第60話 勝負!?
フレアはミレーユに連れられて帰ってきた。
だが、以前のように声をかけてくれたり、抱きついたりはしてくれない。
お兄ちゃんは絶賛後悔中だ……。
泣きそうだ……。
しばらく経ってもフレアの態度に変わりはない。
一応、ご飯は食べてくれていると聞いているから安心なんだが……。
俺も話しかけにくい……。
『まぁ、反抗期だ。時間が解決する。今はそれよりも訓練の事を考えろ』
反抗期だとぉぉぉっ!?
俺には無縁だと思ってたのに!
『……夕方はそれなりに男前だったのに今は残念過ぎるな……』
俺にとってフレアは宝物なんだぞ!
どうしたら仲直りできるんだぁぁぁっ!
ミレーユに聞いても──
「エルはエルのやるべき事をしなさい。フレアちゃんは心配いらないわ」
の一点張り。
俺はどうしたらいいんだぁぁっ!
『いや、だからはよ訓練しろ』
初代が冷たい……。
『お前面倒臭いな! 妹が絡むどダメ人間じゃないか! ええからはよ行けっ!』
はいはい……。
そんな感じで昼と夜の訓練を行い──3日はあっという間に過ぎてしまった。
訓練はちゃんとやったが、フレアが気になって仕方がなかった……。
ミレーユからの反応も芳しくない。
フレアとも冷戦中みたいになっている。現在も俺達から遠く離れた場所でこちらの様子を伺いながらついて来ている。
今日はナナとの勝負の日だ……。
まぁ、負ける事はないだろう……相性もあるし、何より俺には新たな奥の手もある。
いつもの場所に到着すると既にナナがいた。
「エルお兄ちゃん──私は必ず『白銀の誓い』に入りますっ!」
ナナの真剣な物言いに俺はスイッチを切り替える。
「あぁ、俺に勝てたらな……ルールは簡単だ。殺さなければ何でもあり、周りが負けだと判断したらそれで終わりだ」
接近戦であれば問題無いだろう。伊達に俺も修羅場を経験していない。
ナナは遠距離向き……しかも経験不足だ。
こういう俺にとって相性が良い対人戦であれば十分対応可能だ。
「はいっ」
「では、ミレーユ──」
「えぇ、──開始っ!」
開始の合図と共にナナは一気に後方に下がりながら──
【魔弓術】を使い牽制する。
連続して魔力で出来た火矢は俺目掛けて襲いかかってくる。
当たれば──即死してもおかしくないな……。
だが、今の俺は少し前の俺とは違う!
『結界』を張らずとも避ける事が可能になった!
ここ最近はミレーユの容赦ない斬撃を受けまくっていたせいか速さに慣れ、初代の『型』のお陰で最小限の動きで避けられる。ぎりぎりだけど……。
俺は離れないようにする為に一気に【疾走】スキルを使い、矢を最小限の動きで弾き、避けて間合いを詰める──
俺も成長しているもんなんだな……さっさと終わらそう。
「──速いっ!?」
「──終わりだ……」
俺は首筋に剣を当てる。
「勝負有り」
ミレーユの言葉で俺は剣を下ろす。
「……負けちゃった……ひっぐ……」
子供に泣かれるのは苦手だ……だが、これぐらい捌けないと敵に接近を許した時に簡単に死ぬ事になるのも事実だ。
「ナナ──確かにこの短期間で強くなっ──「待ったのですっ!」──たね?」
ナナに話しかけている途中にフレアから横槍が入る。
横槍に特にムッとする事となく、やっと数日振りに話しかけてくれた事に俺は歓喜したが──
「お兄ちゃん──今度はフレアが相手なのですっ! フレアがナナちゃんを守れると判断したら入れてほしいのですっ!」
……フレアと俺が戦う?
無理無理、絶対ボコられる。
なんとか話を逸らさなければっ!
「フレア、そういう問題じゃないんだ……自衛が出来ないと、いざという時に──ナナは死ぬ事になるかもしれない。フレアだっていつも側にいるわけじゃないだろ?」
「……それぐらいわかっているのですっ! だけど──ナナちゃん凄く頑張ったのですっ! 勝負のやり方がフェアじゃないのですっ!」
うん、そうなるようにしたからね……じゃないとお兄ちゃん負けちゃうし……。
「冒険者はいかなる時も対応出来ないとダメだ──「もう、いいのですっ! フレアの強さでナナちゃんを守れる事を証明するのですっ!」──ちょ!?」
フレアは問答無用で俺に斬りかかってくる。
フレアの【神速】スキルと俺の【疾走】スキルでは天と地の差がある。
なんとか訓練のお陰で把握出来るが、ミレーユより明らかに速い。
今も紙一重で避けてはいるが、このままだと──
いつかやられる。
そんな状況なのに俺は久しぶりにフレアの声を聞けて意外にも冷静だったりする。
まさか、フレアとも勝負する事になるとは……まぁこれも訓練の一環と思おう。俺だけ皆の前で模擬戦してなかったしな……。
両親がいなくなってから俺はフレアの言う事をずっと聞いてきたから、今回断った事で癇癪を起こしているのかもしれない。
昔なら──
母さんがなんとかしてくれていた……俺には可愛い妹を叱るというのは出来なかったが……。
良い機会なのかもしれない。
『さぁ、兄として格好良い所を見せて来い。訓練の成果を見せろ。お兄ちゃんの威厳とやらは負ければ無くなると思えっ!』
──それはダメだっ!
絶対に負けられないっ!
【叡智】も発動する──
[剣だけでの現段階の勝率──3%──]
【叡智】のまともな文字に俺は苦笑する。
ひっくいなぁ……。
だけど、お兄ちゃんの威厳を保つ為に使える物は全部使うさ──
[それでも勝率30%──]
奥の手を使ったら?
[……50%──]
それなら十分だろう。
所詮は確率なんて物は可能性だ。出来レースじゃない限り、どちらに転ぶかどうかは自分で掴み取る他ない。
さぁて、生まれて初めての兄妹喧嘩だな……。
たまには本音で語らないとね?
お兄ちゃんが母さんの代わりに叱ってあげるよ──
[返り討ちに合ったら、笑ってあげるね? こいつ雑魚くて妹にやられてるってねw]
……絶対負けたくないな。というか真剣勝負中にやめてくれませんかね!?
俺はフレアを見つめながら気合いを入れる。
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