第24話 救国の英雄
次の日、俺達は国境付近の街に到着した。
王都ほどでは無いが栄えている印象だ。一応、俺が住んでいたオーランド王国が魔物の侵攻を抑えきれなかった場合に備えて、ここも頑丈な作りになっている。
とりあえず、ミレーユとフレアには宿屋の手配を頼み、俺とシロガネは冒険者ギルドに向かう。
シロガネの従魔登録とカレンさんに位置を知らせる為だ。
冒険者ギルド同士は連絡して情報を共有している。こうやって伝言も頼めるのはとても便利だ。
到着した俺とシロガネは受付に向かう。
「すいません、従魔の登録をしたいんですけど……」
「はーい、そこの可愛いわんちゃんでいいかしら?」
……そうだな……確かに見た目は可愛いな……見た目は……。
「そうです」
「何の魔物かしら? まだ幼体みたいだけど……」
「えーっと、シルバーウルフです」
とりあえず、無難な魔物の名前を言う。見た目も銀色だし信じてくれるだろう。
『我はフェンリルだ』
煩い。俺の脳内に響くから少し黙ってろよ!
今のお前の見た目はシルバーウルフだろ!
『我は下賤なシルバーウルフではない』
……。
「このわんちゃん可愛いわぁ。冒険者カードをお願いします」
『ふむ、女子に好かれるのは嬉しいものだ』
こいつ……。
「はい……」
俺はジト目でシロガネを見ながら冒険者カードを受付嬢に渡す。
「……はい、パーティ『白銀の誓い』ですね──って、救国の英雄パーティじゃないですかぁ~」
ん?
救国? 英雄?
「言ってる意味がわからないんですが……」
俺は不思議そうな顔をして聞く。
「『オーランド王国』の英雄パーティは今有名で──かつての英雄パーティ『銀翼』の再来と噂ですよ? まさかこんな所で会えるなんて!」
興奮して俺に話しかけてくる受付嬢。
いったい何がどうなってるんだ?
俺達普通に旅を満喫していただけなんだけど?
「特に何もしてないと思うんですが……」
「またまたぁ~疫病から国を救い、ドラゴンからの攻撃を防ぐ結界を張り巡らせ──討伐。新しいレシピを普及させ、食事事情も改善させた英雄──『白銀の誓い』! しかもパーティにはアラン様の再来と言われるフレア様、元『銀翼』の【冷笑】ミレーユ様、才気あふれるAランクの【真紅】カレン様、元【六聖】様の【聖炎】メリル様、そして──王女アメリア様とそのお付きのミリー様という豪華なメンバー! これから活躍間違いなしのパーティですよ!」
俺は呆然となる。
……色々と突っ込みたい所ではあるが、ある意味俺のやってきた事は間違いじゃなかったという事だろうか?
ドラゴンの討伐以外は俺が仕込んでおいた奴だな。万能薬も危険な魔の森で材料集めて必死こいて作っていたな……何気に【調合】スキルもそのお陰でレベル8だからな。
しかし、『白銀の誓い』のメンバー紹介に俺がいない件について!
一応俺リーダーなのになんだけどな……影が薄い?
しかも会った事が無い人が何故かメンバーにいる上にメリル様とアメリアさんがいつの間にか加入しているし!
「はぁ……そうなんですか……」
俺はなんとか言葉を紡ぎ出す。
「そして、貴方がその中心にいるパーティリーダーのエル様っ! 英雄アラン様の息子ではありますが── 戦闘能力は皆無。 周りに評価されずに冒険者ランクを不当に下げられ、落ちこぼれ扱いされて追い出された不遇の英雄……その力はあらゆる事に精通し、先を見越す先見の目の持ち主っ! 彼に見抜けない物はないっ! そして隠された実力は未だに見た者はいないっ!」
……俺の話になったと思って傾聴していたが──
それ絶対に俺じゃ無い人じゃなかろうか?
先見の目なんてないよ?
普通さ……疫病にしても、まだ終息してなかったらまた流行るってわかるよね?
結界も、ただ防壁がボロボロだから設置しただけなんだけど……。
持ち上げられ過ぎて重圧が半端ないんだけど!?
な・に・よ・りっ! 俺に隠された力なんてねぇよっ! 誰だよ、そんな出鱈目な噂流したの!?
『主は凄い奴なんだな……普通に見えるのに……』
俺の隣にいるワンコロも感心している。
シロガネよ……お前の目は間違いないぞ? 戦闘以外は多才だとは思うけど。
確かに認めて欲しかったのは否定しない──
だけど、ここまで周囲の過剰な期待はいらないぞ?!
「きっとそのシルバーウルフも普通じゃないんでしょ?」
「……えぇ、ちょっと特殊な狼ですね……」
絶対にフェンリルってバラしたくなくなったな……絶対大騒ぎになる。
絶対どこかで『魂の盟約』を解除しなければ……。
『我はフェンリルだ』
黙れっ! 絶対に俺以外に話すなよ!?
「では、シロガネで登録しておきます。『白銀の誓い』のパーティランクはBになりましたのでどんどん依頼を受けて下さいっ! これからのご活躍を期待しています」
「あまり大した事ないですから……」
俺は手を振りながら、そう返事をして冒険者ギルドを後にする。
……どうしよ?
というか──
カレンさんはまだわかる。だけど、メリル様とアメリアさん、後会った事すら無い人がパーティに加入している事実が凄く怖い……。
しかも、アメリアさんが王女だったのも今知ったし……。
どうやって加入させたんだ……。
まさか──
マッチョさん……何か弱味を盾に……。
俺は想像するのを途中でやめる。
しかし、困ったな……。
メリル様がいつの間にか加入していて何もしてないのにパーティランクがまさかのB……俺の個人ランクはEなんだけど?
Bランクの依頼とか受けたら死ぬんじゃなかろうか?
オーランド王国での悪夢が蘇る……。
よく臨時パーティを組んでくれていた高ランクパーティがいた。
そいつらは俺とそんなに歳が変わらない……ここ2年ぐらい前に冒険者になったばかりの人達なのだが……明らかに才能溢れる人達だったので死なせない為にも先輩風を吹かせて臨時パーティを組んだのが始まりだ……。
そこからあいつらはどんどんランクが上がっていった……今ではSやAランクパーティだ。
しかもメンバー全員がちゃんと実力を持っている。
そんな奴らが俺を昔のように誘ってくるんだ……。
明らかに俺が相手に出来るような魔物じゃない……地竜やワイバーンなどの討伐ランクB以上の魔物ばかりの中に特攻していきやがる。
俺は死にたくないので全力でサポートをこなした結果──
【結界魔法】【援護魔法】【回復魔法】などのサポート系のスキルは軒並みカンストした。まぁ【回復魔法】はフレアの為に元から使っていたが……。
毎回血反吐を吐いていた記憶しかない……。
【応援】スキルには『スキル強化』の応援がある……これの副次効果で対象のスキルレベルが上がりやすくなる。
その為、才能ある若者はどんどん開花していく……。
そして、更に強くなったあいつらは、また俺を連れて無茶な狩りに行く──
その負のスパイラルだった。
本当、何回死ぬかと思ったか……。
今回、王都を襲ったドラゴンの時は近くに属性竜の目撃情報があって魔の森に行っており帰って来ていなかったのだろう。
あいつらが死ぬ姿が全く想像出来ないから、その内帰って王都を拠点に守ってくれるだろう。
まぁ、今は昔の事より、今起こっている事態だ。Bランクの依頼など受けたくないな……。
「シロガネはワイバーンとか相手に出来るか?」
とりあえず討伐ランクBの亜竜のワイバーンが相手どれるか聞いてみる。
『ふむ、あんなトカゲなど相手にならんな』
「おっ、心強いな」
『当然よ……この姿じゃなければな……』
この姿だと討伐ランクBでもヤバいのか……。
「なぁ……いつ弱体化が終わるんだ?」
『知らぬ……そのうち元の姿に戻るであろう……』
「ちなみに弱体化している今の状態だとどれぐらい強いんだ?」
『うむ、わからん……』
頼りになるのかならないのかわからんな……。
「とりあえず、俺を守ってくれたらいいかな……」
『うむ、主は強くなさそうだしな……』
実際強くない……。
パーティ内で1番弱いしな……。
「「「……」」」
ん? 何か周りでひそひそ聞こえてくるな……。
「ねぇ、あの子……犬に話しかけてるわよ?」
「ヤバいわね……しかもあんな子犬に守らせるなんて……」
「きっと友達がいないのよ……可哀想な子……」
「顔は良いのに……」
しまった……シロガネは【念話】スキル使ってるから気が付かなかった……。
これ──
俺が完全に痛い子じゃないか……。
しかも、俺が話しかけた後にシロガネは「くぅ~ん」と返事をしているから余計に悲しくなるような状況だ。
俺は【疾走】スキルを使い、その場を後にした。
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