第27話 団子より花
「これからどうしようか?」
ギルドを出た後どうするか2人に聞く。
「せっかくだし、観光でもする?」
観光か……フレアもいるし丁度いいかもな。
「そうだなぁ~「エルさん! 伝言がありますっ!」──? 伝言?」
受付嬢さんが俺を呼び止める。
「そうなんです! カレン様とメリル様より伝言を預かっております。『国境の街にいるんでしょ? もうすぐ追いつくからそこで待っていなさい』──と……」
「……」
追いつくのか……口調的にメリル様だな……何気に行動を把握されている気がする。
会うのが少し怖いぞ?
「観光は中止するわよ。さぁ、女狐が来る前に行きましょうか」
ミレーユが即座に意見を変えた!?
だが、どうしたもんか……。
カレンさんを置いて来たのは正直言って悪いと思っている。
メリル様と会うのは少し怖いけど、カレンさんを待ってあげたい気持ちの方が強かったりする。
「いや、ここで待とう」
「喰われたいのかしら?」
いや、そんな真顔で言わないでくれないかな?
なんとか残れないだろうか……そうだ!
フレアによく使っていた手を使うか。
「大丈夫さ。俺にはミレーユしか見えていない。それにカレンさんに悪いし、待っておこう。それに俺の直感が残れと言っている……」
直感……これをよくフレアの我が儘を止める時にに言っていた。
別に【直感】スキルを持っているわけではない。
「……エルがそこまで言う時は昔から大事な事が起こる時……わかったわ……」
信じてくれたみたいだ。
というか……昔からそんな事あっただろうか?
「エルさんの先見……」
受付嬢さん、俺にそんなのはないからね?
「お兄ちゃんには未来が見えるのです!」
フレアよ……俺には未来なんて見えないから!
「まぁ、なるようなるか……」
何も起こらなくても何も無かった事にしよう……。
「──まさか、良くない事が!?」
受付嬢さん……声大きい上に、別に悪い意味で言ってないから!
周りが凄く俺達に注目している……。
貴女のお陰で俺にとって良くない事が現在進行形で起こってます。
まぁ、何も起こらなくても俺の評判が落ちるだけだしいいだろう。もうそういうのは慣れている。
「まぁ、なるようになりますよ……」
「あっ、そうそう! 最近は不審死される方が増えているようなので気をつけて下さいね!」
なんか前世で言う、フラグが立ったような気がするんだが……。
「不審死?」
「えぇ、最近よく冒険者が干からびて死んでいるという報告を受けているんです。大丈夫だとは思いますが、お気を付け下さい。もしあれならエルさんの先見の明で解決よろしくお願いします! きっとエルさん達ならあっという間に解決です! 報酬もちゃんと出ますよ!」
いや、そんな危ない事件とか全力で遠慮したいんだが……。
「……まぁ、もし見つけたら善処しますね? さぁ、とりあえず街でも見て回ろうか」
俺達は興奮する受付嬢さんと注目する冒険者達を尻目に冒険者ギルドを後にする。
「『空間認知』と『気配察知』にいっぱい反応があるのです!」
街を観光しているとフレアがそう言って来る。
「うんうん、そうだね。今ちょうど繁華街みたいな所だからね。お兄ちゃんが実況してあげよう。まず、目の前には大量の人がいる。そして、その周りにはお店がたくさん並んでいるぞ? アクセサリー、武器、日用雑貨、食べ物──なんでも置いてある──」
目の見えないフレアにはこんな感じで、どんどん話をしてあげていく。
時折り、フレアは「そうなのですか!」と興奮気味に反応してくれるから説明し甲斐がある。
色々と説明していると──
ふと、少女が視界に入る。
籠を持ちながら花を売っている。
服装は小汚い感じで髪の毛はぼざぼさ──
もしかしたら孤児かもしれない。
顔色も悪いな……。
【鑑定】を使ってみよう……。
名前:花売りの少女
スキル:【料理Lv4】
「……」
名前すら表示されていない【鑑定】はもはや役に立たないのではないだろうか?
「お兄ちゃん、どうしたのです?」
「あぁ、何でも無い……」
目の錯覚だと思い、もう一度【鑑定】を使う。
名前:ナナ (10歳)
スキル:【料理Lv4】
母親と2人暮らしではあるが、母親の調子が悪く、花を売って生活をしている。
魔物が活性化しているご時世では花を買う人はほとんどいない……彼女は花が売れないと食うにも困るぐらい貧しい生活を送っている。
あぁ、母親の為に頑張る少女……彼女を救えるのは──この情報を見た貴方だけだ!
ミッションを発令する!
彼女と母親を救えっ!
……何だこれ?
名前が表示されたと思ったら──
何やら色々と情報が書いてあるんだが?
というか──ミッションとか発令されるものなのか!?
しかも、これ知ったらスルーする事も出来ないんだけど!?
「お兄ちゃん?」
「ん、あぁ……お兄ちゃんはちょっと寄りたい所を発見したから一緒に行こうか?」
仕方ない……見て見ぬふりは出来ないな……行くか……。
「花は要りませんか? ……誰か買いませんか?」
切なそうな顔をしながら声を掛ける少女の声が聞こえて来る。
歩く人は誰1人見向きもしない。
汚らしい格好が輪をかけているのだろう。
皆、路肩の石を見るような視線を向けている。
俺はそんな少女に少しずつ近づく。
「買うよ」
俺は優しく語りかけるように言う。
「──!? ありがとうございます! 一本半銅貨1枚になります……」
半銅貨1枚は500円ぐらいの価値だ。
花一本にそれだけのお金を出して買う人は少ないのだろう……。
「──籠の中にある花を全部貰うよ」
「──はいっ! ありがとうございます!」
薄汚れてはいるが、とても良い笑顔を見せてくれる。フレアと変わらない歳の子だ……これぐらい元気な方が絶対良い。
「お釣りはいらないよ」
俺は金貨を2枚渡す。
「──お客さん、これ──「お釣りはいらないよ?」……はい……あり……がとう……ございます……」
俺の2度目の言葉に涙を流す少女。
きっと、もう限界だったのだろう。
「──『清潔』──さぁ、顔を上げてごらん? 君の花は俺を救う事が出来るんだよ? 見ててね?」
俺は【生活魔法】の『清潔』を使い汚れをとってあげる。
「はい」
何をするの? そんな顔で俺を見るナナ。
「──ミレーユ」
俺はミレーユに声をかけ、その場に跪く。
「ふふっ、なぁに?」
ミレーユはたぶん、俺が何をするかわかっているのだろう。顔は見えないがおそらく微笑んでいる笑い方だ。
「俺とこれからも一緒にいてくれるかな? いてくれるなら受け取ってくれ……」
俺は花をミレーユの前に差し出す。
「──もちろんよ。ありがとう──大事にするわ……」
俺は顔を上げる。
ミレーユははにかみながら花を見詰めている。
さすがに俺も恥ずかしいな。
俺はナナに向き直る。
「ねっ? 俺を救ってくれたでしょ? 君はもっと自信を持って良いんだよ? 花は確かにお腹は膨れないかもしれない──だけど、こうやって人の心を動かす事は出来るんだ。だから、もっと笑顔でいたら良いと思うよ?」
「──はい!」
良い返事だ。
『我は花より飯が良いぞ』
シロガネ、お前空気読めよっ!
俺は花より団子なシロガネを無視して、ナナに声をかける。
「さぁ、君の家に行こうか?」
「えっ?」
いや、別に襲うわけじゃないんだし、そんな驚愕の表情をしないで欲しい。
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