第56話 最近のルーティン

 俺は皆の訓練後にミレーユを呼び止めて、訓練の話をすると、心良く引き受けてもらえた。


 ミレーユ様様だ!


 時間は夜中に行う事になった。


 今は宿屋で各々がゆっくりしており、俺は夜ご飯を作成中だ。


『……子孫よ……何故、お前が飯の準備をしているんだ?』


 それはね? 俺が一番作るのが美味いからだよ……。


『今の世では──女性は料理が作れないのか?』


 そんな事は無いと思うぞ?


 昔に体調崩した時にミレーユの妹であるレーラさんが作ってくれた時は普通に美味しかったし……。


 しかし、この間……一度試しにパーティの女性陣に料理を任せた事があるのだが──


 結果は散々だった……。


 あれは素材を冒涜していると言っても過言ではないだろう。


 あれだけの女性率でまともな料理が塩振って丸焼きしか出来ないというのは衝撃的だった……。


 冒険者などの戦闘を生業にしている職業の人は皆そうなのだろうか?


 料理より強さを求めているから?


 確かに遠出とかする時は『銀翼』以外のパーティは焼くだけが多かった気がする。


『銀翼』では母さんや俺が作ってたからな……。


 しかし、この間は唯一、ミレーユだけが家庭料理が作れていた。


 涙を流して食べたのは久しぶりだった……。


 美味しい、美味しく無いは関係ない。


 ミレーユが俺の為に作ってくれたのが嬉しくて涙が出たのだ。


 そう、料理は味じゃない──


 気持ちだっ!


 愛のこもったミレーユの気持ちだけで俺はそれだけで生きて行ける!


 美味しい、美味しく無いは関係ないんだ!


 大事な事だから二度と言う!


『大層な……結局全滅だったんだろ? それで何を作っている?』


 うるさいっ! ミレーユにはまだ可能性があるんだっ!


 ちなみに、今作っているのは──


 キャベツ巻きかな?


 キャベツの葉を大きいまま蒸した状態に(前世では電子レンジなる物を使っていた)、焼いたベーコンと薄いチーズ(前世ではスライスチーズ)を引いて巻いただけだ。


 これを更にチーズがとろけるぐらいまで蒸して冷やす。


 すると、チーズが固まり──ロールキャベツのように仕上がる。


 ベーコンとチーズの味だけで十分に美味しいのだ!


 他にも色々と作っていると──


『……俺も食いたいな……』


 初代のそんな呟きが聞こえてきた。


 肉体無いし、食えないだろ……。


『いや、取り憑いてるから味覚を共有すれば味わえるはず』


 なにそれ、凄いご都合主義な性能してるね?


 というか、俺の記憶見たって言ってなかったか? 俺の情報丸わかりなのに初代の情報がわからないって不公平じゃないだろうか?


『俺って死んでるし、気にするな。はよ食え』


 いや、まだ食えないよ……。


「ご飯なのですっ!」


 ほらね? フレアが匂いで直ぐに駆け付けてくるからね?


 一瞬にして運ばれて行く料理達……。


 そして、俺は再度作っていく。


『なぁ、子孫よ。もう出来上がるだろ?』


 そうだね。もう出来上がるよ? 第二陣がね……。


 そして、また来るよ……フレアがね。


 案の定、次々とその場から消えて行く料理達。


 しばらくすると──


『主よ……足りんぞ。もっとだ』


 シロガネが催促しにくる。


「はいはい、もう少ししたら取りに来い」


 そして、皆の元へ戻るシロガネ。


『……いつになったら食べられるんだ?』


 あと、何回か作ってからだな……。


 フレアが何回か運んだ後、また現れる。


「オーダーストップなのです!」


「あいよー。俺ももうすぐしたら向かうわ」


 そんなやり取りをして、自分の分を作り始める。


 少し多目に……それは何故か理由はちゃんとある。


『やっとなのか……』


 そうだね……軽く2時間近くは調理してる気がする。


『しかし、これ自分の分とか言っていたが、全部食うのか? さっきとそんなに変わらない量だぞ?』


 あぁ、それはね……。


「神よっ! おこぼれに預かりに来た次第ですっ!」


 こういう事だよ……最近、宿屋で飯作る機会が多いから料理長が食いに来るんだ……それとまだ他にも理由はある。


『……子孫は神なのか? 神呼ばわりされているぞ?』


 んなわけあるか! 俺の料理に感動してからずっとそう呼ばれてるんだよ!


『まぁ、これでやっと食えるんだな……』


 いや、まだだ……。


「神よ、このレシピは教えて貰えるのでしょうか!?」


 目新しい料理を見つけるとレシピを聞かれるんだよ……。


 だから、まだしばらくかかる。


『なにぃぃぃぃっ! どれだけ待たせるんだ!?』


 叫ばれても何も変わらない……これが最近のルーティンだ。


 大昔の英雄なんだからそれぐらい我慢しろ。


 俺だってお腹減ってるんだよ……。



 しばらく、料理長にレシピを教えて、根掘り葉掘り聞かれた頃には料理を作り始めて軽く4時間は経過していた。


 その間の初代は発狂して煩かった。



 俺は食事を取る為に部屋に戻る。


 部屋に入ると全員がいた。これもいつも通りだ。


 フレア以外が酒を飲んでいる。


 完全に出来上がっている為、状況はカオスだ。


『……色々突っ込みたい所はあるが、とりあえずやっと飯だな! これだけあれば色々味わえるっ!』


 さぁ、どうだろうね?


「エル〜、ほれちょうだい〜」


「はいよー」


 ミレーユから酒の肴にとられていく。それもがっつりだ。


 さすがにフレアは満腹のようで雰囲気をにこにこしながら楽しんでいるが……。


 しかし、ここで更なる強敵が現れる──


 シロガネだ。


『主よ、腹が減ったぞ』


「……」


 返事する前にシロガネは貪り食い始める。


 ちなみに皆は俺がいつもあまり食べていないから来る前に食べていると思っているようだ。


 現状はこの大食漢がいるから料理がいつも足りていない。


 最近俺は宿屋で食う時は干し肉率が高い……それはこいつがほとんどを食うからだ。


 今日はかなり作ったのだが、それでもまだ食うらしい……。


『この犬ぅぅぅっ! 俺の料理を食うなぁぁぁぁっ!』


 たぶん、今日も俺の晩ご飯は干し肉だな……次は料理長の時間をカットしよう。時間が空くからシロガネの腹が減ってしまうような気がする。だからこれからは早く食えるようにしよう。


 この後、結局干し肉を食った俺だが初代の悲しい呟きが聞こえてきた。


『……目の前には美味そうな料理があるというのに久しぶりに食した物が干し肉とは……塩味が涙に感じる……』


 と相当凹んでいた……。


 流石に可哀想なので明日には食べさせてやりたいと思う。


 さぁ、皆が寝たら──


 ミレーユと訓練だな……。


 がっつり飲んでたけど大丈夫だろうか?


 目の前の光景を見るとミレーユとメリルさんは絡み酒の為、非常に面倒臭い事になっていた……。


 俺は訓練中に首を飛ばされないよね??


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る