第17話 神のみ技?

 俺達の目の前に現れたのは1人の冒険者であろう女性が血だらけで人を担いでいた。


 ギルドで見た事がある……確かDランクになったばかりの人のはずだ。


 おそらく、Cランクの依頼を受けて失敗したのだろう。Cランクの依頼からは急激に難易度が上がっている。その為、こういう状況になる人は今までもたくさん見てきた。


 担がれている人が視界に入る。


 両足が無く、出血多量……意識も無い。よく生きていると思うような状態だった。


 シスター全員ががその場で【回復魔法】をかける。



「どうか、どうかお願いします! 妹なんですっ! 助けて下さいっ!」


「「「……」」」


 手遅れ──


 全員がそう思っているのだろう。誰一人言葉を発しようとせず黙りながら回復魔法を使い続ける。


 それに治せたとしても止血が限界。失った両足は戻らない。


 部位欠損の治療は【回復魔法】のレベル9で可能になる。


 つまり──


 今この場では俺しか治療出来ない。



 もう、王都から出るし──フード無しでいいだろう。


 俺は前に出て右手をかざす。


「お前は落ちこぼれ!? 治療の邪魔をするなっ! 妹の命がかかっているんだっ──「黙りなさい」──……」


メリル様が平手打ちをして黙らせてくれる。


「やってくれるの?」


 俺は頷く。


 この場で俺が部位欠損を治せると知っているのはメリル様とミレーユだけだ。


 悪目立ちたくない俺は──


 ここでは普通の治療しかしないと約束していた。


 だけど、この状態は一刻を争う。


 俺は再度、患者の前に立ち、体に触れる──


「──『回復』──」


 次第に失った足は逆再生するように元通りになっていく。


 周りの人は唖然とその光景を見詰める。


 部位欠損の時って、エフェクトが凄いんだよね……眩しいぐらい輝くから……。


「お、お姉ちゃ……ん……じゃない……エル君?」


 そういえば、この姉妹も冒険者に成り立ての頃は俺によく話しかけてくれていたなぁ……懐かしいな。


 姉の方の反応から俺の悪い噂を聞いて避けていたように思うが……。


「気が付いたね……お姉さんはそこにいるよ。無事に治療は終わりだ……依頼で無理はしたらダメですよ?」


 安心したのか、そのまま目を閉じる。



「……あ、ありがとう……ございます……酷い事言って、ごめん……なさい……」


 姉は助かった妹が助かり安堵し、俺に気不味そうに謝罪する。


 俺は姉の方にも手を振って応える。



 その直後に司祭様が興奮して言葉を発する。


「エルっ! さすがはキャロル様の御子息っ! 神は大変喜んでおるっ! 部位欠損を治して、その余裕──今代の聖女様よりも間違いなく力量は上っ! 部位欠損はまさしく神のみ技っ! 今まさに! ここに聖人様が誕生なされたっ!!!」


 喜んでるのは神様じゃなくて司祭様ではなかろうか……。


 いや、シスター全員も俺を潤んだ瞳で見ている……これはバラしたらやっぱりダメだったんじゃ……。


 メリル様を見る──


 片目を瞑り俺を見ている……。


 この人の片目を瞑る時──


 だいたい嵌められた時だ。


 やってしまった……公の場でやってしまった事により俺の逃げ場が無くなった可能性がある。


 早く離脱せねば……。


「ミレーユ、フレア──逃げるぞっ!」


 俺の掛け声でミレーユと俺は【疾走】スキルを、フレアは【神速】スキルを発動し、一気に加速して出口に向かう──


「逃がさんっ! 神は言ったっ! エルは我らの救世主になれるだろう──とっ! 絶対に教会に入ってもらうっ! なぁに、エルなら直ぐに『六聖』になれるっ! 皆の者っ! 『鶴翼の陣』じゃっ!」


 司祭様は槍を携えて俺たちの前に立ち塞がり、シスターに命令する。


 シスター達が半円を囲むように即座に移動する。


 さすが元神殿騎士団の団長だ……手際が良すぎる。


 それに、絶対これシスター達もその辺の冒険者よりも強いだろ!?


 このままだと捕まる──


 メリル様は何故か静観している。


 逃げるなら今しかない!


 俺は【応援】スキルと【補助魔法】の身体強化魔法を2人に使う。


「ミレーユは前をっ! フレアは後ろを──無力化をっ!」


 俺達は阿吽の呼吸で動き出す。


 俺達……訓練あまり出来ていないのに動けるのが凄いな……。


 司祭様は確か、かなり強かったはずだ……少なくとも、「訓練じゃぁぁっ!」と以前に組み手をさせられた時は酷い目に合った気がする。


 ミレーユ以外に対応が出来ないだろう。


 そして、メリル様が動いたら捕まる可能性が高い。


 俺は強力な【結界魔法】を使う為に集中する──


 既に目の前ではミレーユと司祭様が剣と槍の応酬を開始している。


「さすが『銀翼』メンバーじゃっ! 血がたぎるわいっ! それに予想以上に速いな……」


 ミレーユとフレアは2倍の身体能力になっているはずなのに司祭様は余裕がありそうだな……もしかしてかなりヤバい?


「エルのお陰よ?」


 いや、ミレーユもまだ様子見の段階みたいだ。微笑しているという事は焦ってはいないはず。


「かっかっかっ、是非とも欲しいっ! 我が槍に貫けぬ物は無いわっ!」


 ミレーユの言葉を信じているあたり、司祭様は俺のに勘づいているかもしれない。


 魔物の狩りに付き合った時に俺の【援護魔法】と【応援】を使った事があるのも理由かもしれないが……。



 2人の戦闘は激しくなっていく──



 フレアはシスター達を相手に立ち回る。


 さすが、司祭様に鍛えられた人達だ。フレアの素早い攻撃を紙一重で躱していく。


 経験の差だろう。


 このまま続くとフレアが傷付くかもしれない。


 この世界の女性って強過ぎないだろうか?


 そんな事を考えながら魔力をどんどん込めて『結界』を発動する準備を整える。


【結界魔法】は少し特殊でレベルによって込められる魔力量が決まっている。それに比例して強力になっていく。


 この人の力量から──せめて、レベル7以上の結界じゃないと足止め出来ない。


「──よし。ミレーユっ!」


 俺の掛け声と同時にミレーユは先程までの様子見ではなく、本気の動きを変えて司祭様をシスター達の所へ吹き飛ばす。


 さすがはミレーユ。昔に連携していたのを覚えているから動きが早い。


「──ちっ、やりおるわ……」


 良し、次はフレアだ。俺はミレーユの場所まで移動し──


「フレアっ! 戻れ」


「ん」


 フレアもこちらに呼び寄せる。


「──『結界』──」


 教会内を強力な結界で覆い閉じ込める事に成功する。


「なんのこれしき────なにっ!? これはエルかっ!?」


 司祭様は槍で突くが、弾かれて驚愕の表情を浮かべて俺を見る。


 メリル様はまだ動く気配はない。


 2年前のミレーユでも手こずる結界だ。時間稼ぎは出来るはず。


 逃げるなら今しかない。


「良しっ! 逃げるぞっ!」


 俺達は最高速度でその場を離脱する。


 スキルバレると面倒臭い事になるとは思ったが……まさか挨拶周りがこんな事になるとは……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る