第26話 胃が……

 ガレット事件が昨日に勃発して、次の日、俺はまた冒険者ギルドに向かっている所だ。もちろんミレーユ達もだ。



 冒険者ギルドの扉を開ける──


 全員の視線が一気に集まる。


 もちろん俺にではない。ミレーユにだ……美人だからな……。


「おい、声かけようぜ?」


「やめとけって……あの隣にいる男は確か昨日──『白銀の誓い』って言っていたぞ?」


「……今噂のパーティじゃねぇか……」


「ドラゴンとか軽く捻り潰すらしいぞ?」


「マジかよ……じゃあ、あの隣にいる男がリーダーなのか?」


「そうだな。噂じゃ、1番弱いらしいけど──実力を隠しているそうだ」


 ……既に冒険者の中では噂になっているようだ……俺達はドラゴンを倒してないんだけどな……。


 あと、俺は実力なんて隠してなんかいないんだが!? なんなのその噂!?


 風評被害だよ!


 もう笑うしかないな……。


「見てみろ……あの余裕の表情を……俺達なんて眼中に無いって笑ってるだろ?」


「確かに……あれが白銀のリーダーか……」


 ……こうやって誤解が生まれていくんだな……。


 もう、放っておこう。



 受付まで俺達は進む。


「──エルさんっ! まさか『白銀の誓い』の皆様で来て頂けるなんて嬉しいですっ!」


 受付嬢さんは興奮している……昨日より呼び方がフランクだ。


 そして、少しジャンプをしている為、大きなお胸様が揺れている……。


 もちろん健全な男である俺は視線が自然とそこに行くわけで──


「エル?」


 ──こうやってミレーユに睨まれるのもわかってた!


「ミレーユ……俺はお前一筋だ」


 俺は真顔でミレーユに言う。


「次はないわよ?」


「はい……」


 どうやら許されたらしい……。

 次があったらどうなるのか知りたいけど、知ったら後悔しそうだ。


「それより、受付嬢さん?」


「はいっ! ミレーユ様ですね!? 何でしょう?」


「Sランクのね? 通信魔道具をオーランド支部に繋げてギルドマスターと受付嬢のレーラを呼び出してくれないかしら? 緊急案件よ」


 ギルド間は通信魔道具でやり取りをしている。

 Sランクが緊急案件と言えば大概繋がるだろう。

 ちなみに私用での使用は基本的に出来ない。

 ミレーユの事だ、きっと何か大事な要件のついでにメリル様やアメリアさんの事をついでに聞こうとしているのだろう。


「少々お待ち下さいっ!」


 勢いよく中に入る受付嬢。


「緊急案件なのか?」


 一応、俺はミレーユに聞いてみる。


「そうよ? 私はレーラにも用があるのよ」


 うん、やっぱり何か大事な事があるようだ。


「程々にな?」


「大丈夫よ。私は優しいお姉ちゃんよ?」


 満面の笑みだな……。


「……そ、そう──「ミレーユは優しいお姉ちゃんなのですっ!」……」


 言葉に詰まりそうになる俺にフレアが割って入ってくれる。


 正直助かった……。


「さすがフレアちゃんはわかってるわね? 私の優しさは時には相手を凍らす事も出来るわよ? ねぇ? エル?」


 やはり、即答しなかった事がダメだったのだろう……俺に同意を求めている。


「もちろんさ。ミレーユの愛をひしひしと感じるよ」


 甘さと優しさは違う……きっとそう言いたいのだろう。


 あぁ、可哀想なレーラさん……。


「お待たせしましたっ! 繋がりましたので奥の部屋へどうぞっ!」



 俺達は奥の部屋に歩いて行く。



 部屋の中には水晶玉が置いてあった。


 そこにはレーラさんの姿と……ギルドマスターであるマッチョさんが映っていた。


 心なしか──


 マッチョさんが怯えているように見える……レーラさんは凛としているな……。


『ミレーユ、緊急案件と聞いた……どうした?』


 マッチョさんが顔張らせて聞いてくる。


「えぇ、メリルと王女、そして知らない人がが加入した件について──申し開きがあるなら聞くわよ?」


『……』


 黙るマッチョさん。予想通りのような気がするな……。


「レーラ?」


『はい! ギルドマスターがメリル様とアメリア様に脅されて加入を認めました! ミリーさんはアメリア様のお連れです!』


「なるほど……レーラ……貴女──心を入れ替えたのね? お姉ちゃんは嬉しいわ」


『もちろんです! 私はもうあの頃の私とは違います! 『白銀の誓い』のファン1号ですから! ちゃんとエル君の凄さは私が色々と布教しています! 例えば──』


 その後、マシンガントークで俺の行なってきた事を告げて行く。


 ミレーユは満足そうな顔をしている。


 いったい何があったんだ!?


 レーラさんにはミレーユに以前あった怯えはない……。


 しかもファン1号って……しかも、俺の噂ってレーラさんが原因か!?


「マッチョ、レーラに免じて今回だけは許すわ。次は無いわよ?」


『すまん……もしかして……緊急案件はその件なのか?』


「そうよ? エルを狙う輩が増えたら嫌じゃない?」


 マッチョさんと俺は絶句する。


 ミレーユの事だから、他に何か大事な用もあるのだろうと思っていただけに戦慄を覚える。


 マッチョさんはもっと衝撃を受けているに違いない。


『……今後は私用目的は控えてくれると助かる……』


「考えておくわ」


 どちらが立場が上かはもう明白だろう……。


 噂の原因はわかったが……。



 通信が切れて部屋を出る。


「ありがとう。貴女のお陰で安全は守られるわ」


 しれっと外にいた受付嬢に声をかけるミレーユ。


「良かったです!」


 言葉って怖いな……このやり取りだけ聞くと──


 まるで何かの危機から守る為に俺達が行動しているように聞こえてくる。



 高ランクになると、こういう事が多いのだろうか?


『銀翼』にいた時は父さん達がこういうのをやっていたから知らないんだよね。


 それより、俺が持ち上げられ過ぎてて怖い……。


 知らず知らずの内にレーラさんの命を救えてて良かったし、レーラさんの気持ちは痛いほど伝わったけど……。


「ミレーユ……俺、普通に旅をしたいんだけど……」


「無理ね……既に手遅れよ……」


 ですよね……。


「お兄ちゃんが周りに認められたのです!」


 そうだね……このまま名前だけが売れると絶対厄介だと思うぞ?


「エルが認められて私達は嬉しいわよ?」


「そうなのですっ! 覇権握ったるのですっ!」


「……まぁ、その内わかるだろ……」


 俺が強くない冒険者だと……。


「エルさんの真の凄さはこれからなんですね!」


 何気に受付嬢のお姉さんがぶっ込んで来て、俺は苦笑する。


 この先、不安過ぎる。


 名前が売れ過ぎる前になんとか阻止せねば……このままだと俺の胃がヤバい……吐きそうだ。

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