第29話 母親
俺とフレアは近付いていく。
ナナの母親の容体は酷い状態だった。
ベットに仰向けに寝かされており、顔は酷く痩けており目は陥没している。
どう考えても普通の病気とかではないだろう。
『奴の残り香がする……』
奴? 誰だ?
シロガネの知り合いだろうか?
とりあえず、今はナナの母親の事だ。
「お母さん……この人達が今日助けてくれて送ってくれたんだよ! それでね! ──で、──なんだ! ────────」
ナナは母親に俺達がここに来た経緯や、今日起こった出来事を母親に聞こえるように楽しそうに話す。
母親はナナを見詰めて、瞬きで応える。もう声はあまり出ないのだろう。
ただ、出来る限り優しく微笑むように聞いている気がする。
「ナナ、これを飲ませてあげて。栄養剤だから……」
おそらく、栄養失調もあるのかもしれないと自作の特製栄養剤を【アイテムボックス】から取り出してナナに渡す。
この栄養剤は体力回復ポーションも混ぜているので体力も回復するはずだ。
「ありがとうございます。お母さん、これ飲んで──!?」
「……」
一向に口を開けないナナの母親……。
何故だろうか?
俺は【鑑定】を使う──
名前:タリア
状態:衰弱、飢餓共に末期。もうすぐ死亡予定。
──!?
……もうすぐ死亡?
「あ……い……して……る……ナ……ナ……」
タリアは頭を撫でながらナナに精一杯言葉を紡ぎ出す。
「お母さんっ! どうしたの!? ねぇっ! これ飲んだら元気になるよ! このお兄ちゃんSランクの冒険者なんだよ! 凄い人なんだよ!? そうだっ! 今日いっぱいお花売れてお金あるから、お母さんが大好きなご飯いっぱい作ってあげる! だから……だからお母さん──返事してよっ! 一人なんて嫌だよ……一人にしないでよ! お母さんと一緒にいたい──ずっと一緒にいたいよぉ……」
撫で続ける母親……そして、ナナの慟哭がその場に木霊する。
「お兄ちゃん……」
フレアは俺の服を引っ張る。
その顔は『なんとかして』そう書いてある気がした。歳が近いだけに共感しているのだろう。
母親がいなくなる寂しさは俺にもよくわかる。
子供にとって親は頼れる存在──
そして常に近くにいて欲しい存在だ。
なんとかしてあげたい……。
さっきから何か出来ないかと思考を張り巡らせるが解決案は全く出ない。
タリアさんが栄養剤を飲まないのも『もう助からない』と死期を悟っているからだろう。
だからと言って──俺の目の前で死なせる事はしたくない!
──そうだ──
俺は【鑑定】──
いや、【叡智】を発動する。
これなら何かわかるはずだ。何か助ける事が出来る手掛かりを!
目の前に文字が表示される──
タリアは【呪印】により常に生気を奪われている状態。限界まで生気を搾り取られるタチの悪い呪いの一つで苦しみが継続するようになっている。
解除にはユニークスキル【解呪】が必要。【聖魔法】による解呪は一時的にしか効果は無い。
元凶は街から西の森にいる。
【解呪】以外には討伐するか解除してもらう必要がある。
現状で出来る事は栄養剤を飲ませ、限界まで君が【回復魔法】をかけ続ける事で延命可能だ。
それらを行なって……命が尽きるまで──
残り1日。
君の健闘を祈る。
【叡智】──
ありがとう──
俺は元聖女である母さんの息子だっ!
助ける方法があるなら──
母さんは必ず死力を尽くして助けるはず。
「──悪いけど失礼する──」
切迫した状況だと判断した俺はナナを押し退ける。
タリアさんが目を見開いて俺を見てくるが、関係無しに栄養剤を口に含み──
──唇と唇を重ねて、タリアさんに口移しで無理矢理飲ませる。
喉に栄養剤が通ったのを確認した俺はそのまま、布団を捲り──
──タリアさんの胸に手を当てて【回復魔法】を連続して使う。
「──『回復』──『回復』──『回復』──……」
俺は【回復魔法】を使い続けているせいか、少しずつではあるが青白かった顔色が少し血色良くなっている気がする。
「──!?」
ナナが何かを言っているが、俺に聞く余裕は無い。
まだだ、まだ足りない──
【叡智】には俺が限界まで使えばとあった。
俺にはまだ余裕がある……つまり限界では無い──
というか通常の『回復』では足りない。
【回復魔法Lv10】には『天使の息吹』という魔法がある。
これは己の魔力を最初に込めた分の──任意の人への状態異常、傷(部位欠損含む)・体力の完全回復及び継続回復が可能だ。
この継続回復が今回の肝だろう。常に完全回復してくれるが──常人の魔力量では効果時間は少ない。
だが、俺の魔力量は並ではあるが──
スキル【魔力回復】がある為、通常より多めの魔力を込めれる。
その分、長めに使えるはず……それが【叡智】で言う1日なのだろう。
副作用は俺の魔力の最大値が半分ぐらいの状態にしばらくなる──
そして、限界まで使ったら俺はこの後、気を失うだろう。
「フレア──俺はこの後、確実に気を失う……ミレーユを呼んで来てくれるか?」
「わかったのですっ!」
「ミレーユが到着したら必ず俺を起こしてくれ。どんな手を使っても起こしてくれよ? ──『天使の息吹』──」
タリアさんと俺の上に眩い光の天使の輪が作られる。
その天使の輪から優しい光が降り注ぐ。
周りから見たら幻想的な光景に違いないだろう。
もちろんそれを眺める余裕は俺には無いが……。
発動する為にかなりの魔力が消費されていくのがわかる……そして回復してまた消費される。
その繰り返しで気持ち悪い。
しばらくすると、意識が遠のいていく。
どうやら、俺の限界のようだ。
後は、フレアとミレーユに起こしてもらうまで意識を手放そう──
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