第59話 兄妹喧嘩?

 俺とミレーユは宿屋にこっそり戻り、そのまま就寝した。


 初代から全く反応が無いから心配したが、起きた後に自分で作った朝食を食べていると──


『うんめぇぇぇぇっ! なんだこれ!? こんな食い物あるのか!? えっ!? これパンに挟んでるだけなの!? もっと食わせてくれっ!』


 と突如聞こえて来た。


 平常運転で安心した。まぁ、食べたのはただのサンドウィッチなのだが……。


『型』を教えてくれたし、俺はお望み通り満腹まで食べた。そのせいで吐き気が凄いが……。


 黙っていた理由を聞いてみると、どうやら俺の体を動かすのは相当キツいらしい。消耗しすぎて話す事も難しかったと言っていた。


 飯を食ったら元気になったけどね……。



 そして、昨日と同じように俺達は例の場所で同じ訓練を行う。


 基礎上げはやはり必要だろう。


 俺も混ざるのが一番いいのだろうけど、【応援】の複数使用で吐きそうなぐらい体調が悪い。


 きっと朝ご飯の食い過ぎと寝不足のせいだな……。


 次から気をつけよう。


 昨日と同じく、俺について来たナナは遠距離で敵の狙撃を行い。


 フレア、カレンさん、ミリーさんは基礎上げ、ミレーユ、メリルさんは底上げの訓練だ。


 この訓練はレベルが高水準になるまで行うつもりだ。


 そして、いずれは次のに移行したい。


 次の段階とは──


 スキルの組み合わせによる訓練だ。


 スキルは単発で使うより組み合わせて使う方が絶対に強いのは間違い無い。


 ただ、【剣術】だけを使うより、フレアなら──持っているスキルである【斬鉄剣】や【回避】、【神速】などを組み合わせると幅が広がるはずだ。


 というか、高ランク冒険者の熟練者はこれが出来ている。


 このパーティで出来ていないのはフレアのみ。まだまだ伸びるはずだ。


 フレア以外もこれを更に昇華すれば新しいスキルも習得出来るかもしれない。


 やる意味は十分ある。


 それに俺も──


【魔力操作】などを使いこなさなければならない。


 朝に初代から『スキルがなくとも使い続けろ。そうすれば──将来お前の役に必ず立つ』と言っていた。


『型』の練習や訓練はミレーユと夜にやるつもりだ。


 これで、例え『魔帝七席』の一席が現れても全員でなら対応出来るはずだ。


 このパーティで一番強いのは間違い無くミレーユとメリルさんのどちらか2人だ。


 だが、父さんやブレッドには当然ながら届いていない。それは身近で見ていたから断言出来る。


 皆、まだまだ伸び代はある。


 是非とも早く強くなって、守ってもらいたい。


『お前が強くなれば解決だろ』


 初代よ……父さん並とか俺に対応が出来るわけないだろ! 


 はぁ……また武器作るか……。



 そんなこんなであっという間に夕方になり訓練も終わりを告げる。



「エルお兄ちゃん……」


「どうした、ナナ? 今の所──敵はいないぞ?」


「訓練終わったら出て行っちゃうの?」


「……そうだね……おそらく後──3日もすれば訓練は終わるだろうね。そうすれば俺達は旅に出る事になるよ」


「……私も付いていきたい……」


「……前はやんわり断ったが、今度ははっきり言おう──ダメだ。俺のパーティは仮にも高ランクパーティだ。危険な依頼を受ける可能性もある……そんな所に経験が浅いナナを連れて行くのはお母さんに悪い。強くなって──それでも気持ちが変わらなければ、また会いに来たら考えるよ」


「……」


 俯き、泣きそうになるナナ。


 少し可哀想な気がするが、これも本当の事だからな……。


 俺は嫌なんだが、高ランクになってしまっている。当然ながら依頼の危険度が増している。


 仕方ない……チャンスぐらいは与えた方が納得するだろう。


「わかった……3日後の──訓練後に俺と勝負しよう。ナナと俺が模擬戦を行って勝ったら連れて行く。負けても──俺の知人に会えば更に強くなれる。そうすれば可能性も上がる。それなら納得出来るだろ? どうだ?」


「言質は取りましたよ! フレアちゃんやったよ!」


「なら後は勝つだけなのです! お兄ちゃんはレディーに優しいから手加減してくれるのですっ!」


 ──フレアには悪いけど──


 危険な旅に生半可な気持ちで来られるのはパーティーリーダーとして許容は出来ない。


 お兄ちゃんはな……フレアの為なら大概はなんだってやってやる気持ちはあるが──


 それは家での話だ。


 冒険者としてなら話は違う。


「……フレア……冒険者はお遊びじゃない──手加減などはしない」


 これは声音を低くしてフレアを見詰めながら言う。


 フレアとナナ以外は理由がわかっているだけに口を挟む事はない。


 それよりも、俺がフレアにこういう強い言い方をする事に驚いている。


 それと、俺がナナに勝てるのかどうかの方を心配している気がする……確かに俺はそこまで強くないけど、勝算ぐらいはある。


 俺は卑怯と言われてでも、どんな手段を使ってでも必ず勝つつもりだ。


『お前──ただのシスコン馬鹿じゃなかったんだな……』


 と初代も驚いている。凄く失礼な物言いだが……。


 ちなみにシロガネは先程からずっと『腹が減った』とばかり念話を送って来ている……。



「お兄ちゃん怒ってるのです?」


 しゅんとするフレアを見て俺は態度を180度変えたいが冒険者をしている以上──


 判断を見誤ると死ぬ事だってある。


 フレアとナナは同い年ではあるが、フレアは家族だ。俺が死んでも守るつもりだが、ナナはまだ母親がいる。


 危険な旅で死なせてしまう可能性ももちろんあるのだ。俺にはそんな責任は負えない。


 これが成人していたのなら俺は連れて行ったかもしれない。


 かつての父さんもきっとこんな気持ちで俺を置いていったのかもしれない。未来ある子を失わせたくないと。


「怒ってはいない……だけど、フレア──今後は仲間を危険に晒す行動は慎むように」


 今までこんな言い方をした事がなかったから、俺の心が痛い……。


 フレアは泣きそうな顔をして走り出す──


「ミレーユっ! 頼む──」


「えぇ、任せなさい」


 俺では追いかけても逆効果だろう……というか【応援】の副作用で動けない……。


 ミレーユならなんとかしてくれるはずだ。


 後は信じて待つしかない。


「──という事で、ナナ──俺は手加減などしないつもりだ。『白銀の誓い』に入りたければ──己で掴み取れ」


「──はいっ!」


「では、解散だ」


 俺達は街に戻る為に足を進める。


 途中──


「エル君は間違ってないわよ?」


「冒険者はいつ死ぬかわからない……」


「エル様は優しいですね」


 とメリルさん、カレンさん、ミリーさんの順で凹んだ俺を慰めてくれた。


『うむ、それ以前に主が負ける可能性もあるな』


 シロガネは俺を揶揄い。


 初代は──


『──お前、訓練死ぬ気でやれよ? 負けたら夜中に歌いまくるからな?』


 と激励してくれる。


 そして、最後は何故か【叡智】が発動し──


[わくわく]


 と文字が羅列していた。


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