幕間

第63話 兄妹喧嘩の後1

 〜メリル視点〜



「さて……エル君は実力を隠していたわね……」


 私の目の前にはミレーユ、カレン、ミリーがいる。


 エル君とフレアちゃんは置いて帰って、今は4人で話し合いをしている所だわ。


 今頃はエル君とフレアちゃんは仲直りしてる頃だと思う。喧嘩なんて生きてる間はにしか出来ない──今のうちに本音で語り合ったらいいと思うわ。



「エル……凄く強くなってた……負けてられない……あの『型』は父さんも使っていた……」


 カレンはあの強さの理由が『型』だと言う。


 だけど、私はそれだけだとは思わない。


 確かに『型』はスキルに頼らない技術として確立している。


 一般的な『型』は『構え方』を指すが、エル君の行った『型』はそれと、『魔力を使った型』の両方だった。


 スキルを使えない者が『型』使ってもあまり効果は無い──


 一般的にはそう言われている。


 通常は更なる高みを目指す為に習得し、鍛錬する事が多い。


 カレンもミレーユ、もちろん私も『型』は使っている。


 エル君は戦闘用スキルが皆無だったはず。


 それにさっきの模擬戦……フレアちゃんは経験、技術はまだまだだけど、上級冒険者でも遅れを取るぐらいには強い──


 それなのにそのフレアちゃんに勝っている……フレアちゃんは決して弱くはない。


 最後のエル君の動きは明らかにおかしかった……。


【疾走】や【縮地】スキルを使ったにせよ、あれだけの動きは普段のエル君からは考えられない。


 私は『銀翼』がいなくなった後も王都にずっといた……たまに一緒に狩りにも行っている。だからこそ余計に謎だわ……。


 それに今回の訓練では今まで全然上がらなかった【獄炎魔法】のスキルレベルが上がっている……。


 ミレーユはさっきから微笑んでいるだけ。


 こいつは夜な夜なエル君と出て行っていた──


 絶対何か知っているはず。


「ミレーユは何か知ってるのかしら?」


「知らないわ。だけど──エルは昔のようになった事が私は嬉しいのよ」


 夜な夜なナニをしていたのかは話さないつもりか!


 エル君はまだ初めてを失ってないでしょうね?!


 まぁ、今はそれより……エル君の事だ。


 昔のようにか……確かに強さを貪欲に求めていたエル君は魔物に嬉々として特攻していた記憶がある。


『銀翼』がなくなってからはその気概は無くなってしまったけど、それが復活した?


 それだけではやはり、あの動きは説明出来ない……。


 けれども、彼にリーダーとしての自覚が芽生えているのは喜ばしい事だわ。例え家族であっても甘さを見せてはいけない場面は存在する。


 この訓練中に何かあったのかしら?


「メリル様、とりあえずエル様は実力を隠されていたという事でいいんじゃないでしょうか?」


「そう──ね。とりあえずはそう言う事にしておきましょう……」


 ミリーの言葉に、考えてもわからない以上そう思う事にする。


 ミリーと言えばアメリア王女の子飼いだったわね。


 そういえば──


 オーランド王都でも動きがあったはず。ミレーユにだけはこの間、暇を見つけて話している件がある。


「……あと、ミレーユ、でオーランド王都で動きがあったわ……おそらくもうすぐね」


 私は【精霊使役】のスキルを使い、逐一情報を集めている。


 アメリア王女が何やら裏で動いている事も知っている。


「そう……エルはどう思うかしら?」


「さぁ? けど──有益である事は変わらないわ。ミリーは何か聞かされてないかしら?」


「……すいません……私はここの情報というかエル様の事を報告するようにしか言われてなくて……」


「なら、今の話は聞かなかった事にしなさい。エル君のご飯を食べていたいならね? またこの件についてはカレンとミリーには詳細がわかれば報告するわ」


 カレンは少し不服そうにしているが頷く。


 ミリーはエル君のご飯を食べれない事を想像して絶望したような顔をしているけど……。



 今はそれよりも──


「ミレーユっ! エル君と寝たのかしら? 答えなさいっ!」


「「──!?」」


 カレンとミリーはミレーユをハッとした顔で見つめる。


「……」


 ミレーユは沈黙している。


「その反応はまだね?」


 こくっと頷くミレーユに私は安堵する。安堵しているのは他の面子もだ。


「まだ、私達にもチャンスはありそうね?」


 私は挑発するように笑いながら言う。


「メリル……エルは私だけを愛しているからお呼びじゃないわ。貴女は早く相手を見つけたらどうなの? 年齢的にヤバいわよ?」


 ぐぬぬ……人が気にしてる事を……。


「ミレーユ、私の相手はエル君だと言ってなかったかしら?」


「世迷言は信じない主義よ」


「……ヘタレのミレーユにはお仕置きが必要のようですね? さぁ、夜這いの権利を賭けて模擬戦しましょうか? 私が負ければしばらくは襲わないわ。断れば──エル君にあの事話すわよ?」


 こっそりと夜這いをかけようとしても邪魔をしてくるので、権利を賭ける事にしよう。


 それにあの事をバラされたくないミレーユは話に乗るはず。


「──表に出なさい──」


 ミレーユは顔付きを変える。


「「夜這いの権利!? やるっ!」」


 2人も参加したいようだ。


 こうして私達は真夜中のを行った──


 全員が死力を尽くしたが、途中でエル君の乱入により中断されてしまう。


 散々怒られてしまった……それはそうだろう……。


 戦った一帯の地面は凸凹になり、周りにあった木々は消滅、そして全員が傷だらけになっていたんだもの……。


 場所の方はエル君が徹夜で直してくれたようだけど、さすがに少し申し訳ない気持ちになったわ……少し自重しないといけないわね。



 そういえば──ミレーユにまだ報告してないけど、こっちにの見極めも重要ね。


 エル君の旅は始まったばかり。


 自分の道を歩き始めた以上──


 敬愛するキャロル様に託された彼を必ず助ける──


 あと、エル君に振り向いてもらう為に何か別の手を考えないと……ギャンブル都市『キンブリー』では良いとこを見せないとダメね……。


 あそこは今では腐敗した都市──


 必ず、トラブルが起こるわ……。




────────


メリルさんは何か知ってるみたいですね。次の都市でもトラブル発生しちゃいます。


幕間はもう1話ありますので引き続きお楽しみ頂けたなら幸いです。

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