第32話 準備完了──

「さぁ、これで終わりだな……けっこう時間かかったな……ミレーユとフレアが心配だ……」


 正直、かなりキツい……【魔力回復】があるのに『天使の息吹』の副作用で魔力の最大値が減っているせいだな……。


 さっきから仕込みをする為にずっと魔力回復ポーションを飲みっぱなしだ……もうお腹たぷたぷで飲めないし、気持ち悪い……。


 それより、2人はどうなっているか確認しなければ──


 スキル【鷹の目】を使う──


 ミレーユとフレアはである人物と戦闘していた。


 ミレーユにいつもの余裕は無い、フレアも肩で息をしていて限界のようだ。



 相手は死霊使いネクロマンサーなだけあって、凶悪な魔物のゾンビを使役している事もあり非常に拙い状況だ。


 早く向かわなければ……。



『主よ……どうした?』


 険しい顔をした俺に問いかけるシロガネ。


「とりあえず──シロガネとの『魂の盟約』を解除する──」


『ぬっ!?』


 俺は『』をシロガネに使う──


 この魔札は予め作った魔力を込めた紙に【刻印魔法】を刻んで使う。


【刻印魔法】自体は文字を刻む事によって発動する事が出来る魔法でレベルによって刻む文字数が決まる。


 この世界の文字がとても長い為、ほとんどの人が使えない。


 なので使う場合は古代語を使う。理解出来ない人も多いから普及していないのが実情だったりする。


 ちなみに、その古代語は日本語だった。


 その為──


 当然ながら直ぐに使いこなした……レベルも10で10文字を刻印出来る。


 この際、古代語が日本語なのは置いておこう。俺にもよくわからないし。


 言葉には力が宿ると前世で聞いた事がある気がする。この世界では言葉が力になる。


 まぁ、戦闘には使い難いが……。


 だが、俺はふと思った……【叡智】では記載がなかったが──


【刻印魔法】であれば、もしかしたら解除が出来たかもしれないと。


 そのも兼ねて俺はシロガネに試す──



 シロガネに使った文字は──


『魂の盟約を解除』


 ──俺とシロガネの繋がりが無くなっていく。


 どうやら成功のようだ。【叡智】でもこれはわからなかったようだ。少し出し抜いた気分だ。


【刻印魔法】はかなりチートな性能のようだな……ユニークスキル顔負けのような気がする……。


 だが、これで俺のに変更は無くなった。



『……主は何者だ……こんな馬鹿な事があってたまるか……刻印魔法であってもこんな事出来るはずがない……』


「俺は戦闘の弱い英雄の子だよ……そう言っただろ? それに俺は刻印魔法を極めてるからかな? なぁ、解除した上で頼みがあるんだけど聞いてくれないか?」


『良かろう……』


「なら──」


 俺はシロガネに頼み事を話す。



『ふむ、それぐらいは容易だが……』


 言い淀むシロガネ。


 短い付き合いだが俺の心配をしてくれている事が嬉しくなってしまう。


「ふふっ、なんだよその顔。お前はふんぞり返ったぐらいが丁度良い。それに俺が気になるなら──助けに来てくれよ? 俺が死んだら美味い飯が食えなくなるぞ?」


 俺ははにかむ様にそうシロガネに告げる。


『うむ、また飯を食わせてもらう……死ぬな……』


「あぁ、俺はしぶといからな……さぁ、行け──」


 シロガネが駆け出していく姿を俺は見送る。


 ここまで付き合ってくれただけでも十分だ……。



 さてと……後は──


「ねぇ──そこの君……ずっと監視してるみたいだけど、手伝う気ないかな? 襲う気はないんでしょ? 旅の途中から付かず離れずでいたよね?」


 ずっと、【索敵】スキルに反応があったけど、【危機察知】とかに反応が無かったからスルーしていた。


【隠密】スキルを解いたようで目の前に姿が現れる。


 俺の【索敵】は高レベルだから【隠密】スキルであっても看破していた。


 ん? 黒髪ボブカットの少しキツめの目をしたスタイル抜群の美人さんが出てきたぞ?


 なんで、こんな人に監視されてるんだろうか?


 敵意が無いのでずっと放置していたが──


 どうせなら手伝って欲しい。



「私の名前は……アメリア様の命令により『白銀の誓い』に加入した者です。貴方はアメリア様の言う通り、凄いお方のようです。私の『隠密』を見破った人は初めてです」


 いや、ずっと俺の【索敵】に引っかかってましたが……。


 それと、まだ見ぬメンバーは君の事ね……。


「なら、手伝う事に異存はないよね?」


 猫の手でも借りたい状況だ。メンバーであるなら手伝ってほしい。


「えぇ、アメリア様より影より手助けするよう言われていましたので……」


 そこは初めから影じゃなくて、普通に助けてくれると非常に嬉しいのだが……。


「じゃあ、悪いけど一緒に来てくれないかな? 最悪の場合ミレーユとフレアを連れて逃げたいしさ……最悪、無理そうなら1人で逃げてくれても構わないから」


「討伐されないのですか?」


「……まぁ、なるようになるんじゃないかな?」


 既に俺は逃げる気満々だ。


 保険はかけたし、討伐が無理なら離脱一択だ。


「……なるほど……さすがアメリア様が見込んだお方……先を見通す貴方は私如きでは思いつかない方法で討伐すると……」


 いや、何言ってるの?


 俺、今さっき2人を連れて逃げるって言ったよね? 何で討伐する流れなのさ!?


 アメリアさん……いったい何を吹き込んだんだ……。


 そんな事より、早くミレーユとフレアの所に行かなければ。


「……君の働きに期待してるよ。後でお礼ぐらいはするよ?」


 もう、俺が出来る事って──


 皆で逃げる事ぐらいだし、手伝ってくれるなら出来る範囲でお礼ぐらいする。


「では、帰ったらエル様の手料理を頂きたいです。ずっと涎を垂らしながら見ていたのですっ!」


 ……シロガネに続いて食べ物に釣られる者がいるとは……。


「それぐらいなら構わないよ? だから手伝ってね?」


「はっ、貴方に忠誠を誓いますっ!」


 なんか俺の周り変な人が多い気がするぞ?


「じゃあ、向かうぞ──」


 俺とミリーさんは中心部に向かう──

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