第61話 頑張れ!(俺)

「さぁ、フレアっ! 俺に全てをぶつけて来いっ! 俺が受けてやるっ! 訓練の成果を見せてみろっ!」


 俺の言葉に反応し、フレアは剣に火を纏わせる──


「──『火剣』──」


 うん、ヤバいな!


 訓練の成果が出ている。


 これが余裕な相手なら『結界』と『睡眠』のコンボで終わらせるのだが──フレアを捕まえるのは確実に無理だろう。


 周りの皆も心配そうに見ている。


 ミレーユは俺に両手を合わせている。


「こんな事になるなんて思わなかったの! ごめん!」


 ──と言っているような気がする。


【剣術】スキルが高レベルになったから、頃合いを見てミレーユが『魔法』を教えたのだろう。


【魔法剣】を習得したお陰で明らかに足りていなかった威力が増している。


 更に【神速】の速度も上乗せされているから食らったら間違いなく死ぬな。


 だが、力任せだけじゃ俺は倒せないぞ? たぶん……。


「さすがフレアだっ! よく習得したなっ! お兄ちゃんは鼻が高いぞっ! ──『多重結界』──」


 即席の『結界』を10枚程前に並べて発動し、時間稼ぎをしている間に集中し──『型』を使う。


 ミレーユと模擬戦する時は『防御重視の型』しか使っていなかったからな……これしか形になっていない。


 それでもなら対応可能だろう。


 圧倒的に俺とは場数が違う。経験の差という物はそれだけ大きい──はず。


 フレアの火を纏った剣がバターを切るように『結界を』切断していく──


 俺は全方向に対応出来る様に準備する為に魔力を半径1mほど薄く伸ばして攻撃箇所がわかるようにする──


 これは対応を早める為に察知する手段だ。


 初代は『型』の名前なんて考えていなかったらしく俺が単純に円の形をしているから『円』と名付けた。


『円』が反応する。


 迫る剣戟は──


 袈裟懸けだ。


 俺は半身になり、剣を斜めにして軌道を逸らし、体をフレアの真横に移動して横薙ぎにカウンターを仕掛ける。


「──!? まだなのですっ!」


 フレアはそのまま振り下ろした勢いでバク宙し、俺の攻撃を避ける。


 たったこれだけの動きで俺は冷や汗が止まらない。


 ただ、今のフレアであれば接近戦でも十分やり合えれるのはわかった……今の所は……。


 再度、俺は構える。


 フレアはこちらを振り向き、抜剣の構えを取る。


 おそらく──


 以前使った【斬鉄剣】と【剣術】スキルの飛ぶ斬撃の合わせ技だろう。


 あんなもの喰らったら真っ二つ間違いなしだ。


 俺は【念動】スキルを使いフレアの剣を抜けないように固定し、『魔札』をいつでも起動出来る様に複数枚貼り付ける。


 文字は『爆発』だ。フレアなら致命傷にならないだろう……たぶん。


「──フレア、降参するなら今のうちだぞ?」


「しないのですっ! 認めさせるのですっ!」


 ……何をそこまで強情にさせているのだろうか?


 後で聞き出すしか無いな……勝てたらだが。


 フレアは抜けない剣を鞘ごと振り抜く──


 ……あれって、抜剣しなくても発動出来るんだな──ってヤバい!


 衝撃波が来る──


 俺は即座に『魔札』を起動させて爆発させる。


 衝撃により剣先がブレた為、飛ぶ斬撃は俺の少し上を通過する。


 鞘でも十分ヤバい威力だ……。


 フレアは俺の『魔札』により、全身血塗れになっている。


 フレアを傷付けると胸が痛い……これはもう訓練の域を超えている。しかし、頭に血が上っている状態では周りや俺が制止しても無駄だろう。


 それに諦めた様子は全く無い。


 仕方ない──


 俺は魔弾銃を取り出して構える。


 仲間には見せるのは初めてだ。皆これが何かわかっていない。


 だからこそ効果がある。


 まさか……身内に使う事になるとはな……しかも愛する妹に……泣きそうだ。


「降参しなければ──「しないのですっ!」──わかった……」


 もう一度、声をかけるが即座に断れる。


 仕方ない……か……後で治療しよう。


 俺は魔弾銃を急所は避けて連射する。


 普通の弓矢より早く貫通力のある銃だ。


 これなら行動不能に──


「ふっ──」


 フレアは迫る魔力弾を根こそぎ剣で捌き続けながらこちらに進んでくる。


 俺は予想外の光景に開いた口が閉じない。


 フレア強くなり過ぎだろ……この速度の魔力弾に反応出来るぐらいになってるとは……。


 俺の使っている『型』の欠点は魔力消費と集中力の消耗が半端ない所だ。


 このままではいつかやられる。


 やはり──


 奥の手を使うしかない……。


 出来れば使いたく無い……しかし、そうも言ってられない。


「──『弱体化』──」


 足止めしているフレアに【援護魔法】の『弱体化』をかけるが、それでも魔力弾は当たらない。


 俺は片手で【刻印魔法】を地面に刻む。


 その頃には至近距離までフレアは近付いていた。


 すかさず俺は『』に切り替える。


 構えは抜剣の構えだ。


「もらったのですっ!」


「甘いっ! 『隆起』──これで最後だ──」


 フレアの足元を20cm程隆起させてバランスを崩す事に成功する。フレアは自分より小さい人からの攻撃に慣れていないはずだ。


 そして、俺は自分を【】する。


 この数日間ずっと使い続けていた為、【応援】のレベルが7になった。


 効果はだ。


 俺が魔人の時──ミレーユにかけた全強化オーバードライブと何が違うか?


 それは強化率だ。


 スキルレベル7の全強化の倍率は約1.5倍、重ね掛けは約3倍の違いだ。


 なら強い方を使ったら良いと思うんだが、それは出来ない。


 初代から──


『二度と使うな。寿命を縮めるだけだ』


 と言われた。ならば簡易版の全強化を使うしかない。



 使うならバランスを崩しているこのタイミングだろう。


 俺以外の仲間は【応援】の事は知らない。


 動きが変わった俺の攻撃は間違いなく奇襲となる──


 1.5倍増しの【疾走】と【天駆】を使い、フレアの後ろに移動する。『身体強化魔法』は使わない──相手に悟られる。


 案の定、さっきと動きが違う俺に振り向きながらフレアは驚いた表情を見せる。


 即座に『攻撃重視の型』──『線』と名付けた『型』を発動する。


 要は居合い切りだ。魔力を剣に通してスピードを上げている。


 俺の最高速度の剣戟をフレア目掛けて放つと同時に腹部に激痛が走る──


 どうやらフレアは最後の足掻きで一矢報いてくれたようだ。


 だが、この勝負は俺の勝ちだ──


 首元で刃を止め──片手を頭に乗せて『回復』を使用する。


「強くなったな……」


「……負けなのです……」


「そうだな。俺の勝ちだ……」


 は俺の勝ちだ。次にやったら負けるだろう……奇襲みたいな事しかしてないし、もうネタバレして通用しないだろう。


「……ごめん……なさい……なのです……」


 涙を流しながら言葉を紡ぎ出すフレア。


「いいさ……ただ、旅に出る以上はリーダーである俺の判断に従ってくれ……」


「……はい……なのです……」


「いつか、フレアにもわかる日が来る。冒険者はな……油断が死に繋がる……だから経験の浅いナナは連れて行けない。俺はフレアを守るだけで精一杯だ。それにフレアは今以上に確実に強くなる。それこそ俺が必要ないぐらいにな? お兄ちゃんが保証しよう」


「……うわあぁぁぁぁぁぁぁん──」


 フレアが抱きつき泣き出してしまった。


 俺は腹に刺さった剣を我慢しながら必死にフレアの頭を撫で続けた。



[ちっ]


 ……【叡智】さんや……君はどっちの味方なのかな!?

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