第30話 助ける為に
「エ……ル……」
「お兄……ちゃん……」
声が聞こえる……。
「ん……んん……」
俺は意識が覚醒していく。
そういえば、何で俺は寝ている?
──そうだ。タリアさんに『天使の息吹』を使ったんだったな。
こうしちゃいられない。
「ありがとう……お陰で起きれたよ……」
俺は起き上がり、起こしてくれたミレーユとフレアを見た後に周りを見る。
ミレーユは凄まじい目力で俺を見据えており、フレアは両手で俺を『ごめんね』とジェスチャーしている。
タリアさんはベットで寝ており、ナナは寄り添っている。
ここまではなんとなく予想がつくので構わない……。
だが、1番謎なのが──
絡んできた男3人が正座している事実だ。
状況が全く読めない……。
「ミレーユ……これはいったい……」
俺は男達に視線を合わせながら聞く。
「お仕置きの途中にフレアちゃんが呼びに来たからそのまま連れてきたわ」
淡々と答えるミレーユ。
うん、これ俺にも怒っているな。フレアのジェスチャーから察するに思い当たる事は一つだな。
「「「ひっ……」」」
ミレーユの視線に怯える3人……どんな目にあったんだろうか……。
「ミレーユ……ナナには母親を失う気持ちを感じさせたくなかったんだ……俺はミレーユだけを見てるから……」
まるで浮気現場に出くわした妻に言い訳してるようになってしまっている……。
しかし、ミレーユの反応から間違いなく口移しの件だろう。
「えぇ、構いませんよ? これも惚れた弱みです。妻になる為に甘んじて受け入れましょう……でも──これが人命救助でなければ許さないわよ?」
「ミレーユ──ありがとう。ミレーユならわかってくれると信じてたよ。俺は母さんのように助けれる命は助けたいんだ。愛してる──」
俺はミレーユと唇を重ねる。
頬を染めて俺を見詰めるミレーユに今は不機嫌さは感じられない。
良しっ! 俺はこの状況を乗り切った!
「お兄ちゃんの愛は不屈なのです!」
そうだぞ! お兄ちゃんの愛は不屈なんだ!
『なんじゃつまらん……我は修羅場を所望する』
シロガネ……お前……命を助けた恩を忘れたのか!?
「それで、こいつらどうしようか?」
俺の言葉にビクッと肩を震わすチンピラ3人。
「お仕置きが完了してないわ」
今度はミレーユの言葉に震え出す。
「何でも言う事を聞きます……命だけはお助け下さい……」
1人が命乞いをする。
ナナはそんな状況を見てドン引きしている。
うん、俺も予想外過ぎてどうしようかと思ってるよ!
そうだ!
【契約魔法】使えば今後、悪い事出来ないだろう……良し、そうしよう。
「命を助けて欲しいなら────『契約』すれば助けてやるぞ?」
「「「しますっ!」」」
おっ、素直でよろしい。
ここはやっぱり逆らったり、ナナ達に危害を加えられると困るからあれしかないな。
俺は手を3人にかざし、魔力を込め始める。
「では──『俺の命令に服従するか?』──するなら返事をしろ」
「「「はいっ! ──これは!?」」」
3人に光が入っていき、胸には強制的に奴隷紋が刻まれる。
「ん? 『隷属』したんだが?」
【契約魔法Lv6】で奴隷を作る事が出来たりする。
この世界には奴隷が存在しているが、こんな簡単に奴隷を作ってはいけないし、国から認可が降りないと使ってはならないというルールがある。
バレたら俺は捕まるだろうが──
──その時は犯罪を犯したから奴隷にしたと言い張るつもりだ。それに後で解除したら問題無い。
「「「はぁ!?」」」
酷く驚き、絶望の表情を浮かべる。
だって、それが1番安全じゃないか。これから俺達、元凶の所に向かうのにお前ら放置してナナ達置いていけないし。
「悪い事したり、俺の命令に逆らったらしたら──罰則で苦しむ事になってるからな? とりあえず、命令は俺達がいない間はそこの2人を守れ。俺が帰って来たら解放してやる。わかったな?」
「「「へい……」」」
フレアは「下僕ゲットなのですっ!」と声を大きく言っているし、シロガネは『ふむ、主はゲスだな』と念話を送ってくる。
これでは俺がまるで悪役のようだ……。
確かに『隷属』はやり過ぎだと思うが、これ以外に方法が思いつかなかったんだから仕方ないじゃないか……。
「これからどうするのかしら?」
さすがミレーユだ。俺の行動に全く思う所はないようだ。
「これから──タリアさんに呪いをかけた人の所に行こうと思う……どうやら、これは病気ではない。解除には元凶の討伐または解除してもらう必要があるみたいだ」
こんな呪いをかける事が出来る存在なんて自我のある魔物かそっち系を得意とする人ぐらいだろう。
というか……ギルドで聞いた、最近起こってる不審死ってこれが原因じゃないだろうな?
俺って引きが強いな……本当、お陰で胃がムカムカするよ……。
「なら、さっさと討伐しちゃいましょう」
解除をしてもらうのではなく、即座に討伐を選ぶミレーユ。
話し合いの解決は難しいと思っているのだろう。
俺もそんな気がする。
こんな酷い事が出来る相手が交渉に応じる気が全くしない。
「わかった。ナナ、これを渡しておく……さっきの栄養剤だ。目が覚めたら飲ませてあげてくれ。正直言っておく……俺のこの『天使の息吹』は1日が限界だ……だから──最悪の場合もあり得る……だから──「ありがとうございます」……」
『そこから先は言わなくても大丈夫です』
──そう、顔に書いてあるように見えた。
そうだな……辛気臭い事なんか必要ないか。俺達が無事に帰って来たら問題ない。
「……目が覚めたら、たくさん甘えて、優しくしてあげたら良い。俺が──いや、俺とミレーユが必ず助けるから」
「うん……」
目を潤ませるナナ。
「じゃあ、ミレーユ行こう」
「えぇ」
「お兄ちゃんの覇道が始まるのですっ!」
ん? フレアもついて来る気満々?
「フレア……今回は危険だからここで──「嫌なのですっ!」──……待てない?」
「ナナちゃんのお母さん助けるのですっ! フレアは絶対ついて行くのですっ!」
……普段あまり我が儘を言わないフレアがここまで言うのは珍しい……俺もフレアの歳には父さん達について行っていたしな……。
一人で来られるよりは安心か……。
「わかった……必ず言う事を聞くように」
「わかったのです! フレア役に立つのですっ!」
「今度こそ行こう」
2人は頷く。
俺達はトップスピードで駆け出していく──
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