第35話 『奥の手』

 砂埃が舞い上がり──


 目の前は全く見えない。


 俺達はドラゴンゾンビのブレスを凌ぎ切った。


 ブレスの当たる部分を面では無く、三角錐状にして俺達にかかる負荷を軽くしたのが成功した。


 やはり、フレアとミリーさんは逃して正解だったな……魔力量的に2人がギリギリ入る範囲が限界だった。


 俺は即座にミレーユに指示を飛ばす──


「ミレーユ、今しか無いっ! 亡者は無視してそいつを倒せっ!」


 コクッと頷きミレーユは走り出す。


 目の前には有象無象の亡者、上空にはドラゴンゾンビ──


 俺は弱い──


 こんな大量の魔物に襲われれば即死ぬだろう……だが、それはであればだ。


 ミレーユは亡者であれば問題無いと知っている。


 亡者は──


 俺の独壇場だっ!



 ドラゴンゾンビも直ぐにはブレスは放てはしないっ!



 今しか無いっ!



 右手に持った魔結晶が光出す。必要な魔力が貯まったようだ。



「──『広域聖結界』──発動っ!」


 俺は念入りに森の周囲に仕込んだ【刻印魔法】を刻んだ『魔札』を起動させる。これは即席で作った少し即席結界魔道具──


 これは俺以外に作るのは不可能だろう。


 凄まじい速度で森全体の瘴気が浄化されていく。


 これを使っている間、俺は魔力を消費し続ける。省エネで魔道具を作ったとはいえ、スキル【魔力回復】の回復量と消費は同じぐらいでなんとかもっている状態だ。


 後はミレーユが頼みの綱だ。



「貴様っ! なんという事を! もう少しで……もう少しでぇぇぇっ──」


 魔人は叫び狂乱する。


「さっさと散りなさい──」


 そこにミレーユは容赦無い攻撃を行う。


「──煩いっ! わしはこんな所で終わらん──」


 俺が意識のある内は【応援】による強化は切れない。



 不完全である今なら行けるはずだ。


 魔人は全身が斬り刻まれ、凍っているが即座に回復している。もう本当に人では無いのだろう。


 しかし、俺の奥の手でも魔人には効果は薄いな……弱体化はしているようだけど、今のミレーユとそんなに変わらない動きだ……。


 ミレーユもたまに攻撃を受けている。


 まだ足りないか……。


 もう、俺も意識を保っているのが限界だ……。



 ギュルアァァァァァァゥ



 ドラゴンゾンビも準備万端か……。


 拙いな……このままだとやられる……。


 ──いや、俺の失敗作のアイテムがある。最悪これを使えばなんとかなるかもしれない。


 出来きれば使いたく無いな……これは逃げる最終手段だ。まだ心残りもあるしな……。


 しかし、使わないと全滅……どうするか……。


 そんな事を思って空を見上げていると──


 ──!?


 ドラゴンゾンビ目掛けて極大の炎弾が直撃し、落下して来る。


 激しい地鳴りと共に地面にひれ伏すドラゴンゾンビ。


 追い討ちと言わんばかりに上空から無数の剣が串刺しにして行く。



 攻撃を仕掛けて来た方向を見る──


「あれは──カレンさんと……メリル様か!?」


 助かった……。



「エルのアホぉぉぉぉっ! 置いてくなぁぁぁぁっ!」


 カレンさんはぷんぷんと怒りながら近付いて来る。


「エ~ルくぅん? やっと追い付いたわぁ」


 そして、メリル様も妖艶な笑みを浮かべて近付く。


「……ご無沙汰です……ってそんな事を言ってる場合じゃ──」


 俺は少しビビりながら話返す。


「『獄炎』──場合じゃ?」


 ドラゴンゾンビは消し炭になる。


 ……メリル様……相性の問題もあるけど……半端ない……。


「……いや、まだミレーユが魔人と──」


「『剣舞』──魔人? どいつが?」


 魔人目掛けて剣が踊るように自在に動き魔人を串刺しにする。


 カレンさんは目が座っている気がする……。


 ミレーユは何事かとこちらを見てホッとする。


 そのまま、魔人の首を斬り落として、氷像に変えるとこちらに向かって来る。



「何か言う事は?」


 カレンさんのドスの効いた声が俺を襲う。


「……何でもありません……助かりました……ありがとうございます」


 俺は怯えながらも90度腰を曲げてお礼を告げる。


 とりあえず、限界なので【応援】スキルを切る。


「もう、絶対に置いて行かないでよね?」


 カレンさんはご立腹の様だ。置いてけぼりにしたからな……。


「はい……」


 なんとか威圧に耐えながらも返事する。



「メリル、やっと追いついたわね……助かったわ」


俺達に近寄って来たミレーユがメリル様に話しかける。


「ミレーユが苦戦するとは……中々厄介な相手のようね……」


 俺とカレンさんの話とは違い、ミレーユとメリル様は事態の深刻さを話している。表情も固い。


 視線もまだ奴の方向を──見ている?


 まさか──


 俺が振り向くと同時に──


 パリンっと氷が砕ける音が聞こえてくる。



「お主らは──必ず殺すっ!」



 首を刎ねられても生きているのか……。


 広範囲の【闇魔法】が俺達を襲う──


 俺は既に魔力が尽きている。


 回復する魔力は全て『広域聖結界』に使っているから余裕は無い。


「全員回避──!?」


「──避ける必要なんてないわ──『獄炎』──」


 俺の言葉にメリル様は問題ないと【獄炎魔法】を放つ──


 さすが上位魔法……全てが炎に飲み込まれる。温度が高いと全て焼き尽くせて便利だな……。


 攻撃魔法ってやっぱいいなぁ……使いたい……。


 俺は羨ましい──


 そして、弱い事に悔しくてギュッと手を握りしめる。


「エルはそのままでも十分よ?」


 そんな俺を察してかミレーユが優しく声をかけてくれる。


「こしゃくなぁぁぁっ!」


 魔人は首を接続し、今度は両手にナイフを持ち接近戦に変えて襲いかかる。


 美人顔だけど、酷い形相で怖いな……。


 というか……【応援】の効果切れてるし、再度かけるだけの気力も無い……。


 なんとか3人でなら勝てるか?


 もちろん俺は含まない……戦えば間違いなく俺は死ぬ。


 俺はフレアとの約束の為に生き残らねばいけないからな!



「「「さっさと死ねっ」」」


 俺以外の息がぴったりと合う。


 ミレーユが【氷結魔法】で足止めし──


 カレンさんが大きなハンマーをいきなり出してペシャンコにする──


 最後はメリル様の火葬だ……。


 この3人ヤバすぎる……不完全な魔人相手に全く引けをとらないとは……。


 魔人も再生はしているが回復が遅くなっている。


「……ぐぬぬ……この結界さえなければ……もう少しで完全体になれたのに──」


 一応、俺の広域聖結界は効果があるようだ。


 つまり、この3人が普通に戦えているのは俺の奥の手のお陰って事か……。


 そうだよな……さっきまでは3倍強化のミレーユとやり合ってたもんな……。


 完全体じゃないのも助かったな。


「こうなれば瘴気の代わりに──【呪印】の生気を搾り取って──生気が流れて来な……い?」


 魔人は驚愕の表情を浮かべている。


 どうやら間に合ったか……やはり、保険をかけておいて良かった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る