第50話 くれぐれもよろしくお願いします

 問答無用で迫り来る炎弾──


「ちょ、ちょっと、えぇっとー、黒パンツの人──「死ねっ!」──話を聞いて──」


 俺は【回避】、【疾走】、【天駆】を駆使して避けながら話し掛けている。


 黒パンツの魔族さんは全く聞いてくれない……。


 とっさに出た言葉に酷くご立腹のようだ……失礼だとは思うけど──


 名前教えてくれないから呼び方がわからないんだよ! 



 シロガネが戦うはずが、『黒パンツ』と言った為か矛先が俺に向かっている……。


 シロガネなんて小さいサイズになって静観してるじゃないか!


 従魔なら助けてくれよな!


 お前ボディーガードじゃないのか!?



「攻撃して来ないとは──舐めているのか?」


 全然舐めてません!

 避けるので精一杯です!


【回避】スキル様々だ……。


 こんな大量の炎弾とかスキル無かったらとっくに当たってるよ!


『はよう終わらせんか。そんな強くあるまいて』


『おまっ、こんなもん相手に出来るか! ──って、ヤバっ──』


 野次馬根性のシロガネとの念話に集中している間に極大の炎弾が俺の目前に迫る。


 どう考えてもこの人って強い部類だろ!


 まともに戦ったら死ぬわっ!


「──『結界』──」


 俺は【結界魔法】を半円を描くように張る。


 そして、その瞬間に炎弾が結界と衝突する。


 予め結界をいつでも張れるように魔力を込めていて良かった……と言っても自分を守るので精一杯だったけど。


 かなり魔力を込めたからこれぐらいなら防げるはずだ。メリルさんに比べたら大した事ないしな。


 というか──


 凄く熱いっ!


 結界で直接当たるような攻撃は防御できているが、余波の熱は無理っぽい……。


 これは新しい発見だな……。


 結界内はサウナ並になっている。


 ──いや、それ以上だな!


 若干、水膨れになってて、火傷になってるし!


 だが、俺にはこの状況を打破出来る策が現状では無い。


『魔札』も使い切ってるから無いし……『スワロウ』を使うにしても弾切れの上に故障中……魔弾銃使うにしても相手は女の人だし、あまり使いたくない。


 とりあえず──


「──『継続回復』──」


 これで良しっ! 熱いけど火傷は治る!


「なんだこの結界は!? 壊れないじゃないか!?」


 うん、結界は全然大丈夫そうだな。


『はよう攻撃せんか……』


『……お前、何呑気に観戦してんだよ……』


『我が動くと──辺り一帯が消し飛ぶぞ?』


 ぐぅ……それは拙い。


 仕方ない。


 籠城作戦だ!


 相手の魔力が尽きるまで『結界』に閉じ籠る!


 これがベストアンサーだ!


 しばらくすると──


「はぁ……はぁ……なんなのだ……この、結界は……」


 とまぁ、魔力切れを起こし、その場でへたり込む黒パンツの魔族さん。


 良しっ!


 俺の──


 勝利だっ!


『見たかシロガネ! 俺はなんとか切り抜けたぞ!』


『情けない……男なら攻撃せんか……『魔札』や、さっきの銃とやらはどうした?』


 うっさい!


 そとそも、『魔札』が無いっ!


 スワロウじゃない、もう一丁の銃は人になら十分効果的だと思うが──


 母さんから『女性に手をあげるなんてダメ』と口を酸っぱくして言われてるんだよ!



 とりあえず、これで戦闘は終わりだろう。


 結界を解いて、俺は魔族の女性に近づいて行く。


「さぁ、お話をしましょう?」


「ひっ」


 魔力切れを起こして満足に動けないようで、後退りしながら俺に対して酷く怯えている……。


 別に襲うわけじゃないのに凄く傷付くな……。


「俺は別に敵意はありません」


 両手を挙げて態度と言葉で示す。


「う、嘘だ! 人族は多種族を奴隷にして好き放題しているんだ!」


 ……一部の人達で確かにそんな人達はいるが──


「……俺はそんな酷い事しませんよ!」


『主はこの間一般人を奴隷にしてただろうに……』


 うっ……しかしあれは必要な事だったんだよ!


 こんな時にだけ念話送ってくんなよ!?


「……本当に?」


「はい。そもそも酷い事をするのに話をしようなんて思いません。俺は貴女がここに指示で言われて来たのか知りたいだけなんです。教えてくれませんか?」


 俺に嘘偽りは無い。


「……『魔帝七席』……」


 ……なんか大物の名前が出てきたぞ?


『魔帝七席』と言えば──


 魔族の国である『エルグランド魔帝国』の最強の7人だ。


 普通に父さん並の強さだと聞いた事がある。戦った本人が自慢げに言っていたのだから間違いないだろう……。


「……この事はどうか内密に……」


 父さん並の化け物に狙われるとか冗談じゃない!

 ぜひとも今回の事は無かった事にしてもらいたい所だ。


「……たぶん、手遅れだと……」


「──!?」


 手遅れなの!? 


 困った時の──


【叡智】さぁぁぁんッ!


[はいはーい、やっと作業終わった!]


 何の作業なんだよ!?


 それより、手遅れかどうか教えて! 今こっち死活問題なの!


[……手遅れです! の『天眼』が見てます。私には見えます。貴方の苦労する未来がw]


 ……終わった。よりにもよって父さんと戦った一番強い人じゃないか……。


 あと、【叡智】さんや草生やさないでくれませんかね?


 俺は全く笑えないよ……。


「『天眼』か……」


「なぜそれを!? あのお方の情報はほとんど外部には出ていないのに!?」


 えっ? そうなの?


 まぁ、今はそんな事よりも『天眼』に敵意が無い事を伝えなければならない。


「えっと、黒パ──「トゥーリです」──トゥーリさん……帰って『天眼』に伝言をお願いしてもいいですかね?」


 黒いパンツと言いかけると名前をすかさず教えてくれたトゥーリさん。


「伝言ですか?」


「そうそう、『関わらないで下さい』とだけ伝えといて下さい。あー後、『天眼』が脅威だと認識したのはこの間、討伐した──なり損ないの魔人だと思うので確認もしておいてくれます? 確認とれたら冒険者ギルドで『白銀の誓い』に連絡よろしくお願いします」


「……わかりました」


「いやー、助かります。これあげるのでよろしくお願いしますね? 本当頼みますよ? 俺が無罪だとわかったら絶対に関わらないように言っておいて下さいね? 絶対ですよ?」


 俺は魔力回復ポーションを数本渡してしつこいぐらいに念押しする。


 トゥーリさんは不思議そうな顔をしている。


「善処します……」


 いや、そこは頑張ってくれ!


 トゥーリさんは魔力回復ポーションを飲むと去っていく。


 なんか……のんびり旅をしようとしてるのにトラブルが多い気がする。


 俺がトゥーリさんの後ろ姿を見ていると大きくなったシロガネが──


「主よ……その『天眼』など我が捻り潰してやるぞ?」


 そう言ってくる。


 確か父さん情報で──


『天眼』って魔眼持ってたと思うんだよね!


 それこそ絶対にこの状況を『千里眼』で見てると思うんだよ!


 だからきっと、今も見られている気がする。だから煽るのやめてくれないかな?


「……いや、ぶっちゃけ関わりたくない……」


「むっ」


「だって……絶対に俺がろくなことにならない……」


 父さんと互角の人とシロガネが暴れるなんて被害甚大だろ……それにお前がいない時に出会ったらどうするんだよ……。


「とりあえず帰ろう……」


 武器の製作のはずが酷い目にあったな……。


 帰ったら皆に報告して──


 訓練だな……。


 俺が全員を特訓すればなんとかなるはず!


 俺はもう昔の俺ではないっ!


 この2年間ずっと色々と試行錯誤を重ねてきたんだ。


 皆にはオーランド王都にいる俺の知人達のように更に強くなってもらう!


 そして守ってもらおう!


 そんな事を決意しながら──


 どうやって話を進めようか考え、俺は街までゆっくり歩き出す。

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