第62話 『守る力』

 フレアは黙ったまま俺の方に顔を向けている。


 まだ話したい事があるんだろう。俺も話したい……。


 俺は皆に声をかける。


「今日は解散しよう。明日はゆっくりしたら、明後日には出発する」


 皆、空気を読んで、頷き街に戻っていく。


「頑張りなさい」


 ミレーユは俺とフレアの応援をし──


「エル君、普通に強いわよ? また明日ね。おやすみなさい」


「エルってば近接いけるじゃんか! お父さんと同じ流派だったっけ? 私諦めちゃったんだよね……また時間ある時にでも一緒に訓練してよ! またね〜」


「エル様はやはり実力を隠されてましたか……これも報告ですね……」


 メリルさん、カレンさん、ミリーさんは各々の感想を言いながら去っていく。


 俺は手を振り応える。


 最後はナナだ。


「エルお兄ちゃん……必ず、私強くなる……王都に行く……強くなったら──」


「あぁ、一人で行くんじゃなくてお母さんと一緒に行ってね? そして、また次に会った時、試験をして──合格したらフレアと同じパーティだ。成長を楽しみにしてるよ……ナナはもっと強くなれる──保証するよ」


「はいっ!」


 そんなやり取りをして、フレアと少し話をして去っていく。


 いつか、ナナも俺を追い越して行くのかもしれない。だけど、俺もこのままではいられない。


 必ず──強くなる。もし仮にナナが近い将来パーティに加わっても守れるように、そして、皆の足でまといにならないように……。


 だから──今はごめん。



 残されたのは俺とフレアのみ。


 俺は空を見上げる。もう日が暮れて、月が登り始めている。


 しばらくすると、暗くなって月明かりが照らして来る。


 月明かりがとても綺麗だな。


 俺は視線を落としてフレアを見る。


 動く気配が無い。


 よく見るとフレアは震えていた。


 俺が近付き歩き出すと、フレアはびくっとして少し後ずさる。


 ──【疾走】と【応援】の『全強化』を使い、一瞬にしてフレアの後ろに回り込み、包み込むよう抱きしめる。


 久しぶりにフレアを抱きしめて俺の心は満たされていく──


 ってそんな事は考えてる場合じゃないな。


「捕まえた。さぁ、久しぶりの兄妹水入らずだ。会話をしよう……」


「──!? ……速いのです……反応出来なかったのです……」


「油断してたんじゃないか? 訓練時は反応出来ていたぞ? それに何を震えているんだい?」


 目の見えないフレアは通常と違う方法で感知している。それは気配察知系のスキルが主だろう。


 だからこそ、危険だ。常時使用するには集中力が必要だからこそ、こういう不意打ちとかには弱い。


 俺やミレーユ達が近くにいる間はフォロー出来るが、なんとか早く目を治してやりたい……。



「……お兄ちゃんに嫌われたのです……」


「ははっ、お兄ちゃんはフレアの事を嫌いになったりしないさ」


「……本当なのです? お兄ちゃん傷付けたのです……」


「俺もフレアを傷付けたよ……痛かったろ? ごめんな……」


「フレアもごめんなさいなのです……」


「じゃあ、お互い様って事で良いじゃないか。仲直りのぎゅーだ!」


「既にされてるのです……お兄ちゃん大好きなのです……」


「もちろん、俺も大好きだぞ? これからもずっと一緒だ! それにしても──今回みたいな事は勘弁だぞ? お兄ちゃん心が痛くて死ぬかと思った……何でこんな事したんだい?」


「……」


 顔を合わせては言い難いかな?


 俺はゆっくりと背中を合わせるように立つ。


「さぁ、話してご覧?」


「……弱いのが嫌なのです……この間も避難させれたのです……それにナナちゃんも守れると思ってたのです……」


 ……なるほど……自分に自信を無くしているのか……。


 なり損ないの魔人との対決で自分が通用しない。


 そして、一緒に行きたかったナナをからのお願いも俺から断られる。フレアのお願いはいつも聞いていたからな……。


 ダメ押しが俺に負けた……そう言う事だろう。


「フレアは強いぞ? それに間違いなく父さん以上になれる器を持っている……父さんを間近で見ていた俺が言うからには間違いないぞ?」


「でも、お兄ちゃんに負けたのです……お兄ちゃん弱いとかいつも言ってるのに全然弱くないのです……」


「あ〜、それは経験の差だよ。場数を踏めば間違いなくあれぐらいは対処出来るようになる。お兄ちゃんは弱いなりに知恵を使っているんだよ。もちろんアイテムもな?」


 それは嘘偽りは無い。今回はフレアが俺の戦い方を詳しく知らなかったのが幸いしたのは間違いないだろう。それも次は確実に通用しないだろうけど……。


「……嘘なのです……最後の動きは知恵じゃ無理なのです……」


 痛い所を突いて来たな……どうしたもんか……。


「あれは俺の奥の手だよ……皆を援護する時に使っているだろう? それを自分に使ったんだよ。それをスキルと組み合わせただけだ。フレアにもきっと出来るさ……【神速】も、もしかしたら他のスキルと重複出来るかもしれないだろ? 今度試してみよう」


【疾走】と【天駆】がまさか重複するとは俺も思ってなかった……勝因は予想以上の効果を出した組み合わせもある。


「出来るのです?」


「出来るさ……お兄ちゃんで出来ているんだ……それに上位スキルの【魔法剣】も使えるし、どんどん強くなれる」


「……お兄ちゃんを信じるのです──大好きなのです……」


「あぁ、俺も大好きさ……」


 俺達は背中合わせで温もりを確かめ合う。


 ふと、首だけ振り向くとフレアの綺麗な銀髪は月明かりに照らされ、風によりなびかれていた。


 髪色は違うけど、本当母さんみたいになってきたな……性格は父さんみたいだけど……。


 どんな事があっても必ず──


 俺がフレアは守る。母さんとも約束したからね。


 守る力はいくらあっても良い。



 綺麗に照らしつける月を見ながら俺はそう決意する。




『子孫よ……シスコンだけじゃなく、マザコンでもあったのか……救えない……』


[や〜い、マザコン、マザコン、おっぱいの時間でちゅよ〜]


 初代と【叡智】……おまえらはムードを壊す天才か!?

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