第54話 取り憑かれました

「遠慮します!」


『俺と君の仲だろ?』


「成仏して下さい!」


『俺が君に取り憑くと──もしかしたら近接戦闘も強くなるかもしれないよ?』


 もしかしたらって確証無しかよ!


「いや、別に戦えなくていいです。周りが頑張ります!」


『いや、その感じだと真実に辿り着けないぞ? 君のその考え方が台無しにしている』


「別に良いです!」


『仕方ない……良い事を教えてあげよう……俺が取り憑く事によって乗っ取るとかは無い。ただ、君に体の動かし方を叩き込んだり、知識を共有するだけだ。俺は君にであろう運命の手助けをしたいだけだ。君は俺の血縁だろう? さすがに子孫を見殺しにしたくない』


「俺って死ぬような運命が訪れるの!?」


『【応援】スキルはね……最強のスキルなんだ……これを持っていると俺の時みたいに使がやって来て無理矢理に様々な厄介事に巻き込まれる。間違い無い。俺はそいつにそう……これ以上は【誓約】で話せない』


 言葉に嘘は無い気がする……凄い遠い目をしているな……。


【誓約】か……俺は持ってないが【契約】スキルより上位なのかもしれない。話せない理由はわかったが……。


「厄介事になるの決定なの!?」


『たぶんな……俺の時みたいにバハムートとかリヴァイアサンが出てこないといいな……』


 初代オーガストって確か天災クラスの魔物とか退治してたな……あれ嘘じゃなかったんだ……。


 これから先──下手したらそんな奴らを俺が相手にしないとダメなの!?


 絶対嫌だ!


 俺は普通に冒険して生きるんだ!


 ……いや、待てよ……そんな昔話に登場するような魔物とか今はいないはずだ……聞いた事ないし大丈夫なんじゃなかろうか?



「初代──今は平和な世の中です。いてもドラゴンぐらいなので大丈夫です。だから成仏して下さい」


 真剣な眼差しで答える俺。


 ドラゴンぐらいなら俺の仲間だけで十分対応出来るはずだ。


『……フェンリルいただろ?』


「いましたね……それが何か?」


『延命する為に【魂の盟約】してたよな?』


「……しましたね……」


 何か問題があるんだろうか?


 ん? それより、延命??


『フェンリルが死んだらお前も死ぬぞ? その体に残った瘴気で……俺なら侵攻を止める事が出来る……』


 瘴気って残ってるの!? 治ったんじゃないのか!?


 しかもシロガネが死んだら俺も死ぬのか!?


 まぁ、でも俺が死んだらシロガネも死ぬし、ある意味対等になってるな。


「まぁ、その辺は一蓮托生という事で納得してるので良いです」


『それだけじゃ無い! 君の仲間にも影響が出る可能性がある! いずれ、瘴気はじわじわと体を侵食して──君は人格を保てなくなる。その時、間違いなく仲間を手にかけるだろう……俺なら進行を完全に止められる!』


 ……それは嫌だな……それが本当なら、この話はもう受ける選択肢しかないじゃないか……。


 念の為に【叡智】を使うか……発動!


[君が意識を保ってられるのは約一年]


 ……余命宣告された気分だ……。


 仕方ないか……生き残る為だ……。


 まるでシロガネの時と似たような状況だな……。


「……わかりました……本当乗っ取るとか勘弁して下さいね? 頼みますよ?」


『そうこなくっちゃ! 乗っ取るとかしないから大丈夫! やっと墓から解放されたから俺も旅を久しぶりに味わいたい!』


 ……初代……本音がダダ漏れです。せめて俺を助ける為にと言ってくれ……。


「どうすれば良いんですか?」


『何もしなくていいよ。俺がだけだからね? さぁ、一体化しようじゃないか! さぁ行くぞっ! だっ!』


 言葉に出されると凄く嫌だな……合体て……。


 初代は俺の胸目掛けて飛び込み──


 そのまま中に入る。


 うん、特に何とも無いな……確かさっき記憶の共有とか言っていなかっただろうか?


 何も無いな……。


『はぁい! 記憶共有って言うのは俺が指南する為の比喩さっ! これで退屈な日々とはおさらばだぜっ!』


 ……一気に不安になってきた……本当に瘴気抑えてくれるんだろうか?


『それは大丈夫さっ! 俺が既に侵食はしないように止めてるよ! さて、君は……攻撃以外のスキル軒並み一流レベルだね……スキル構成だ……だけど──【剣術】スキルのレベルが異様に高いね?』


 言っている意味がわからない……俺は攻撃スキルは習得出来てないんだが……。


 そもそも習得出来ないんだからサポート特化だし、他の道でも生きていけるように軒並み習得してるんだよ!


『まぁ、そのうち意味はわかるよ。さて、魔法を使おうっ! 指に『着火』を発動してくれるかな? その後は魔力をがんがん込めていこー』


 軽いな……。


 俺は念願の魔法だと素直に指示に従う。


 右手の人差し指に『着火』を使う──


 そして、魔力を出来る限り込めていく──


 すると、目の前の灯火は段々と大きくなっていく──


『……大したもんだ……言われても、直ぐに出来る事じゃないはずなんだが……』


 集中してるんだから話しかけないでくれませんかね!?


 おそらく【魔力操作】スキルが影響しているのだろう。これはスムーズに魔力を送れないと出来ない気がする。


 というか──


 凄い魔力の消費が激しいんだけど!?


 気がつくと目の前には『火球』が出来上がる。


「良しっ!」


『成功だね。丁度目の前にゴブリン近付いて来てるから放ってみて』


 確かにゴブリンがいるな……しかも5匹も……。


 俺はそのまま目の前に微かに見えている1匹のゴブリン目掛けて『火球』を放つ──


「ごぶっ──」


 ゴブリンに直撃するが──


 倒せてはいない。


 それどころか酷くご立腹の様子でこちらを睨みつけている。


 ……魔法が使えて嬉しい……だけど、これなら普通に『魔札』や魔弾銃の方が強いな……。


『まぁ、今のだとそんなもんか……』


 初代は俺に取り憑いて何がさせたいのだろうか?


「「「ごっぶっ!」」」


 ご立腹のゴブリンが一斉に襲いかかってきたので【念動】スキルで『魔札』を操り貼り付け──


 爆破する。


 うん、やっぱりこっちの方が強いな。


『……へぇ……なるほど……先が楽しみだよ』


 何に納得したのかわからないが、こうやって俺は初代に取り憑かれる事になった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る