幕間

第19話 旅立ちの後 1

 ~カレン視点~


 エルにやっと思い出して貰えたのに置いて行かれた……。


 家にもいない……そんなに私が嫌だったのだろうか?


 追いかける為に旅の準備を整えて出ようと歩いていると王都に激しく鐘の音が鳴り響く。


 この鐘の音は魔物の襲撃だろう。


 最近は魔物が活性化している。


 以前より魔物の強さも数も増している。


 何か起こる前兆なのだろうか?


 そんな事を考えていると空にはドラゴンが見えた。


 討伐ランクSの災害クラスの魔物だ。


 Sランクといっても冒険者と同じくピンキリだ。


 魔物の場合は普通の人が軍隊で対応出来ない人を総称してそう言っている。冒険者はある程度の実績と人外の強さがあればなれると聞いている。


 あれは普通の竜。属性竜ですらない。


 高ランク冒険者が束になって戦ったら勝てるだろう……だが、今この王都に私の知っている限り高ランク冒険者はいない。


 皆、少し離れた魔の森に行っている。


 知っている限りでも私のいた『紅』以外にAランクのパーティは3つ、Sランクパーティは1つある。


 そして、そのほとんどがエルと組んだ事のある若手の有望冒険者達だ。


 エルは有望になる冒険者とよく臨時パーティを組んでいた気がする。


 英雄の子が落ちこぼれと呼ばれていても、英雄になりそうな人が寄ってくる。


 これはエルが英雄の資質があるからじゃないだろうか?



 そういえば、私が初対面でボコった時に父が──


 『エルは弱いが、パーティには必須と言えるぐらいサポートが上手い。裏での立役者だ。エルは今は弱くてもいつか強くなれる──それぐらいの努力はしている奴だ。また会いに来た時に確かめてみるといい』


 そう言っていた。


 私も父と同意見だ。エルが側にいるだけで私は次の高みに行ける──そんな気がする。


 それに間違いなく、彼は強くなっている。手段は限られるが道具や魔法を使って苦難を乗り越えられるぐらいには強い。


 だって、無理矢理連れて行った魔の森で五体満足で帰って来れているもの……。


『紅』でも油断すればやられる──そんな場所で生き残れる実力はある。まぁ、『紅』のメンバーは正直言うと私より弱い。私が抜けた今はBランクパーティ相応の力しかないだろう。


 今エルと本気でお互いに戦っても──


 今では一方的に私が勝つのは難しいかもしれない。


 


 まぁ、今はそんな事はどうでもいい……空から煩く喚いているドラゴンを潰そう。


 今の私なら苦戦はしてでも倒す事は出来るはず。


 それにおそらく、緊急依頼が発動されている……このまま放置したらギルドから罰則を受けてしまう。



 私は門まで行く。


 すると、元『銀翼』のイザベラさんと『六聖』のメリルさんがいた。


「おやおや、カレンか……エルに置いていかれたかえ?」


 イザベラさんの言葉に苛立ちがMAXになる。


「煩いっ!」


「ふぉっふぉっ、怖い怖い。まぁ原因は教会の狂信者が追い回したからねぇ? メリル?」


「すまんとしか言えない……」


「どういう事よ!?」


 メリルさん曰く──


 司祭の前でエルが部位欠損を治してしまった事が原因と聞いた。


 次代の救世主はエルだと叫びながら司祭達が追い回したそうだ。


 逃げる為に私を連れて行く余裕が無かった……そう言う事だろう。


 やはりエルは凄い人だ。幼い頃の私の目に狂いは無い。


 だけど、この鬱憤は必ず晴らす──


 とりあえず、丁度いい奴が空を飛んでいる。


「私はエルを追いかけます」


「あいつを倒してから行ったら良い。エルが大切にしていた王都を守ればエルにも感謝されるぞい?」


 イザベラさんの言う事ももっともだろう。エルが大事にしていた王都は守りたいと思う。


「私も『六聖』として最後のお仕事を全うします。エルのいないこの王都はもはや、価値はありません。私も辞めて──エルを追います。カレンさんだったかしら? 一緒に行きましょうか?」


 メリルさんも追いかけるつもりなのか……1人より2人の方が旅が楽だろう。


「よろしくお願いします──って。ブレス!?」


 2人と会話している途中にドラゴンのブレスが王都を襲う──


「はぁ……仕方あるまい……」


 イザベラさんは魔道具の起動装置のボタンを押す。


 すると──


 即座に王都に結界が張り巡らされる。


 ブレスは結界に阻まれ、王都は無傷だった。


 私とメリルさんは驚いた顔をする。


「イザベラさん……これは?」


 同じ思いのメリルさんが聞く。


「エルが託した物じゃ……今の王都は戦力的に活性化した魔物を退けるのが難しいと判断したんじゃろうて……エルは全力で結界を張るとわしでも簡単には破れんからのぉ……魔道具を作る才能もある。戦闘以外は多彩な坊やじゃな」


「なるほど……あの時はまだ手を抜いていたのね……」


 メリルさんは納得しているが、その言葉に私は驚愕する。イザベラさんでも苦労する結界なんてそうそう張るのが非現実的だ。


 そういえば、前回の氾濫の時も防壁だけしか被害を受けていなかったし、中に被害はなかった。


 まさか結界を張っていた?


 しかも私達をサポートして、回復魔法をかけながら?


 最後らへんは血を吐いていた気がする……きっと体に負荷をかけすぎたのだろう……。


 やはり、エルは凄いっ!


 絶対に会いに行く!


 今はとりあえず上のトカゲを殲滅する!

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