第25話 貴方が神か!?

 宿屋の食事処で4人掛けのテーブルに座る俺達は食事が来るのを待っている。


「いや~何故か、俺達ってオーランド王国で英雄になってるらしいよ?」


 俺はミレーユとフレアに冒険者ギルドでの事を、そう切り出す事にした。


「へぇ……」


 ミレーユは思案するような表情を見せて、俺に微笑む。


「お兄ちゃんがいるから当然なのです!」


 フレアは安定のフレアだな。


『飯を所望する』


 シロガネ……お前は一応、討伐ランクSの中でも強い災害級のフェンリルだろう。もう少し我慢しろ。


「……何で英雄扱いされてるんだろう? まだ、ミレーユやフレアならわかる。だけど、俺の噂って自分で言うのもあれだけど、かなり悪いと思うんだが……しかもメリル様とアメリア王女様とそのお付きの人がパーティに加入してる新事実を叩きつけられたんだけど……」


 そうだよ! アメリアさんって王女なのもさっき知ったんだよ!


 孤児院になんでいるのさ!? あれか! お忍びって奴なのか!?


 ……そういえば『銀翼』のファンだったな……イザベラさんに話を聞きに来るぐらいだし、父さんの子供である俺にも興味があったんだろか?


 次に会う時……顔を合わせ辛いな。


「……私も確認したいわ……明日ギルドに行って事情を聞いてくるわ」


 ミレーユの言葉に俺は頷き応える。


 ありがたいし、頼もしい……けど、それってたぶんレーラさんに聞くんだよね? 程々にしてあげてよ!?


「お兄ちゃんの凄さがわかってる人達には王女様もいるのですっ! 凄いのですっ!」


「そうだろ? お兄ちゃんって、王女様と面識あったんだぞ? 凄いだろ? まぁ、父さん達のファンらしいから、たぶん俺とフレアにも興味があったんだろうけど……」


 最後らへんは小声で言う。


「さすがなのです! これはもう覇権を握るしかないのですっ!」


「フレア……俺はそんな気は全くないぞ? のんびり旅を楽しもう。フレアが楽しめればそれでいいんだ。さぁ、ご飯も来たし食べようか」


 目の前には料理が並べられる。


 俺とミレーユは無言で食べる。


 ……感想としては……まぁまぁかな……。


『不味い……主の方が美味いぞ……これはゴミだ……』


 シロガネの容赦ない食レポが炸裂する。


 念話でよかった……。


「お兄ちゃん……」


 深刻そうな顔をするフレア……何かあったのか!?


「どした? フレア」


「これからはお兄ちゃんの食事が食べたいのですっ! 旅に出てからフレア我慢してたのです! 野営してる時の方が幸せなのですっ!」


 フレアっ! その言葉は嬉しいが──


 声が大きい!


 周りの人達の視線が痛いっ!


「うんうん、これからはお兄ちゃんが作ってあげるからね? だから声を小さくしようか?」


「おじさんとおばさんの料理ぐらいじゃないとフレアは嫌なのですっ! 皆お兄ちゃんより美味しくないのですっ!」


 フレアの口は既に俺とレシピを教えたあの店ぐらいしか受け付けないようだ。


 ……人が近寄る気配がする……。


 ポンっと肩を叩かれて後ろを振り向くとコック帽を被ったおっちゃんがいた。


「俺の飯が不味いと聞こえたが?」


「いえ、聞き間違えです」


 俺は即答する。『美味しくない』とフレアは言ったのであって、『不味い』とは言っていない。


「そこの嬢ちゃんが『お兄ちゃん』とやらの方が美味しいと言ってるが? なぁ兄さん?」


「……」


 それは事実だな。


「ちょっと厨房まで来てもらおうか?」


 これ、俺が作らさせる流れやん……。


 ミレーユに助けを求めようと視線を移す。


 くいっくいっと顎で行きなさいと言わんばかりに合図を俺に送る。


 ミレーユの心を俺が代弁しようと思う。


『エルの料理を持ってきなさい。私はエルの料理が食べたいわ』


 きっとそんな感じだろう……。


 俺は項垂れてコック帽のおっちゃんに連れ去られる。



「さぁ、兄さんの腕前を見せてもらおうか?」


 いや、俺普通に飯食いたいんだけど……おっちゃんの料理も不味くないって……。


「お兄ちゃんの凄さを見せたるのですっ!」


 フレア煽らないで!? 何で厨房にいるのさ!?


「はぁ……それ使いますね?」


 もう簡単なのにしよう……じゃがいもを使うか……。


 俺は溜め息と共に料理を作り始める。


 まず、ジャガイモを細く切って千切りにしてからボウルに入れる。


 そこに【アイテムボックス】にある。予め作っておいたオークの燻製を出して、小さく切る。これも千切りが好ましい。


 混ぜて、塩胡椒して、後はバターをひいたフライパンで円状に裏表を焼くだけだ。前世の記憶にあるお好み焼きのようだ。


「──完成っと……」


「……食べてもいいか?」


「どうぞ……」


 コック帽のおっさんは口に運ぶ。


「──!? これはっ!? シンプルな料理なのにこの味の深み!? ジャガイモが細く折り重なっているせいで新たな食感も楽しめる!? これは新しいっ! しかも美味すぎる! 涙が止まらない──貴方が神か!?」


 食レポをしながら、その場で跪き、俺を見て拝むおっさん……。


「いや、違います」


 俺は即答する。


【料理Lv10】はやはりヤバいな……適当に作っただけのジャガイモのガレットでこんな事になるとは……。


 人に振る舞うのは身内だけにしよう……。


「お兄ちゃんのガレット食べたいのです! おじさん食い過ぎなのですっ!」


「多目に作ってあるから、これ持ってミレーユ達と食べておいで」


 フレアは【神速】を使い一瞬にしてガレットと共に消えた。


 さぁ、俺も戻って食べよう……。


 戻ろうと動き出す俺の服が後ろから引っ張られる。


 犯人は料理長だ。


「これぞ、至高の食べ物っ! 兄さんっ! ──いや、神よ! 弟子にして下さい!」


「え? 嫌です。レシピ教えるから勘弁して下さい……」


「神のレシピを教えて頂けるのですか!? なるほどっ! 貴方様を満足させたら弟子にしてくれると!? わかりました! いつか必ずや弟子になってみせます!」


 この人は何を言っているんだろうか?


 誰も条件なんて出してないし、弟子にするつもりも全くないぞ?


 俺はレシピを置いてそっと、その場を後にした。



 皆の場所に戻るとミレーユ、フレア、シロガネがガレットを頬張っている姿を見て笑顔になる。


 ミレーユが頬張る姿は初めて見たな。


 リスみたいで可愛い。


 皆でわいわい騒いでその日は終わりを迎える──



 ちなみに、ガレットは急速に広まり、この街の名物になった。

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