第46話 断じて師匠では無い
ギャンブル都市に何故決まったのか?
その問いにはミレーユが答えてくれた。
どうやら、ミレーユの情報によると──
今代の聖女様がいるそうだ。確証は無いし、今もいるのかわからないが、裏の情報網に引っかかったそうだ。その事を皆に話して決定したとのこと。
とても──
とてもありがたい情報ではある……。
だが、ミレーユに隠し事は出来ない事も実感した。
……釘を刺された気分だ。もちろん悪い事をするつもりは全く無い。
こうやってフレアの為になる情報もしっかりと集めてくれているからミレーユの愛情を凄く感じる。
「闘技場とか久しぶりに行きたいわね」
そんなミレーユの声が聞こえてくるが、ついでに遊ぶという事だろう。ミレーユに限ってそっちがメインという事はないはずだ。
「軍資金増やそう!」
「お金はいくらあってもいいですからね」
「私はカジノに行きたいわ」
他の3人も純粋に楽しみたいのだろう。
「負けてお金なくならないようにね?」
俺は一応釘を刺しておく事にした。
「「「もちろん」」」
満面の笑みなだけに不安を覚える。
「あっ、そうそうエル君。司祭はもう追って来ないから安心なさい」
「えっ!? 本当ですか!?」
内心いつ来るのか心配してたんだよね。良かった……。
「えぇ、途中で見つけたから王都に戻るよう言ったわ。とても良い情報と引き換えにね?」
片目を瞑り、そう言うメリルさん……。
凄い悪寒がする……それ絶対良くない情報なんじゃないだろうか?
「とりあえず、明日各々が必要な物を買ったら宿屋に集合で」
俺は聞かなかった事にして話を終わらす。
そして全員が頷き、俺は自分の部屋に戻ろうと足を動かし始めると──
「神よっ! お待ちしておりました!」
料理長が待ち伏せしていた。
俺は全然会いたくなかった……。
「何か用かな? それに神じゃないよ?」
とりあえず聞いてみる。
「この不出来な弟子に何か新しい料理を!」
「……」
弟子にしたつもりは一切無い。押しが強すぎるだろ……。
「さぁっ! 師匠っ!」
凄い迫力だ……歴戦の猛者を見てきたが、それに通じる物がある……。
「……わかった」
「──では!?」
「あぁ、負けたよ……近いうちに旅立つからな……厨房に行くぞっ!」
「はっ!」
跪き、動こうとしない料理長……。
「いや、そういうのいらないんで進んでくれませんかね?」
そして、俺達は厨房に向かう。
厨房に到着するとバァンッと扉が開かれる。
犯人は料理長だ。
「皆の者よ! 神が新しい料理を教えて下さるっ!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」
料理長の大きな声で料理人達は手を止めて歓声を上げる。
本当……なんだこれ?
この場にいるだけで胃がむかむかして吐きそうだぞ?
もう、簡単な奴でいいだろ……。
「……とりあえず、ガレットの応用で人参を使います」
この世界と前世での日本という国の野菜や調味料の呼び方とかは何故か同じなので説明しやすい。
というか、全員が注目の視線を向けて沈黙しているから異様な雰囲気だ。
「……まず、じゃがいもと同じく人参を千切りにします。そして、ボウルに入れて──『片栗粉』をまぶして混ぜます。そしてバターを引いて円状に裏表焼くだけです」
「「「なっ!? それだけ!?」」」
それだけなんだよね……。
じゃがいものように人参はくっついてくれないから片栗粉は固める為に使う。
千切りにしてるから火の通りも良いし、味付けがなくても人参の甘みが出て美味しい。おやつ感覚で食べれるのだ。
「頂いても?」
「どうぞ……」
「こ、これは──なんという甘味っ! これはもはやデザートだっ! ここに新しい甘味が誕生した!」
いや、それは言い過ぎだろう……。
人参のガレットよりも果物の方が絶対に甘いと思うんだが……【料理】スキル補正が怖い。
確かに甘みは感じるが──あぁ、そうかこの世界にはあまり甘味は出回ってなかったな……。
砂糖は高価だから一般人には甘味を食べる習慣が無い。
きっと大袈裟なのもそのせいだろう。……たぶん。
「──おわっ!? フレア?!」
気がつくと隣にはフレアとシロガネがいた。
「美味しい匂いがするのですっ!」
『飯を寄越すのだ』
「……ちょっと待っていなさい……」
それから、しばらく人参のガレットと晩御飯を大量に作る事になった。
シロガネのお陰で前世で言うエンゲル係数が凄い事になっている気がする。
そして、残像を残しながらガレットを運ぶフレアは笑っている為、ある意味ホラーだった……。
そして、その後の料理長達のテンションも高すぎてついていけなかった……。
とりあえず、明日は俺の武器確保の為に買い物だな。
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