第45話 認められた──(ミレーユ以外からも)
俺はフレア、シロガネと宿屋に戻ると──
「おぉ、神よぉぉぉぉっ! おかえりなさいませぇぇぇぇっ!」
出迎えてくれるのは宿屋の料理長だ。このノリは司祭様を思い出させてくれる。
「その神って言うのはやめてくれませんかね?」
正直、周りの視線が痛すぎる。
「おい、あいつ神らしいぜ?」
「もしかして凄い奴なのか?」
「オーランド王都を救った英雄らしいぞ?」
「マジか……」
なんて声が聞こえてくる……噂って怖いな……。
「よく聞けいっ! ここにおられるお方は料理の神なのだっ! 今貴様らが食っているガレットを普及させてくれたお方だっ! ひれ伏すが良いっ!」
うぉいっ! 料理長何言ってるんですかね!?
あちこちから──
「この美味い物はあの人が!?」
「マジモンの神様だぜ!」
「あれが『白銀の誓い』か……腕っ節だけじゃなくて、料理も一流とは恐れ入る」
と聞こえてくる。
「お兄ちゃんは人気者なのです!」
フレアも便乗してくる……フレアからの言葉は素直に喜べるんだが──
たかが、じゃがいものガレットだけで大袈裟過ぎるだろ!?
俺達は周りを尻目に移動する。
フレアにはシロガネと部屋に戻るよう伝えて、俺は全員が揃っているであろう部屋まで足を進める。
部屋の前まで来ると──
「とりあえず、どこに行くのかしら?」
ミレーユの言葉がドア越しに聞こえてくる。
「エルの凄さを世間に認めさせる為にはダンジョン都市が良いっ!」
次に聞こえて来るのはカレンさんの声。
ダンジョンか……この世界にはそう言われる魔物が現れる不思議な場所がある。階層に分かれていて、深い階層に行けば行く程──『お宝』があると言われている。それに比例して魔物も強くなるけど……。
浪漫があって良いとは思うけど、痛い目に合う未来しか見えないんだが……。
「ここはやはり教会本部でしょう。きっとエル君のヤバさが発揮されます」
その次の言葉はメリルさんだ。
教会本部はもっと嫌だ……どろどろした上層部とは正直関わりたくない。
それにメリルさんの言う『ヤバさ』とは何を指しているのか気になるな。
「いえいえ、それならばオーランド王都に戻り、アメリア様をお迎えして布教しましょう。きっと向こうでは英雄です」
最後はミリーさんだ。
戻るときっと、大変な事になりそうなのと、挨拶までして出てきたのに今更戻り辛い。
まぁ、こんな感じで未だに旅に出れていない。
俺の事は正直そっとしといて欲しい……ゆっくり旅したいぜ……。
そういえば──
事の顛末をギルドに報告したら過剰に持ち上げられ、胃が痛くて、その場で吐きそうだった。
報酬として金貨を大量に貰ったのは嬉しかったけど、俺とフレアの冒険者ランクはBにされ、パーティランクはAになってしまった……。
ランク詐欺になるからやめてほしいと思った……何より──
高ランク=ランクの高い依頼だ。
つまり強い魔物や厄介な依頼が多いから嫌だった……。
しかし、討伐履歴に亡者が大量にあったせいで言い逃れも出来なかった……。
ランクってそんなに簡単に上がるものなのだろうか……いくらなんでもEランクからBランクはやり過ぎだろう……。
一応、受付嬢さんに抗議はした。
すると──
「今回の依頼はSランクパーティでも討伐不可能かもしれない案件ですよ! これでも足りないぐらいですっ! 本当ならSランクにしたかったのにぃぃぃっ!」
と熱弁された。
危機迫る物があって凄く怖かった……。
確かに今回の件は下手すると街が滅びてもおかしくはなかったと思うが。
ちなみに個人でのAランク以上は確かギルドへの貢献度と特別な依頼をこなしたり、偉業となる事を行うとなれる事が多い。
さすがにEランクからAランクは厳しかったのだろうと推測出来る。
とまぁ、俺の事はとりあえず置いておきたくないが置いておこう。
単純に旅に出れていないのは旅先が決まっていないからだ。
俺的には旅が出来て、フレアの治療の手掛かりが掴めれればそれで良いのだが、他のメンバーはそうはいかないらしい……。
昨日、フレアにどこか行きたい所はあるか聞いたら──
「お兄ちゃんと一緒ならどこでもいいのです!」
と言ってくれた。我が妹は良い子だ。
ちなみに【叡智】でフレアの治療で何かわからないか使ってみたところ──
[その内、手掛かり掴めるから気長に旅にしたらいいと思うよ?]
と、これは本当に【叡智】なのか? と疑うような返事が来た。
この文章打ってるのは誰かわからないが、探し出してぶん殴りたい衝動を抑えたのは記憶に新しい。
「全員却下よ。ギャンブル都市に行くわ」
ドア越しにミレーユのそんな声が木霊する。
「「「賛成っ!」」」
そして皆は賛成していた……。
俺は思った……。
俺が物思いに耽っている間にどんな流れでギャンブル都市に行く流れになったんだと。
皆、ギャンブルがしたいんだろうか?
まぁ、行き先が決まったのは喜ばしい事だ。
俺はドアを開けて中に入る。
「じゃあ明後日には出ようか?」
「そうね。ナナちゃんは連れていかないのかしら? かなり将来有望よ?」
ミレーユはそう言ってくれるが──
「もう断ってるよ。わざわざ危険な旅に来る事はないさ。危険な理由もわかるだろ?」
旅をしていると思い掛けない強敵と出会う事が多い。これは経験している。
もちろん普通に狩りをしていてもリスクは変わらないんだが、旅に出てる方が予想外な事が多い。それに今回の件で余計に連れて行けなくなったしな。
もし──
強さに行き詰まって強くなりたいと思ったら、オーランド王都にいる知人の所に行くように伝えている。
彼ならきっと良い師になってくれるだろう。子供にはやたら優しい奴だったしな。
──ん? 待てよ……優しくしてたのは女の子じゃなかったか?
まさかあいつ──
ロリコンなのか!?
いや、そんなはずはない──と思いたい。
過ちが起こったらミレーユに頼んで討伐しよう。
俺が不安そうに考えているとミレーユが話し出す。
「そう……パーティリーダーはエルだから異論はないわ」
「しかし、皆俺より強いのに本当に俺がリーダーでいいのかな?」
凄いメンバーばかりなのに一番弱い俺がリーダーなのは気が引ける。
「エルは凄いんだから気にしないっ! リーダーの資質は強さは関係ないのっ!」
背中を叩きながら明るく言うカレンさん。
「そうですよ! あんな化け物集団を相手に出来る人なんてそうそういませんよ! さすがはアメリア様が敬愛するお方です!」
そこに便乗してくるミリーさん。
「そうよ? 『結界』も『援護』──それだけじゃない、『浄化』なんて誰にも真似出来ないレベルなんだから自信持っていいわよ? ──ミレーユ!?」
メリルさんは諭すように腕を絡ませて顔を近づけて言うと、ミレーユの小さい氷柱が俺との合間を縫って放たれ、それを避ける。
「メリル近いわ、離れなさい。エル、ここにいるメンバーは全員が貴方の凄さを知ってる人ばかりよ? 自信を持ちなさい」
「うん……あ、りが、とう……」
ミレーユ以外にもこうして直接認めてもらえた事に涙が溢れてくる。
頑張って来て良かった……。
仲の良い人に認められるのは嬉しい……過剰な期待はいらないけど……。
ミレーユやフレア以外に優しくしてもらうのも本当に久しぶりだ……。
「これからは私達が守るよ! 誰がなんと言おうと私達には関係ないから!」
カレンさんは背中を叩きながら言ってくれる。
もちろん嬉しいんだけど、そのうち回復魔法を使う羽目になりそうな予感がするからストップしてほしい。
「ありがとう。それでギャンブル都市になった経緯は?」
「「「え?」」」
何でそんな不思議そうな顔をする……。
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