幕間
第42話 人の人生を変える者
〜ナナ視点〜
私はしがない元花売りのナナ。
今は冒険者ナナ。
そう、私は冒険者になった!
お母さんが助かった後に、私はエルお兄ちゃんに弟子入りしたのだっ!
「ナナ、よそ見しない! ちゃんと敵を見据える!」
「はいっ!」
エルさん、フレアちゃんと一緒に魔物を倒している所だ。
お母さんはリハビリの為に家で筋トレをしている。お母さんは本当元気になった……死ななくて済んだのはエルさん達のお陰だ。
エルさんは救世主に違いないっ!
私達の英雄だっ!
いつか恩返しをしたいっ!
そう思っていたら──
「ナナちゃんも冒険者になってお兄ちゃんに弟子入りしたら良いのですっ! お兄ちゃんには私から言っておくのですっ!」
とフレアちゃんが言ったら、エルさんは苦笑いしながら了承してくれた。
私には戦闘スキルは無い。
とりあえず一通りの武器を使ってみるが、スキルを習得出来ない……。
だけど、エルお兄ちゃんが弓を勧めてくれると直ぐに【弓術】のスキルを習得する事が出来たので遠距離で魔物を狙撃している。
最初は魔物を殺して吐き気がしたけど、慣れというのは怖い……今では多少心が痛む程度だ。
フレアちゃんは微笑みながら近付いて来る魔物を返り血も浴びずに見えない速度で惨殺している……。
後で知ったけど、さすがは今話題の『白銀の誓い』だと思った。
それに私はどんどん敵に矢を当てるのが上手くなっている……。
スキルがあるからと言ってもこれは少し異常な様な気がする……。
スキルLvは通常かなりの訓練を積んで上がるとお母さんから聞いている。
それなのに──
今、私の【弓術】スキルは既にレベル4だ……そうエルお兄ちゃんから聞いた……。
わずか数日で上がっている事に驚きを隠せない。
エルさんはただ側にいるだけで、危険な時に『結界』を張ってくれる。
「ナナ、良い感じだぞ? 【弓術Lv5】になった。これでもう一人前だなっ!」
「えっ? もう、レベル5になったんですか??」
「なったぞ? これで安全に狩りが出来るな!」
エルさんは満足そうに言ってくれるが、私は信じられない。
「ナナちゃん凄いのですっ! お兄ちゃん、ナナちゃんパーティに入ってもらうのです?」
フレアちゃんの言葉に一瞬驚くが──
『白銀の誓い』に入れて貰える?
そう思うと胸が高鳴る。
「いや、俺達の旅は危険だ……だから強くなったらだな……」
「強くなったらお願いしますっ!」
エルさんはきっと私を試しているんだっ! 入りたいならもっと強くなれと!
私の返事が予想外だったのか、エルさんは驚いた顔をしていた。
「──!? 拙いな……」
エルお兄ちゃんは遠くの方を見て、呟き表情を固くする。
「お兄ちゃん、なんか大っきいの来たのです!」
フレアちゃんは何故か大喜びだった。
次第に目の前に鬼顔の大きな巨体が五体現れる。
あれは私でも知っている魔物──
オーガだ。
「エルお兄ちゃん……どうするんですか? 大丈夫ですよね?」
「うんうん、討伐ランクCだね。あれぐらいなら大丈夫だよ……(フレアなら……)」
エルお兄ちゃんは微笑みながら私を安心させるような声音で語りかけて来てくれる。最後らへんは聞こえなかったけど……きっと余裕に違いない!
なんせ、今話題の英雄パーティ『白銀の誓い』なのだから!
「フレア」
「はいなのです!」
「お前の凄さを俺に見せてくれ」
「えっ!? エルお兄ちゃんが行くんじゃないんですか!? フレアちゃんCランクですよね!? 冒険者ランクと討伐ランクは比例しないってお母さんが言ってましたよ!?」
気不味そうな顔をするエルお兄ちゃん……何か考えがあるのだろうか?
「ナナちゃん、大丈夫なのです! お兄ちゃんは無理な時は退避させるのです! この間のナナちゃんのお母さんを助ける時もフレアは守ってもらったのですっ!」
自信満々にフレアちゃんが言ってくる。
お母さんを助ける時はかなり、厳しい戦いでフレアちゃんも、他のメンバーも最後には強制的に避難させられ、1人危険な場所に残ったと聞いた。
やっぱり、エルお兄ちゃんには深い考えがあるんだろう。
「フレア──オーガは硬い。フレアの攻撃だと火力不足だ。丁度良いから【斬鉄剣】を見せてくれ。使った事ないだろ?」
斬鉄剣? 何かのスキルなのだろうか?
「──了解なのですっ! 血が沸るのですっ!」
「うんうん、任せたよ? 【応援】してるからね?」
その瞬間にフレアちゃんから眩い光を発する。
これは【援護魔法】──おそらく『身体強化魔法』だろう。
「フレア」
「──言ってくるのですっ!」
私はオーガに視線を向けると──
五体のオーガは一瞬で細切れになっていた。
……速いとは思ってたけど、今のは全く見えなかった。
きっと今の私の表情は驚いていると思う。
「フレア、完全勝利なのですっ!」
無邪気にはしゃいでいるフレアちゃん。
「うんうん、凄いぞ?」
そんなフレアちゃんを見ながら頷くエルお兄ちゃんは頬をぴくぴくと引き攣らせているのは気のせいだろう。
「お兄ちゃんっ!」
フレアちゃんの真剣な声が響き渡る──
「──わかってるよ」
「──!?」
私はいきなりエルお兄ちゃんに抱き抱えられ、そのままジャンプされる。
下で爆発音が鳴り響く。
覗き込むように下を向くとゴブリンが数匹、爆散していた。
エルお兄ちゃんは空中を少し駆け抜けるとフレアちゃんの近くに着地する。
私はボーッとエルお兄ちゃんを見つめる。
「ん? どうしたの? さっきのは『魔札』と言ってね。魔法文字を刻んだ使い捨ての道具だよ」
どうやら武器が気になったと思って説明をしてくれる。
だけど、私はそんな事より──
魔物を察知し、空中を駆け抜け、そのまま殲滅した事実に驚いている。
エルお兄ちゃんは弱いと言っていたけど──
これを見て確信した……。
討伐ランクCぐらいだと余裕なんだと。さっきの戦闘に参加しないのも自分じゃなくてもなんとかなると確信があるからだと……。
これが──
英雄パーティ『白銀の誓い』か……私もいつか強くなって入りたい。
そうそう、エルお兄ちゃんが奴隷にした3人は解放されたよ?
あの後、人が変わったように真人間になったみたい。
エルお兄ちゃんは人の人生を変えるぐらい凄い人なんだね!
もちろん──
私の人生もね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます