第28話 Sランクなんです!(ミレーユが)

 あの後はちょっと困った事になってしまった。


 もう少し言葉を選んだら良かったと思う。


 ただ、【危機察知】スキルが警鐘を鳴らしてきたので早く去りたかった。


 あのまま一人で帰らせたらきっと、大金を持ったナナは襲われていたかもしれなかったからだ。


 俺も迂闊だった……少女が大金を持っていたら襲われる事ぐらい考慮するべきだった。


 簡単にその事を説明した後は信じてくれたようで、今はナナの家に向かっている。


「そういえば名前を聞いていいかな? 俺はエル、君の花を受け取ってくれたのがミレーユ、君と同い年ぐらいの子が妹でフレアだ」


 まだ名前を聞いていなかった事に気付いた。


「ナナです」


「ナナはお父さんやお母さんは?」


「お父さんはいません……お母さんは病気で……今日花が売れなかったら本当にどうしようかと……」


【鑑定】さんの情報通りじゃないか……。


 この【鑑定】はもはや役割を果たしているか疑問だが……。


 俺はふと自分のスキルを確認してみる事にした。たくさんあるスキルを眺める──


 ──!?


 スキル欄に【】というスキルがあった。


【鑑定】の上位スキルなんだろうか?


 確かに情報量は多い……だが、【鑑定】した時の方が俺的にはありがたいのだが……。


 とりあえず棚上げだな……なんか路地裏に入ったら【気配察知】が反応した。


 まぁ、説明した事が嘘にならなくて良かったのか?


 いや、そもそも襲われる事自体が良くないな……。



「お兄ちゃんの予想的中なのです!」


 俺の予想が的中して凄く喜ぶフレア……。


「そうだね……だけど面倒臭い……」


「エル、どうするのかしら?」


 ミレーユが指示を仰ぐ。


「とりあえず、捕獲するか……」


 俺達を囲むように男3人が迫ってくる。


「……エルさん? これってやっぱり……」


 ナナも事態が飲み込めたようだ。


「大丈夫だよ。俺達は冒険者だからその辺の奴らなら対処出来るさ」


 俺は優しく諭すように声をかける。



「お前ら金持ってるよな?」


 男はにやにやと下衆な笑みを浮かべて言ってくる。薄汚れた服装からスラムの人間なのかもしれない。


「持ってるけど?」


 俺は堂々と答える。

 強気なのはミレーユとフレアがいるからだけどな! 1人ならこんな事になる前に逃げている。


「なら──金くれよ? 俺達食うにも困ってるんだよな? ついでに女は置いてお前が去れば見逃してやるぞ?」


 凄いテンプレだ……本当にこんな事あるんだな……王都はまだマシだったのかもしれない……こんなテンプレが型にはまるのは初めてだ!


「なら、仕事してこい。良い大人が人にたかるんじゃない。こいつらは俺の大事な人達だから、手を出すなら容赦はしない」


 俺はミレーユとフレアの手前格好をつける。


「ちっ、お前ら──「結界」──なんだこりゃあ!? 出れねぇ!?」


 襲ってくる前に【結界】を使って各々を閉じ込める。


「煩いからおやすみ──『睡眠』──さて、どうしたもんか……」


 このコンボは俺のお気に入りだ。速やかに事が済む。


 いつもなら放っておくのだが、今回はナナが絡んでいるからな……俺のせいで……。


「ここは私に任せて、エル達は先に行きなさい」


 凛とした態度で俺にそう言うミレーユ。


 何か考えがあるのだろう。


 言葉だけを聞くと前世のラノベとかにあったフラグを思い出すな……。


 この程度の奴らがミレーユをどうにかするのは無理だろうし、先に向かうか……。


「……わかった。俺達は先に進むよ。ナナ、フレア行こうか」


「OKなのです!」


「えっ!? いいんですか?」


 ナナはミレーユを残すのが不安のようだ。


「あー、ミレーユってSランク冒険者なんだ。ゴロツキぐらいなら問題ないぞ? フレアだってCランクだ」


「Sランク!? フレアちゃんも歳が変わらなさそうなのに凄い……」


 羨望の眼差しを俺達に向けるナナ。


 俺にもその視線向けてるけどね。俺はEランクなんだよ……だから俺のランクは言わないでおくね?


「さぁ、行こう。ミレーユ──送り終わったら、後で迎えに来るよ」


「えぇ、お仕置きしたら向かうわね?」


 ウインクしてくれるミレーユはとても可愛い……その言葉の真意がわかっていなかったら見惚れるぐらいだ。


 見惚れていないのか? そんな事はないが、これからこいつらに待ち受ける『お仕置き』とやらを想像すると哀れに思ってしまう。


 きっと、次に会う時は真人間になってるはずだ。



 俺達はにこにこと笑うミレーユを置いて歩き出す。



 しばらくすると、古い古民家の前に到着する。


「ここです……送ってくれてありがとうございました」


「これぐらい構わないさ……食料とかはあるかい? この間、買いすぎたから分けてあげるよ?」


「だ、大丈夫です! そこまでしてもらうわけには……」


「って事はないんだね? 買いに行くにしても今日はさっきみたいな奴らに狙われるかもしれないからやめておいた方がいい。君も栄養を取った方がいいしね……」


 子供はお腹いっぱい食べている方が良い。


「……何から何までありがとうございます……」


「じゃあ、中に入れてもらっていいかな?」


「はい……」


 俺達は中に入る。


 奥の部屋に人の気配がする。


 おそらく、ナナのお母さんなのだろう。【叡智】の情報通りなのか確認したい……。


「お母さん、ただいま!」


 ナナは近付き声をかける。


「お……かえ……り……」


 母親の声は枯れていて、かろうじて言葉が理解出来るぐらいだった。

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