二章 国境付近で応援する──
第22話 出会い
凄い寒気がする……鳥肌が止まらない。
誰かまた俺のろくでもない噂をしているのだろうか?
俺達は旅立って一月程が経っている。
現在は街をいくつか通り過ぎているし、もうすぐで国を出れるだろう。
ここまでの道のりは魔物ともそんなに出くわさないし、とてもスムーズだったと思う。
寄った街の冒険者ギルドでカレンさんに伝言もお願いしている。
しかし、一月近く経つというのにカレンさんが追い付けていないのは何故だろう? 彼女なら直ぐに追いつけそうなんだけどな……。
ちなみにフレアなんだが……普通に自分の事が自分で出来る事に、この旅で気付いた……。
まぁ、【空間認知】で場所や形がわかるから当然と言えば当然なんだが……。
それでも何故か俺にやって貰おうと甘えて来てくれる。
一度断ったら泣きそうな顔をされてしまった……。
もちろん俺は喜んで手伝った事は言うまでもないだろう……。
兄妹だし問題ないはずだ! そう断じて邪な考えなど無い!
愛する妹の為に俺は何だってやってやるさ!
そんな事を考えながら歩いている俺だが、長い事歩いていて足が痛い……。
「なぁ、ここらへんでご飯にして野宿しないか?」
「「賛成(なのです)」」
もうすぐしたら俺の住んでいた国の領土を抜ける。
しかし、もう夕暮れだ。国境付近の街に着いたとしても入れないだろう。
まぁ、早く休みたいとずっと思っている事は言わない。
きっと、ずっと部屋にいたフレアなんかは疲れているに違いない。うん、そうに違いない。だから俺はこまめな休憩をよく挟んでいる。
俺は妹思いの優しいお兄ちゃんだからな!
「フレア疲れただろ?」
「全然なのですっ!」
「……」
お兄ちゃんけっこう限界なんだが?
賛成はご飯だけなのか!?
「ご飯は何にするのかしら?」
苦笑しながらミレーユから質問される。きっと俺が限界なのがわかって助け舟をくれたに違いない。
「あ、あぁ、今日はシチューにしようと思う」
「やったのですっ! シチューは至高なのですっ!」
フレアはジャンプして喜び、ミレーユは微笑みながら頷く。
2人ともシチューを大歓迎のようだ。
こんな野宿をしていても、出るご飯は高級店並だからな。
そもそも、野宿用のテントが爺さんのお陰で快適過ぎる。宿屋に泊まってると勘違いしそうだ。
良い物を貰ったな……マッチョさんから……。
そんな事を考えながら、黙々とシチューを作る。
しばらくすると、ことことと煮込んだシチューは完成する。
「さぁ、食べよう──か?」
シチューの鍋にが何かが激突し、無惨にも鍋は地面に転がり中身は溢れる。
「「……」」
大気が怒りに満ちている……。
フレアの激流のような殺気とミレーユの清流のような殺気が入り混じって、大変な事になっているぞ?
ちなみに激突したのは小さな狼だった。
おそらく魔物だろう……。
見た目は凄く可愛い……きっとお腹が空いていたに違いない……俺のシチューを周りをガン無視で食べ続けているからな……。
こいつがこれから殺されると思うと不憫だ……。
ミレーユとフレアはそっと剣を抜き、串刺しにしようと構える。
「ちょ、ちょっと待とうか!?」
俺は急いで静止するよう声をかける。
「「待ちませんっ!」」
なんと意気のあった返事だろうか……。
シチューを食べ終わった小さな狼はこちらに振り向く。
『馳走になった』
──!? これは念話か!?
愛くるしい姿とは違い──
おっさんの様な渋い声で俺たちに語りかける狼。
正直、ギャップが酷過ぎる……そこは可愛い子供のような声を所望する!
「じゃあ、次は貴方が晩御飯になる番ね? 死ね──」
ミレーユはお構い無しに攻撃態勢に入り──
「ご飯の恨みは怖いのですっ!」
──フレアも同調する。
ミレーユとフレアは【応援】していないのにそれに近い動きを見せる。
それだけ怒っているのだろう……。
だが、その攻撃に対して、狼はサラッと避ける。
『我は礼を言っただけである……このフェンリルである我をここまで満足させる食事は久しぶりだ……よし──我の従属を許そう』
俺は思った……フェンリルってこんなに小さかったっけ?
それにフェンリルといえば余裕の討伐ランクSだな……まだ子供なのだろうか?
いや、声おっさんだし、これが成体なのか?
何より態度でかいな……。
「──『氷結』──」
自称フェンリルの言葉が癇に障ったのだろうミレーユは【氷結魔法】を問答無用で放つ。
『ぬおっ!? 何をするか!?』
身動きが取れなくなる自称フェンリル。
「──とっとと死ねですっ!」
追い討ちをかけるフレア。
『速い!?』
今の2人には誰が相手でもきっと関係ないのだろう。
一方的にボコられる自称フェンリル……。
気がつけば自称フェンリルは血塗れで俺の前に献上されていた。
「狼食えるですか?」
というフレアの発言でぷるぷる震える自称フェンリル。
「うん、狼の肉は美味しくないから食べるのはやめようね?」
「そうなのですか……なら、お兄ちゃんのシチューを盗んだので死刑なのです! 重罪なのですっ! 首チョンパなのですっ!」
妹様の怒りは鎮まる気配が無い。
「ちょっと待とうか? シチューはまた後で作ってあげるから落ち着こうか? ミレーユも不服そうな顔しない。2人とも可愛い顔が台無しだよ?」
「「えへへっ」」
うん、これでとりあえず丸く収まったな! これがチョロいって奴か!
問題は俺の前に差し出されて震えている自称フェンリルだ……。
見た目は愛くるしい……声はおっさんだが……。
たが、可愛い……良し──
「そこの自称フェンリル、お前従魔にならないか?」
『……我はフェンリルだぞ……人間の子供などの──なりますっ! ならせて下さいっ! お願いしますっ! だからそこの2人をなんとかして下さい!』
ミレーユとフレアが剣を持つと自称フェンリルは態度を一変し、とても素直になった。
「なら従魔契約をしよう」
俺は右手を出して魔力を込める──
『はぁ?! これ──』
何か言ってるが関係無い。
俺は従魔がいつかほしいと【契約魔法】を最大まで上げている。
そうしたらなんと!
その上位スキルっぽい【魂の盟約】というのが使えるようになった!
これは凄いスキルに違いないっ! 使った事は一度も無いが!
一応、魔物使いと言われる人達がどうやって従魔と契約しているのか俺は詳しく知らない。
おそらく【契約魔法】を使っているのだろう。
なら、その上位である【魂の盟約】でも問題ないはずだ。
前世の知識にあるラノベでは確かこういうのは繋がりが強い方が得するというのがお約束だろう。
いつか従魔が欲しいと密かに練習した甲斐があったな。
名前を付けてやろう。
そうだな──
「お前の名前は──『シロガネ』だ」
白銀の読み方を変えただけの安易な名前だが、良いだろう。
真紅のように紅い光が俺とシロガネに入って行く。
シロガネと繋がりを感じるな……。
だけど……これって感覚的にヤバい感じがするぞ?
なんか……俺の想像してたのと違う気がする……シロガネも何やら叫んでいるが──
こいつはきっと、命が助かって喜んでいるに違いない。
『何で魂の盟約やねんっ!』
違った……どうやら【魂の盟約】を使った事に抗議されているようだ。
まぁ、とりあえず念願の従魔だぜっ!
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