第36話 英雄の気持ち──

 現在、瘴気も俺の聖結界で絶たれ、俺にとって良い状況になっている。


 こいつの異常な回復はおそらく瘴気と【呪印】により行っているのだろう……。


 シロガネのお陰で助かったな……。


『広域聖結界』の準備中に『解呪』と刻んだ魔札を並行してたくさん作って──シロガネに後は託したからな……魔力回復ポーション飲み過ぎで吐きそうだったけど。



 あの時──


「俺は戦闘の弱い英雄の子だよ……そう言っただろ? それに俺は刻印魔法極めてるからかな? なぁ、解除した上で頼みがあるんだけど聞いてくれないか?」


『良かろう……』


「なら──この魔札を使って【呪印】の被害に合ってる人に使って来てほしいんだ……お前──確かタリアさんの時にここの元凶の奴が臭いでわかってたんだろ? ……だから頼む。俺達が間に合わなかった場合、代わりに救ってほしいんだ」


 ──そうシロガネに頼んだ。



 それが成功したのだろう。


【魂の盟約】が解除出来るなら──


 別にユニークスキル【解呪】が無くても【刻印魔法】で解呪が出来る。


 半分賭けだったが──


 勝ったようだ。



【呪印】も解除された魔人は老婆になっていた。


「お……のれ……もう少しで永遠の若さが手に入ったというのに……──こうなれば道連れじゃ──」


 ──こいつ、まだ諦めてないのか!?


 何をしようとしている!?


 体が膨らみ始める老婆。



 俺は即座に【鑑定】を使う──



 種族:魔人の成り損ない


 既に限界まで弱っており、自暴自棄になっている。自爆します。


 このままだと大爆発し、ここら一帯は消滅する。そして、内包された瘴気が一気に飛び散り──


 仲間は死亡。


 君がいなくなると結界が維持出来なくなるから、君が使おうと思ってたアイテムは3人に使ってあげてね?


 君なら大丈夫! 生き残れるかもよ? たぶん。


 だって、色んな耐性スキル持ってるでしょ?


 人間そんなに簡単には死なないさ~!


 全力で足掻きたまえ!




 最後の最後で自爆とは恐れ入るな……。


 そ・れ・よ・りっ!


 俺は【鑑定】を使ったのに、何で勝手に【叡智】が発動してるんだっ!


 し・か・もっ!


 生き残れるかもしれないという文面よ!


 しかも、ここら辺消滅って──下手したら生き残れないかもしれないんじゃないのか?!


 君なら大丈夫って何だよ!?


 そんな危険なのが耐性スキルでどうにかなるわけないだろ!?



 はぁ……最後の最後でついてない……。


 正真正銘──逃げる為のを使うか……。


 俺はを【アイテムボックス】から出す。


「皆聞いてくれるかな? あいつこれから自爆するみたいだ……その時に──大爆発して一帯が吹っ飛ぶ……そして、高密度の瘴気が一斉に溢れ出す……だが、俺の『広域聖結界』で瘴気の周りへの影響は無いはずだ……」


「「「…………」」」


 皆、熟練者だ。


『中にいる自分達はこのままだと死ぬ』


 ──そう理解しているのだろう。


 全員、奥歯を噛み締める。


「これを打破する方法が一つだけある。ここにあるアイテムは俺が作った物だ……これを使えば助かる」


「では、早く使いましょう」


「そうよ! 皆死ぬ前にっ!」


 メリル様、カレンさんの順で返事をする。


「エル──それは3つしかないのかしら?」


 ミレーユは冷静だな……そして良く見ている……。


「そうだ……メリル様、カレンさん、ミレーユに使ってもらう。俺にはから用意していない」


「そう……エル……震えてるわよ?」


 死ぬかもしれないと思うと仕方ないだろ?


 だが、そんな事は口が裂けても言えない。


「武者振るいだよ。さぁ、時間も無い──使うよ……メリル様とカレンさん──」


「エル君? メリルでいいわ。エル君にはそれが必要ないと言う事は生き残る手段はあるのね?」


「エル、私もカレンでいい。また会えるよね?」


 2人は心配したようにそんな事を言う。


「そう……だな。だけど、さん付けで許してくれ。生き残る手段はあるよ。だから大丈夫。2人には先に謝っておく……また一旦別れるけど、また必ず会おう──またくれると助かるかな?」


 俺は失敗作のを使う──


「エル君? これって──」


「探すってどう言う意味──」


 2人はそのまま目の前から消える。


 あっ、急いでいたから何も言わずに使ってしまったな……。まぁ2人ならわかるだろ。


 再会したのにまた離れる事になったのは許してほしいところだ……。



「ミレーユ、この転移石はランダムで転移してしまう……だが、必ず探しに行く」


「私も必ず探すわ……エルだけ残るの?」


「そうだね……『広域聖結界』を維持するには俺がいないとダメなんだ……」


「生き残れるのね?」


「あぁ、凄く怖いけど──俺以外は生き残れないらしいよ?」


「何よそれ……」


「天啓って奴かな? さっきそう言われたよ……だから俺は生き残れる──だから安心してくれ。フレアの為にも必ず──ね?」


「……その言葉──信じるわ……フレアちゃん残して先に死んだら地獄まで追いかけるわよ? ──ちゃんと探してね?」


 ちゅっ


 ミレーユが俺の唇に重ねてくれる。



「もちろん。ミレーユがいるだけで俺は頑張れる──さぁいよいよ時間も無い──またね?」


「えぇ、愛してる──」


「俺も愛してる──」


 お互いに見つめ合い、頷く。



 そして、ミレーユも転移石により姿を消す。



 これでなんとかなったな……。



 俺以外が……だが。


 本当に俺生き残れるのか? 凄く不安だぞ?



 でも、これで俺の大切な人達は確実に生き残れる。


 それにナナもタリアさんが助かって泣かなくて済むだろう。



 父さん達って俺を置いて行く時──こんな気持ちだったのかな?


 大切な人を守りたいっていう気持ちが今なら凄くわかるよ……己の命を犠牲にしてでも守りたいって凄く共感出来る。


 あの時にもっと【刻印魔法】が使えて今ぐらい他のスキルレベルが高かったら置いていかれず──


 もしかしたら全員で帰る事が出来たのかな?


 考えても仕方ないか……。


 さぁ──腹括るか!



 生き残る為に足掻こう。



 まだ目の前の魔人の成り損ないは膨らみ続けている。


 俺は魔力回復ポーションをありったけ飲む。


 そして──


 『天使の息吹』を己に使う──


 更に無いよりマシだろうと『聖結界』と【刻印魔法】で刻んだ魔札を即席で作り使用する。


 うん、神々しい光が眩しいな!


 今の見た目は天使みたいになっているはずだな!


 これで羽さえあれば完璧だっ!



「貴様だけでも道連れにしてやるうぅぅぅううぅ」



 はぁ、嫌だなぁ……。



「はぁ、死ぬなら一人で死んでくれよな……」


「死ねえぇぇえぇぇえぇぇっ──」


「俺は──絶対に生き残るっ! 俺が死ぬのはミレーユの膝の上でだっ!」


 それは絶対にだっ!



 こんなとこで死んで──



 たまるかっ!



 目の前が光で見えなくなる──


 その瞬間、俺の体が引き千切れんばかりの衝撃が襲う──

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