第31話 瘴気の森

 俺達は【叡智】が教えてくれた場所付近まで到着する。


「酷いわね……」


「あぁ……」


 ミレーユの言葉に俺も同意する。


 森の入り口付近にいるのだが……瘴気が酷い……それに腐ったような酷い臭いと殺気が入り混じっている。


 酷く空気が悪い。こんなのが放置されていた事に驚きが隠せない……。


 正直、格好をつけたものの……この森に足を踏み入れるのを躊躇している。


 俺の体は強張り、吐きそうだ……。


「お兄ちゃん、大丈夫なのです?」


「あぁ、お兄ちゃんは武者振るいをしているだけだ」


 フレアにはいつも格好良い所しか見せないと決めている。当然ながら弱音は吐かない。


 しかし、どうしたもんか……。


「とりあえず──【索敵】と【鷹の目】スキルを使って偵察する。少し待ってくれ」



 まず【索敵】を使う。



 ──マジかよ……。


 範囲を広げてみる。

 

 そこまで大きい森ではないが【索敵】には森全体に反応があった。


 これは動物ではない……間違いなく魔物だ。


 次に【鷹の目】を使い、視界を切り替える。



 うわぁ……。


 帰りたくなって来た……。


 いや、しかしタリアさんを助ける為だ……我慢だ……。


 この視界いっぱいに映っているはスケルトン、ゾンビ、グール、リッチなどの亡者共だ。


 見た目的に気持ち悪い……。


 しかも、中心にいるのは明らかにヤバい奴だ……。



 森の中心にいる元凶であろう者が空に向き──



 ──ちっ、気付かれたか!?



「エル、顔色が悪いわよ?」


 ミレーユの声が聞こえ、俺はスキルの使用を止める。


「まぁな……敵は亡者だな……しかも森全体にいる……」


 俺達3人でこれを対応するのか……キツいな。


 特に死霊系の魔物には物理攻撃が効かない。フレアとの相性が悪すぎる……せめて【魔法剣】が使えればな……。


 基本的に亡者に対する対処法は【聖魔法】や【浄化魔法】、【火魔法】だ。次点で効果は落ちるが属性魔法だろう。後はそれらが付与されたアイテムだ。


 ゾンビとかなら物理攻撃で対処は可能だろうが……。


 しかし、時間は限られている……。


「エル──判断を。亡者であればエルなら問題無いでしょ?」


 ミレーユは俺がリーダーである為こうやって立ててくれる。それが少し嬉しい。


 確かに普通の魔物ではなく亡者であれば俺は戦力になれる。


 何より、ミレーユとフレアの表情は俺を信じてくれている。それだけで勇気が湧いてくる。


 ナナには勢いで言ってしまったが、ミレーユとフレアの2人は俺が必ず助けると疑いは無いのだろう。


 期待を裏切りたくはないっ!



「あぁ、時間もあまり無い……進む! 作戦を話す──まず、俺が2人に【援護魔法】を使うから元凶がいるであろう中心部分に行ってくれ。俺は後から向かう。俺が着くまで時間稼ぎをしてくれ。フレアは道中のゾンビやグールの実体を伴う者を中心に、ミレーユはサポートを頼む──」


 俺は作戦と言えるような内容ではないが、やるべき事を伝え、【援護魔法】の『身体強化』、【応援】による『身体強化』を重ね掛けする。


「──生き残る事を最優先に──」


「もちろんよ。行って来るわ」


「殲滅なのです!」


 2人は森に入っていく。



「シロガネ……お前は俺の護衛だ」


『うむ、よかろう……しかし、ここにまた来る事になるとは……』


「どういう事だ?」


『我を捕まえようとした輩はここにおる……そこそこ強敵故に気をつけるが良い……』


 ……お前って確か災害クラスの討伐ランクSだよな? 完全体で倒せない相手とか無理ゲーだろ!


 もっと早く言えよっ!


「相手はどんな奴だ?」


死霊使いネクロマンサーだな……我も骸にして飼うつもりだったようだ』


「……お前が完全体なら勝てるのか?」


『……まぁ、それなら対応は可能だな……ただ──戦闘する場合は我が自由であれば逃げるな』


 勝てるとは言わないシロガネは正確に判断しているのだと察する。


 おそらく、逃げる原因はこのが原因だろう。



「これを無力化すればいけるか?」


『ふむ……我が本調子であればいけるだろう……もう少しで戻れるはずだ』


 もう少しで戻れるのか……。


「そうか……護衛頼むぞ? よっと……」


 俺は『』を等間隔に設置していく。


『何をしておるのだ?』


「ん? これか? 下準備だよ──シロガネ後ろだっ!」


 シロガネとの会話中にゾンビが襲いかかって来た。


『ふんっ、これぐらい直ぐに終わる──』


 シロガネは離れた場所から前足を振るう。


 そのまま爪の形の斬撃がゾンビを襲い切断される。


「さっすが……そのまま頼むわ」


『主も後ろにグールだ』


 即座に『結界』背後に設置すると、鈍い音が聞こえる。


 いや、声かけじゃなくて守ってくれませんかね?! 仮にも護衛だろ!?


『ふむ、主も普通ではないな……その『魔札』とやらの【刻印魔法】といい、【結界魔法】──先程の【援護魔法】も高レベルであるな』


 ……こいつ……試しやがったな……。


「……ちゃんと守らないと飯やらないぞ?」


『ぬっ……それは困る……悪かった……』


「ったく……頼むぞ? 俺、戦闘だけはお前らに比べると本当に弱いんだからな?」


『うむ、任せるが良い。その感じだと主に勝算があるのだろう……というか【魂の盟約】で我は逃げれんしな……主が死ねば我も死ぬのだ。少しぐらい試しても罰は当たるまい?』


「これ、本当に解除出来ないのか?」


『出来ぬ……だが、気に病む事は無い。主のご飯は美味い……また食わせて貰うためにも守ってやる』


「そっか……悪いな……」


『なに、例え死んでも恨みはせぬ……我は1000年は生きておるからな……ここらが潮時だろう』


 いや、俺死ぬ気無いから諦めないでくれないかな?


「……まぁ、死にはしないさ……俺は英雄の子だからな? しぶとさだけは自信がある──それに、やる事が終わったら……試しに解除してやるよ」


『ふんっ、たわけが……』


 出来るものならやってみるがいい──


 そう鼻で笑われた気がする。


 まぁ、試すのはタダだしな。



「さぁ、行こう──」



 俺とシロガネは作業を続ける為に森の周りを駆け回る──

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