第39話 皆の手柄だよ

 俺とシロガネは空を駆け抜けていると、地面をフレアを担いで走るミリーさんを発見したので着地する。


 フレアがいきなりミリーさんから飛び離れる。


「フレア様!?」


「お兄ちゃんの匂いなのですっ! 後、獣の臭いがするのですっ!」


 ……フレアよ……そこはお兄ちゃんが【空間認知】とかに反応があったからとか言ってほしいぞ?


 俺そんなに臭いのだろうか?


 この歳で加齢臭とかしてないよな??



 とりあえず、2人の前に近付いていく。


「ただいま」


「おかえりなのです! ミレーユの気配と匂いが無いのです? どこなのです?」


「……ミレーユは──少し遠い所へ避難してもらったよ……近いうちに迎えに行こう」


「そうなのです? 皆無事ならそれで良いのです!」


「うんうん、そうだね。とりあえず、やっつけてきたから安心だよ?」


 シロガネがね?


「さすがなのですっ!」


 フレアはご満悦だ。期待を裏切らなくて良かった。大事な事だから二度言うが倒したのは俺じゃないけどね。


「エル様は聖人様なのですか?」


 ミリーさんがそんな事を聞いてくる。


「ん? 何で?」


「あんな大規模な聖属性の結界はお釈迦で聞くぐらいで、普通は張れませんので……私達が避難する時にあれがなければ逃げるのが難しかったです……」


 そういえば、フレア達が去った後に『広域聖結界』を使ったな……。


「助けになって何より。あれはアイテムだよ? 森の周りで仕込んでた奴さ」


 しかも省エネで使えるようにね。


「なるほど……それでもお一人であれを発動するとは……エル様は凄いですね……魔人も討伐されたのですよね? エル様は確か──」


 戦えないのでは? そう言おうとした所で俺が言葉を被せる。


「もちろん、俺じゃ無い──従魔のシロガネだな」


「……嘘でしょう? こんな子犬が勝てるわけありません……」


 まぁ、気持ちはわからんでもない……普通はそう思う。そして、弱体化してるから余計にな。


『我は子犬ではない……』


 うん、知ってる!


「いや、こいつフェンリルだから……今は弱体化してるけど……」


「……エル様はご冗談がお上手ですね? フェンリルと言えば──災害クラスの魔物ですよ? 一度、落雷と共に現れれば、後には何も残らないと言われるフェンリルが、こんな小さい子犬なわけないじゃないですか……やはりエル様は実力を隠しておられるのですね……」


 フェンリルって、やっぱりそんな危険な魔物なの?!


 ……シロガネとの出会いって……雷なんて落ちずに普通にシチューの鍋に突っ込んで来て貪り食ってたんだが?


 まぁ、今の状態じゃ信じて貰えないだろう……。


「いや、実力は隠してないぞ? 俺はいつも全力だ……」


 そこだけは否定しておく。


「またまたぁ~アメリア様にもちゃんと報告しておきますね?」


 アメリア王女に報告とかいらないよ?


 とりあえず、2人が無事なら問題無いな。


 ミレーユ達は心配しても無駄だろうし、街に帰ったらタリアさんの無事を確認して冒険者ギルドに寄ろう。


『主よ……腹が減ったぞ……早くオムライスとやらを寄越すのだ』


「そうだな……帰ってからだ」


 シロガネもう少し我慢しろ……。


「はい(『うむ』)」


 何故ミリーさんが返事をする? ってしまった!


 シロガネとの会話は念話だった……。


 アメリア王女に報告するというのを肯定してしまったぞ?


 まぁ、もういいか……なるようにしかならないだろ……。


 俺達3人と1匹はゆっくり国境付近の街に歩き始めると──


 見覚えのある姿が3人、目に入る。


 ……ミレーユ、メリルさん、カレンさんの3人だ。


 何でいるんだろう?


 俺の失敗作の転移石は以前使ったら魔の森に飛ばされたんだけど?


 まぁそのお陰で万能薬の材料が大量に採れたんだが……。


 まさか俺が前に使った奴だけ失敗作だったのか?


 とりあえず再開出来て良かった。


「「「おかえりなさい」」」


 ミレーユ、メリルさん、カレンさんの3人は笑顔で出迎えてくれる。


「「「ただいま」」」


「わんっ」


 俺達もそれに応えながら近付いて行く。


「近くに飛ばされて良かったよ……探す手間も省けた」


「そうね。今生の別れみたいな言い方した罰は受けてもらうわよ?」


 ミレーユの言葉に俺は固まる。


「そうよ? 私達もやっと会えたのにまた探す事になるとか嫌だったもの」


 メリルさんの言葉にカレンさんも頷く。


 ごもっともだな……。


「……まぁ、とりあえず再開出来て嬉しいよ。これで、一応『白銀の誓い』はアメリアさん以外は全員が揃ったね……」


 改めて全員の顔を見る。



「なぁに?」


 ウインクしながら俺に話しかけるのは──


『六聖』であるメリルさん……既に辞めているとミレーユから教えて貰ってはいるが、教会における最高戦力の1人。


「何でそんなジロジロ見てるの?」


 少し恥ずかしがりながら答えるのは──


 元『剣聖』ブレッドの娘であるカレンさん……ブレッドほど剣が得意ではないが、それでも十分強い……特にブレッドには無かったユニークスキルが戦闘の幅を広げている。


「エル様──まさか!? 私の事を……いえ、でもアメリア様がいるし……」


 何か勘違いを起こしているのは──


 ミリーさんだ……この人たぶん……アメリアさん直属の暗殺者だと思う。普通に高ランク冒険者ぐらいなら暗殺出来るはずだ。


 なんだろう? この人……何か残念な感じがするな……。



『はよ飯……』


 念話で話しかけてくるのはフェンリルであるシロガネ……こいつはさっきから飯としか言っていない。


「お兄ちゃんハーレムなのです!」


 ミレーユの目の前でそんな爆弾を投下してくる妹のフレア……俺の目から見て父さんの再来だ。将来は父さん以上の猛者になるかもしれない。


 何より──超絶可愛いっ!


 というか、ハーレムなんて作ったつもりなんて全くないよ! 冤罪だよ!


「エル?」


 フレアの発言に真意を確かめるように俺の名前を呼ぶミレーユ……。


「いや、ミレーユ……大丈夫だ。ただ、こうやって見ると──凄いメンバーだなと……普通に最強のパーティになれそうだね……」


 たぶん、普通にいける気がする……。


「「「望むならっ!」」」


 そんな俺の言葉にメリルさん、カレンさん、ミリーさん、ミレーユが賛同する。


「……いや、望まないよ?」


 何でそんなやる気満々なのさ?


 普通に旅する予定だよ?


「お兄ちゃんは既に最強なのですっ!」


「うん、そうだね。お兄ちゃんはフレアの為なら最強になれるさ! さぁ、とりあえずタリアさんの呪いが解けてるか確認しに行こうか?」


「はいなのです! ナナちゃんきっと喜んでるのです!」


 俺達は街に向けて雑談しながら歩き出す。



 本当、疲れたな……だがもう少しだ……タリアさんの無事を確認して、飯食って絶対寝よう。



 今回は皆の──『白銀の誓い』としての総力戦だったな。


 皆の手柄で間違いない──

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