の目的でもあるのだろうか?


 しかし、気になるのは馬車はあるのにがいないという事だ……。


「ちなみに馬は?」


 俺とフレア以外の目が小さなを見つめる。


 ──マジか!?


 シロガネがこれ引くの?


『シロガネ……お前が引くのか?』


『うむ……主の女子達が連携プレーで我を脅して来たのだ……仕方あるまいて……毎食干し肉は嫌なのだ……』


 ……なるほど……『働かざる者、食うべからず』とな……俺のご飯をいつも食うからだな。


 まぁ、お前が了承したのなら何も言うまい……。


 遠い目をしているシロガネを一瞥し、俺は皆を見て言葉を発する。


「さぁ、明日の朝に出発するぞっ!」


「「「応っ!」」」


 返事が男みたいだとは思わない事にする。


 ちゃんと応えてくれたし……。


 さぁ、これでやっと旅に出れるな。


 ギャンブル都市『キンブリー』──


 ここはダンジョン都市と同じく特殊な場所だ。国の支配下では無い。


 独立した都市──


 少し俺も楽しみではある。


 トラブルが起こりませんように……。


[フラグが……フラグが立った!]


 おい、やめろ!


 なんだよその前世のクラ◯が立ったみたいな言い方は!?

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