第33話 『踊りましょう』

 俺とミリーさんは亡者共を討伐しながら疾走する。


 ミリーの動きを見ていると、おそらく暗殺者アサシンだろう事が伺える。


 理由としては足音が全然しないのと、【隠密】スキルが高レベルのようで全く見えなく、ゾンビやグールの首を背後から斬り落としている戦闘スタイルからだ。


 Aランク冒険者ぐらいは強いと思う……さすがアメリア王女の推薦だ。


 ちなみに俺は死霊系の魔物を相手に【浄化魔法】を使いながら進んでいる。


 死霊系の魔物であれば俺は無双状態だ。


 近寄る前に『浄化』して全て天に返している。


【浄化魔法】が攻撃魔法扱いじゃなくて心底良かったと思っている。こんなホラーな戦場で対処法が無いとかトラウマ物だ。


 とてもスムーズに進めている。


 その為か──


 先程からミリーさんが「エル様はやはり実力を隠していた」とか小声で聞こえてくる。


 急いでいるから特に言い訳もせずに放置して進んでいるが……。




 近くで激しい戦闘音が聞こえてくる。


 もうすぐだ──



 少し開けた場所に到着すると──


 フレアは地面に転がり、ミレーユが庇いながら戦っていた。


「エルっ!」


 ミレーユが俺に気付く。


「『聖域』──これで少しはマシのはずだ。ミリーさん足止めを──『回復』──ミレーユっ! 待たせたっ!」


 俺は即座にこの辺り一体に【浄化魔法】の『聖域』を使う。一時的にこの場を浄化した後はフレアの元に近寄り【回復魔法】で傷を治す。


「……ん、んん……お兄ちゃん?」


「フレアっ! 無事か?!」


「フレア足手まといになったのです……」


「いや、よくやった。フレアが頑張ってたのはお兄ちゃんがよく知っている。まだ体力も回復していないだろ? お兄ちゃんが来たからには安心しろっ!」


 本当よく頑張ったと思う。


 酷い場所だ……俺なら『聖域』がなければ動くのも辛いぐらいだ。


「うん……強くなりたいのです……」


 今回で自信が無くなったのかもしれない……かなり悔しそうに言う。


「なれるさ……フレアは父さんの子だぞ? 無事に帰ったら訓練だな?」


 俺は励ます様に優しく告げる。


「訓練してもっと強くなるのです!」


「うんうん、だけど今はゆっくり休んでいなさい。フレアを虐めた奴らはお兄ちゃんがお仕置きしとくから」


 フレアは笑顔で頷く。



 俺はミレーユとミリーさんが戦闘している場所を見る。


「キマイラのゾンビが──10体か……」


 討伐ランクAのゾンビが10体……。


 しかも、この森の中では生者は弱体化し、亡者は強化される結界が張っている。人間にはこの瘴気も弱体化が関係してそうだが……。


 さすがにこの不利な場所では【応援】で強化しているミレーユとフレアでも手に余るだろう……よく持った方だと思う。


「げぷっ……──『聖域』──」


 魔力回復ポーションを飲み──もう一度『聖域』を使う。ついでにフレアにかけていた【応援】をミリーさんに切り替える。


 本当、もうお腹いっぱいだ……。



 『聖域』の効果でキマイラゾンビは苦しみ始める。


 これで、この場での瘴気の影響は無くなり、こちらはそこそこ通常、向こうは弱体化しているはずだ。


 これならミレーユとミリーさんの2人でなんとかなるはず。



 俺は離れた場所にいる──


 今回の元凶であろう者を見据える。


 そこには若い女性が歪んだ笑みを浮かべていた。


「おやおやぁ? 見た事ある顔だねぇ?」


 ゆらゆら揺れながら俺にそう言う女性はどう考えても普通じゃない……。


 瘴気を発する事から既に人では無いだろう。


 おそらく濃い瘴気により魔物と化した可能性が高い。


 昔に母さんの持っていた文献にそんな事が書いてあった気がする。


 この世界には魔族や獣人と言われる人間ではない亜種族が存在している。その人達とこいつは違う。


 魔物は動物などが瘴気を吸収した結果、進化したと言われている。それはもちろん人にも通じる。


 瘴気を吸収した人はと呼ばれる。


 魔物と同じで強さが跳ね上がる……。



 これは──緊急事態だな……。


 2年前も魔人が王都を襲った……父さん達でさえ相打ち……。


 人の知能を持った魔物……やはり、撤退だ。


 これはもはや俺達の手には余る。


 だが、簡単には逃してくれなさそうだな……。


 せめて、メリル様やカレンさんがいたらなぁ……居ない者の事を言っても仕方ないか。



「俺は見た事無いが?」


「そこのお嬢ちゃんも面影があるのぉ」


 フレアも?


 というか見た目が若いのに話し方がお婆さんみたいだな。元は老人なのか?


「わしを昔殺そうとした奴の面影があるわい……」


 ……父さんと母さんしか思い浮かばないな……ちゃんと討伐しておいてほしかった。


 お陰で絶賛ピンチ中だ。



「誰か聞いても?」


 一応聞いてみる。


「ふむ、わしを殺そうとしたのは確か──アランとキャロルとか言う奴だったかのう? もう20年ぐらい前じゃな……そいつらの復讐する為に──やっと力を得た。もうすぐわしはするんじゃ」


 年齢的に父さんと母さんは全盛期だが、それで殺せなかったのか?


 それにするという事は……今は不完全という事だろう。


 既に十分ヤバい気がする……冷や汗が止まらない。


 早く逃げたい……。


 断じて放置するという意味ではなく、この事実を冒険者ギルドに報告して討伐隊を組んでもらう為だ!



「そうか……その2人に復讐するのか?」


「そうじゃ。あの2人だけは必ず殺して地獄の苦しみを与える」


「もう死んでいるが?」


 諦めてくれないかな?


「……それでも構わん──わしの配下にして苦しみを永劫与えるからのう」


 その言葉が俺の琴線に触れる。


「あ"っ? なら、父さんと母さんの後始末は子である俺がする──」


 聞き捨てならない。


 撤退する予定だったけど──


 ──予定変更だな。


 こいつはここで確実に仕留める。


 父さんと母さんには安らかに眠って貰う。


 俺の──英雄達に指一本触れさせねぇっ!


 完全体で無い今ならなんとかなるかもしれない。俺にはがまだある。


「そうかえ……お前達はやはりあいつらの子供か……よく似ておるわ……家族4人をわしが永劫可愛がってやるぞ? 『隆起』──」


 その言葉と共に地面は膨れ上がり────俺達が逃げれないように囲まれる。


 大規模な【土魔法】だな……。


 完全に逃げ場はなくなったな。隙を作ってフレアだけは逃さなければ……。



 丁度、その頃にはキマイラゾンビが全滅する。


 ミレーユとミリーさんが駆け寄る。


「2人ともいけるか?」


「もちろん」


 ミレーユはまだ余裕そうだな。


「キツいです……」


 ミリーさんは限界か……まぁよく頑張ってくれた方だな……重ね掛けしてなかったしな……。


「ミリーさんはフレアの護衛を頼む。そして──もし逃げれそうならフレアを連れて即離脱して、冒険者ギルドに報告してくれ」


「はっ」


 ミリーはフレアの近くで待機する。



「何を話しておるか! さぁ、宴を始めようぞ? ──『亡者召喚』──」


 俺達の会話を中断した魔人は無数の亡者を召喚する。


 その中にはキマイラみたいな高ランクの魔物が複数混じっていた。



 厄介だな……無尽蔵に召喚出来るのだろうか?


 どちらにせよ──


 殲滅しないとな……。


「ミレーユ、久しぶりにか?」


 俺はミレーユに笑顔でそう告げる。


 踊る──それはかつての『銀翼』にいた頃の俺の合言葉だ。


 俺が援護をして敵を殲滅するという比喩だ。


「ふふっ、懐かしいわね? えぇ、あの頃の様に『踊り』ましょう。エスコートよろしくね?」


 俺と『踊っていた頃』を思い出し微笑を浮かべて構えるミレーユ。


「あぁ、任せろ。──元『銀翼』の凄さを見せてやろう」


 俺とミレーユは絶望的な状況でも笑い合う──


 これぐらいの絶望なんて『銀翼』にいた頃に味わっている。


 まぁ、あの頃は守られてばっかりだったが──


 

 ──今度は俺がフレア達を守る──

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