第34話 【応援】する!

「『全強化オーバードライブ』──」


 俺はミレーユに【援護魔法】の『身体強化』と【応援】スキルを重ね掛けする──


 これは先程まで使っていたのとは違う。


 レベル1は対象の身体強化

 レベル2は対象の防御力強化

 レベル3は対象の速度強化

 レベル4は対象の物理・魔法攻撃力強化

 レベル5は対象のスキル強化


【応援】スキルの1~4までを使った上で重ね掛けしている。本当はスキル強化したいが──


 してしまえば、俺が本当に動けなくなってしまう。


 それでも、各々の倍率は1.5倍。もちろん身体強化と掛け算式に上乗せする。その倍率だけで2.25倍。


 ここに更に【援護魔法】の『身体強化』である1.3倍が上乗せされると──


 ──その倍率は約2.9倍……つまり約3倍だ。


【応援】スキルの重ね掛けは俺も相当辛いが、ミレーユの3倍強化なら──


 この状況を打破出来るはずだ。この2年間の集大成だ。


「……凄いわね……以前と比べ物にならないわ。これなら──『氷装』──」


 ミレーユの体は氷のドレスに包まれ、氷剣が複数ファンネルの様に展開される。


 そのまま、亡者目掛けて特攻する──


 今のミレーユは単独で討伐ランクSでも倒せる実力のはず。


「──『聖域』──」


 俺は亡者目掛けて『聖域』を再度使うと亡者共は雄叫びを上げて苦しむ。


 これで多少は弱体化しているはず。


 真ん中にいる魔人にはこれぐらいじゃ効果は無いか……余裕そうな表情だな。


 対して俺に余裕は皆無だ。既に吐きそうなぐらい体調が悪い。


 魔力もなんとか持っている状態だ……これ以上、魔力回復ポーション飲んだら──


 ──吐くっ!



 目の前を見ると、ミレーユは有象無象の亡者共に踊るように剣を振るう度に切断し、ダイヤモンドダストが巻き起こる。


 そして、儚く散りばめられた氷の結晶が触れると亡者共は氷結していく。そこに追撃と言わんばかりに氷剣が斬り刻み、また氷の結晶は散っていく──


 突き進むミレーユは微笑を浮かべる。


 これぞまさに【冷笑】のミレーユと呼ばれた姿だ。


 儚く散り行く氷の結晶が、舞い上がり──俺の『聖域』により浄化されていく。


 その様は、苦しむ亡者を鎮める鎮魂歌の様だ。


 あっという間に目の前にいた。高ランクの亡者は浄化されて消える。


 俺とミレーユは視線を合わせて頷く。


 久しぶりの2人での連携だ。


 ミレーユも懐かしいのだろう。


 俺も嬉しい。



「やるのう……だが──まだまだ甘い。『亡者召喚』──」


 魔人は更なる亡者を召喚する。



 それからは何度もミレーユによる殲滅が繰り返される。


 いつまで経っても亡者の数は変わらない。



 キリが無いな……。


 魔人も同じ事を考えたのだろう。


【闇魔法】の杭をミレーユに放ってくる。


 俺はそれを【結界魔法】を使い、防御する。


「お主が1番厄介だのう……死ね──」


 矛先を俺に変えて、闇魔法で作られた杭が俺に向けて放ってくる。


「──!? エルっ!?」


 ミレーユが気付く頃には既に間に合わない位置に杭が迫る。


「──ちっ、『多重結界』──」


 即席の結界を10枚程、俺の前に並べる。


 結界はパリンッと連続で割れて、最後の一枚を残して全て砕かれる。



 威力が強い……。


 俺は冷や汗が止まらない。


 正直、死ぬかと思った……こんなもん相手に出来るか! 『銀翼』の頃は誰かが守ってくれていたからな……。


 しかし、俺の魔力も心許無い……これ以上、無駄遣い出来ない……もう奥の手を使うしか無い……。


 それに──


「──ごふっ……」


 ──【応援】の副作用で俺の体の方がもたない……。


 血を吐き、その場に膝をつく。


 相変わらず副作用がキツすぎる……。



 俺は右手にを持ち──魔力を込め始める。


「ふむ、何かするつもりかえ? させんぞ?」


 猛スピードで迫る魔人。ミレーユは亡者に足止めされている。


 ──ヤバい、これは避けられねぇ──


 即死だけは避けなければ──



「──『継続回復』──ぐっ、……がはっ……」


 自分に【回復魔法】の『継続回復』を使った瞬間──


 魔人の持ったナイフが鳩尾部分を貫く。



「エルっ!!!」


「お兄ちゃんっ!!!」


「エル様っ!」


ミレーユ、フレア、ミリーさんの3人が叫ぶ。



「……ゴホッ……大丈夫だ……まだ死んでない……」


 死ぬかと思ったが、なんとか急所は避けられた……。


「しぶといのう……──うっとうしい蝿め──」


 フレアとミリーさんの2人が俺を助ける為に魔人目掛けて攻撃を放つが──


「「きゃっ」」


 ──あっさり避けられて吹き飛ばされる。


 フレア──許さねぇ……せめて一矢報いる──


「さぁ、さっさと死ぬが良い────」


 魔人による更なる攻撃が迫る──


 

 俺は左手に持った束を『魔札』を空中に散りばめる。


 書いている文字は『爆発』──


「……──爆発しやがれ──」



 その瞬間、辺りは爆発音が響き渡る。


 俺はそのまま吹き飛ばされるが、即座に立ち上がる。


 まだ死んではいない。


『継続回復』の効果で酷い火傷だが、徐々に回復していっている。


 魔人も多少の手傷は負っているものの俺と同じく回復していく。


 これは不味い……早く奥の手を使わなければ全滅する──



「ふむ、まだ諦めておらんか──なら、我の最強の使役している魔物を出してやろうぞ? 『亡者召喚』──絶望するが良い」


 空に馬鹿でかい魔法陣が浮かび上がる。


 明らかに大きい……。


 漆黒のトカゲのような姿に羽が生えている


 これは──


 ドラゴンゾンビか!?


 上空から魔力がどんどん集まっていく──


 不味い──ブレスが来るっ!


 魔力を俺も込め始める。


「全員っ、俺の近くに来て伏せろぉぉぉぉっ!」



 全員が俺の掛け声で一斉に近づく。


 両手を挙げて真上にありったけの魔力を使い『結界』を展開する。


「ぐうぅぅぅうぅぅうう──」


 なんとか俺の結界は拮抗する──


 魔力がこのままだと尽きて全滅だ──


 ミレーユも【氷結魔法】を放ち、侵攻を抑えてくれている。


 何か手は……何かないか!?


 せめてフレアは逃したい──


 こんな所で死なせるわけにはいかないっ!



「ミレーユっ! 後ろ目掛けて穴を空けろっ!」


「了解──」


 ミレーユは片手に魔力を込めて、即座に後方に大きい『氷柱』作り、勢いよく放って土壁に穴を空ける。


「ミリーさんっ!」


「はっ!」


「フレアを連れて、即離脱だっ! 必ず逃げ切れっ!」


「お兄ちゃんっ! お兄ちゃんっ! 嫌なのですっ! ずっと一緒にいるのですっ! 1人は絶対嫌なのですっ!」


 フレアは叫びながら残ると言い張る。


「フレア──お兄ちゃんはな……そんなに強くないし、格好悪いけど──父さんと母さんに託されたお前だけは必ず死なせないっ! お前に嫌われようが──約束だけは守るっ! だが、俺も死ぬ為に逃がすわけじゃない……必ず生き残るっ! 約束だっ!」


「──お兄ちゃんは格好悪くないのですっ! 最高のお兄ちゃんなのですっ! 約束……なの……です……必ず会いたいのです……」


 最後ら辺は涙を流しながら嗚咽を堪えて俺にそう言ってくれる。


 わかってくれてお兄ちゃんは嬉しい……何より妹に格好悪くないと言われると勇気が湧いてくる。


 お兄ちゃんは頑張れるよ。



「お兄ちゃんは約束破った事はないっ! 俺のしぶとさだけは自慢出来るっ! さぁ──行けっ! ミリーさん頼んだぞっ!」


「了解──」


 ミリーさんはフレアを担いで走り去る──



「ミレーユ……悪いな……付き合わせて……」


「ふふっ、私はいつでもエル──貴方と一緒よ? 死ぬ時もね?」


 俺も涙が出そうだよ……死んでもミレーユは助ける──


「ありがとう……だが、死ぬつもりは全くない。必ず生き残るぞっ!」


「えぇ、ちゃんと結婚式あげてよね?」


「もちろんっ! ミレーユ、俺の側へ──」


 ミレーユは両手を挙げている俺の腰に手を回して片手を上げて【氷結魔法】を使い続ける。



「いつまでも一緒よ?」


「あぁ、もちろん──後は任せたよ?」


「えぇ」



 俺は『結界』を張り直した瞬間──



 大爆発と共に衝撃波が襲う──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る