第20話 旅立ちの後 2

 ~レーラ視点~



 空高く魔法が放たれた時に緊急招集になり、原因を確かめるとメリル様が放ったと聞いた。


 その時に姉さん達が去ったと聞いた。


 それから色々とトラブルが起こった……。


 まず、災害クラスの魔物──


 ドラゴンが王都を襲う。


 もう終わったと思った……。


 この国は近くにある魔の森の直ぐ側で、魔物の防衛ラインとしての役割がある。その為、周辺各国から支援を受けて成り立っている。


 ここ数年、魔物が活発で襲撃を受けていたけど、なんとかなっていた。それは低ランクの魔物だったからだ……。


 だけど、ドラゴン相手に出来る人は──


 今はいない。


 騎士団や冒険者達が必死に立ち向かっていく……。


 そして、ブレスにより薙ぎ払われて死んでいく……。


 皆思ったはずだ……この国は滅びると……。


 だけど、滅びはしなかった。


 元『銀翼』のイザベラさん、『六聖』のメリル様、元『紅』のリーダーであるカレンさんの活躍で難を逃れた。


 まず、王都に向けられて撃たれたブレスはイザベラさんが魔道具を発動させて結界を張った。


 ドラゴンすら寄せ付けぬ結界に王都の民は歓喜した。



 3人はすぐ様動き出す。



 イザベラさんは【空間魔法】の上位スキル【次元魔法】を習得している唯一の人だ。


 メリル様は【火魔法】の上位スキル【獄炎魔法】の使い手。『六聖』と呼ばれる位の人は一騎当千の猛者ばかり。『銀翼』に引けを取らない武力を持っている。


 カレンさんは若くしてAランクになった才能ある冒険者。そして、『銀翼』の単純な近接戦闘最強だったブレッドさんの娘だ。




 3人はドラゴンを相手に全く引けを取らず、圧倒する。


 まずはメリル様の【獄炎魔法】が空に放たれる。


 姉さん達が出て行った時に祝杯と言って放たれた魔法とは違い、凄まじい威力を持った一撃はドラゴンに直撃する。


 追い討ちと言わんばかりにイザベラさんの──


 おそらく【次元魔法】による攻撃により、翼が切断されて地面に衝突するドラゴン。


 でも、ドラゴンもやられてばかりじゃない。


 何度もブレスを放ってくるが、王都に張られた『結界』に全てが防がれる。


 近付いたカレンさんがおそらくユニークスキルであろうスキルを使用する。


 あらゆる武器が顕現し、「エルのアホ~っ! 置いていくなぁぁぁぁっ!」と叫びながら鬱憤を晴らすようにドラゴンをタコ殴りにして地面に磔にした。



 最後はメリル様の特大の火球で消し炭になった。


 圧倒的武力はかつての『銀翼』を思い出させてくれる。


 国民は彼女達がいるなら安心しただろう。


 けど、この後──イザベラさん以外は国を出てしまった。


 メリル様は出る前にギルドマスターであるマッチョさんを脅して、『白銀の誓い』に加入申請をしていた事から──


 カレンさんと共にエル君を追いかけて行ったんだろう。


 そして、メリル様は最後にこう言った……。


「この国に価値はなくなった」


 と……。


 教会の人達もその後、一緒に去って行った……。


 その為、治療院の役割を果たしていた教会が一時的に閉鎖される。


 国が神殿のある本部に問い合わせをすると既にメリル様を含め、この国にいた教会関係者は全員辞めている事を確認する。


 そんな時に更に追い討ちをかけるようにトラブルが続いた。


 終息したと思っていた疫病がまた蔓延したのだ。


 いつも治してくれていた教会は機能していない。


 体力がどんどん落ちて行き、死に至る病気……特効薬は未だに無い。治す手段……いや薬はあるけど──


 とても高価だ……。


 感染してしまった……。


 エル君がいれば治してくれたかもしれない。


 エル君には酷い事をしたと思っている……私がもう少し信じてサポートをしっかりしてあげれていたらきっと、こんな事態は避けられたかもしれない……。


 私はこのまま、ベットの中で死ぬのかもしれない……せっかく会えた姉さんも怒らせたまま旅立ってしまった。


 しっかり謝りたい……。


 姉さんにも……エル君にも……。


 エル君がいる時は薬草採取ばかりしていたお陰で体力回復ポーションの普及が追いついていた。


 今思えば──


 きっと疫病の為だったんだろう……あれだけ異常な数の薬草をどこで見つけて来たのか気になる……王都周辺は刈り取られているはず。


 まさか1人で魔の森まで行っていたのだろうか?


 姉さんの話からすると彼は教会でもフードで顔を隠して治していたらしい。


 それに、恥ずかしがり屋な彼は夜な夜なフードを纏い顔を隠した人が治療しているという噂も聞いた事がある。声でバレてみたいだけど。


 英雄の息子ではあるけど、戦いが不向きな彼は彼なりに出来る事で『銀翼』が守ったこの国を裏から支えていた。


 特に教会からの信頼は凄かった。エル君がいなくなって、教会から抜けたあの人達はきっと彼を探しに行ったのだろう。


 あれはもう……エル君の信者だと言っても過言では無い気がする。


「はぁ……」


 姉さんから聞かされた話が胸に突き刺さる……。


 戦闘が得意じゃないだけじゃないか……何で他の所をしっかり見てあげれなかったんだろう……。


 もう立ち上がるのも辛い……。


 食事も満足にとれていない。


 見舞いには誰も来ない……それはそうだろう……わざわざ感染するリスクを犯してまで来ないだろう。


 もうすぐ死ぬのだろうか?



「レーラちゃんや、生きとるかの?」


 この声は──


 小さい頃よくお世話になったお爺さんの声……今も変わらず何でも屋みたいなお店をしていたはず。


「……な、ん、とか……」


「こりゃいかんのぅ……これを飲みなさい」


「……ん……」


 ポーション? 体の怠さが嘘ようになくなる。


「これで一安心じゃな」


「ポーションですか?」


「これはじゃな」


「──!?」


じゃ……わしはエルから高価な万能薬を大量に預かっておる。この事を見越しておったんじゃろうて……今は疫病にかかっておる者達の家を回っておる」


 特効薬は無い──


 だけど、治せる薬はある……それが万能薬……かなり高価で金貨1枚ぐらいで取り引きされていたりする。


 作るのにもかなり希少な材料が必要なはず……。


「エル君……」


 私は涙が溢れ出る。


 酷い仕打ちをした私達を助ける為に高価な万能薬まで作ってくれた……その事が胸を締め付ける。


 万能薬の材料なんて、この辺だと魔の森ぐらいしかない……わざわざ危険を犯してまでこんな事をしてくれてたなんて……。


 お姉ちゃんの言う通り──


 私は間違っていた……。


 それに教会の人達が追いかける理由もわかった気がする。


 英雄アラン、元聖女キャロル──


 この2人の子供は落ちこぼれなんかじゃない。


 戦えないから英雄じゃないわけじゃない。


 アランさんとキャロルさんの血を継いでいるエル君はきっと────


 心の底から英雄なんだと思う。


 あんな仕打ちをした私達を助けるなんて優しい心の持ち主はいないと思う。


 助けられた、この命でせめて償いたい……。


「お爺さんっ! 私も一緒に周ります!」


「うむ、これでエルの名誉を挽回しようじゃないか。声を高らかに『英雄エル=オーガストが民を救ってくれたっ!』──とな……」


 私は笑顔で応える。


 エル君は落ちこぼれなんかじゃない。


 間違いなく──


 この王都の英雄だ。



 それから程なくして疫病は終息した。


 ちゃんとエル君の活躍のお陰だと吹聴したよ?


 エル君がまた帰ってきた時の為に──


 居場所ぐらい私が作るっ!



 そういえば──


 アメリア様が個人的に私に会いに来たのはビックリしたな……。



 この国の王女様がいったい何の為にそんな事をしてたんだろう?

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