第58話 スキルが全てでは無い
初代がムードをぶち壊したが、ガン無視で俺はミレーユと抱きしめ合った。
そして、今はミレーユと向き合っている。
魔法スキルを除くスキルの使用のみで剣を使っての模擬戦だ。
俺は初代に教えてもらった型の一つを実践している。
前世の記憶では『攻撃重視の型』と『防御重視の型』があった気がする。
今行っているのは前世で言う所──『防御重視の型』だ。
ミレーユ相手に防御を疎かににすると一瞬にして負けてしまう。
『防御重視の型』は相手からの一撃に返し技をするという後の先の認識だ。
俺は剣を立てて頭の右手側に寄せ、左足を前に出して構える。
初代の行った型の一つで、前世で言う『八相の構え』だ。
これならあらゆる方向に対応出来ると記憶している。
そして、構えるだけでは無い。
魔力を満遍なく全体に行き渡るようにしている。
初めて行うが、初代から茶々が入ってこないという事は間違っていないはずだ。
決してガン無視したからでは無いと思いたい。
ミレーユ相手に初代流がどこまで通用するかはわからない──
だが、これが強くなる為の第一歩だと信じて気合いを入れる。
「──っ!?」
ミレーユも俺の雰囲気──いや、覚悟を感じてくれたようだ。
だが、問題が一つある……俺が行っているのは『防御重視の型』──
つまり、相手が攻撃してくれないと俺が行動出来ない。
なら攻撃したら良いじゃないか!
そう思うかもしれないが、瞬殺される未来しか見えない。
だからこそのこの構えだと明言しよう。
しかし、始まらない事には意味がない……。
ここは声掛けをするべきだな。
「さぁ、ミレーユ──遠慮せず来いっ!」
俺の声に反応したミレーユはその場を一瞬で移動する。
速度的におそらく【疾走】スキルを使用したのだろう。
これならまだ目で追える。
だが、俺はこの速度が見えても反応出来るか自信は無いっ!
現在進行形で『回避』か『防御』の選択を迫られている。
いつもの俺なら間違いなく『回避』か【結界魔法】で防御だが──
今回、魔法は無しだ。
初代の型を活かすならば『回避』か剣を使っての『防御』だろう。
つまり、受け流すという技術が必要になる──
って、考えてたら──
剣戟が真上から来るぅぅっ!?
やるしか──ない!
そして、なんとか剣を合わせる瞬間に剣を斜めにして剣戟を逸らす事に成功する。
ミレーユは驚いた顔をしている。
もちろん俺も驚いているが……。
いつもの俺なら間違いなく吹っ飛ばされているような一撃の威力だ。
この型と魔力を巡らせているお陰なのかバランスを崩す事なく成功している。
しかし、この動きはそれだけでは無い気がする。
何だろう、この感じは……。
いや、今は考えている場合じゃない。今しか隙は無い。
俺は驚いた顔をしているミレーユ目掛けて体を捻りながら回転斬りを行うが──
簡単に弾かれてしまう。
二人の間を静寂が支配する。
しばらくするとミレーユは構えを解き、笑顔で俺に話しかけてくる。
「……エル──ついにスキルを習得したのね!?」
──そうか!? この感じはスキル!?
俺は即座に自分に【鑑定】を使う──
こういう時に限ってまた【叡智】が邪魔をするんだろうと思ったが、すんなり【鑑定】が発動する。
大量にあるスキル欄を見るが【剣術】スキルの表示は無い……。
俺は落胆したようにミレーユに返事をする。
「……いや……習得して……無いな……」
やはり、初代の『型』のお陰なのだろう。
「え!? 本当に?? おかしいわね……」
確かに俺も習得したんじゃないかと勘違いをしたぐらいだからな。
久しぶりに剣を使ったが、明らかに昔に比べると扱いが上手くなっている……。
初代の『型』はスキルを凌駕するのだろうか?
「まぁ、でも剣が護身用に使えるのがわかっただけでも嬉しいよ」
「そう……ね……」
「どうしたんだ? 浮かない顔して」
「エル──スキルが無いのは百歩譲って納得するけど……いつの間にそんなに構えが出来て動けるようになったのかしら? 少なくとも2年前はそんな動きは出来ていなかったわ。この2年間も剣は使ってないと聞いたわよ?」
痛い所を突かれたな……何と言おう……ミレーユに嘘は吐きたくないしな。正直に言うか……。
「この2年間、剣はほとんど使っていない。それは間違い無い。だけど、ご先祖様である初代オーガストが教えてくれたんだ……」
「……なるほど……エルは嘘を言ってない事ぐらいわかるわ……それにしては動きが良過ぎるわ……」
それは俺も思う……初代の言っていたスキルが全てでは無いという真実味が増したとは思うけど。
初代の言う通り──
技術がスキルを超える事は可能なのかもしれないな……これからの俺次第だろう。
現状ではミレーユが強すぎて俺の強さがどれぐらいなのか全くわからないけど……。
「初代のお陰だね」
「……えぇ、そうね。ご先祖様ですもんね? きっと子孫であるエルを見守っているわよ」
そうだね。現在進行形で俺に取り憑いて見ていると思うよ? さっきから全く喋らないけど。
「そうかもしれないね……。英雄の系譜……オーガスト家……父さんが代々伝わる話を良く聞かせてくれたよ……今代はフレアだろうね」
やはり、英雄は俺には荷が重い。
型を極めたとしても──
きっと、俺はどんどん強くなるフレアには勝てないだろう。
だからと言って弱いままではいたくないから訓練はするが──
やはり、俺には『応援』する方が合っている気がするな。
「例えそうだとしても──エルは私の英雄よ?」
嬉しい事を言ってくれるね……。
こうやって言葉として受け取ると本当に嬉しいな。
ミレーユの英雄か……悪くない。
やはり、俺は『応援』をこれからも続けよう。
「じゃあ、もっと英雄らしくしないと──だね?」
「今のままでもいいのよ?」
「ありがとう……さぁ、冷えてきたし帰ろう」
こうして俺の訓練初日は終わりを迎える──
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