第15話 挨拶周り 1

「じゃあ行ってくるね? 2人はカレンさんに伝言と馬車の手配とかよろしくね?」


「合流出来たらするわね?」


「お兄ちゃん行ってらっしゃいなのです!」


 朝ご飯を食べた俺達は行動に移す。

 フレアはミレーユと一緒に行くと言ったので今回は別行動だ。


 2人にしばしの別れを告げて、まずは──


 何でも屋の爺さんの所だ。


 店に着いて中に入る。


「おや? エル、昨日来たばかりなのにどうしたんじゃ? 野営セットの金は冒険者ギルドのギルドマスターがちゃんと払ってくれたぞい? 悔しそうな顔しとったが何したんじゃ?」


 爺さんの言葉に俺は苦笑いを浮かべる。


「マッチョさんはミレーユの逆鱗に触れたんですよ……」


「なるほどのう……そりゃぁ気の毒に……」


 神妙な顔で頷く爺さんは色々と想像しているのだろう。


「まぁ、マッチョさんは自業自得なのでどうでもいいですよ。とりあえず俺達は明日には王都から出ます。お別れの挨拶に来ました」


「……そうか……ついに行くのか……アラン達も喜んでおるよ……」


 今度は感慨深く頷き──


 俺を見据える。


「だと良いです……それとこれは餞別です。お世話になったので受け取って下さい。これだけあればなんとかなると思います。もし使わなかったら適当に売り捌いて下さい。では、また王都に寄ったら来ますね? じゃあ──」


「──エル! これはっ!? おいっ──」


 俺は【空間魔法】と同じが付与された小袋を置いて即座に去る。爺さんが呼び止めるが俺は止まらない。


 きっと、あれは今後役に立つはずだ。


 じゃあな、爺さん……長生きしてくれ。




「さて、次は──あそこかな……」


 俺は次の場所に到着する。


 そこは──


 俺が前にアルバイトしていた定食屋さんだ。親子3人で店を経営していて、俺とフレアが2人っきりになった時によくしてくれた人達だ。


 一度は閉店しかけたが、俺が前世の記憶を使って料理のレシピを渡し、【応援】した結果──店は持ち直した経緯がある。


 他では食べれない料理もあり、【応援】スキルで料理人のスキルLvが高くなった結果──


 高級レストラン並の味が安価で食べられる王都でもかなり人気のお店になった。


 この間、久しぶりに会ったら新しい従業員を雇うとか言っていたので順調なのだろう。



 今は昼前だし仕込みの時間のはず、お客さんはそんなにいないだろう。


 俺は扉を開けて中に入る。


「あら、エル久しぶりじゃない! あんたっ! エルだよっ!」


「おっ、エルじゃねぇか! どうしたんだ!? 何か食うか!? お前の教えてくれた料理のお陰で店が潰れなくて済んだんだっ! いくらでも食っていけっ! フレアちゃんも連れてきたら良い!」


 恰幅の良い女性と元気いっぱいのおっちゃんが歓迎してくれる。


「お久しぶりです。ありがとうございます。王都から出るので挨拶に……」


「「……」」


 2人は言葉に詰まり悲しそうな顔をしてくれる。


「俺なんかを気にかけてくれてありがとうございます。また王都に来たら寄りますね……」


「お前は俺達の息子みたいなもんだ。気にするな。娘と結婚せんか? お前がいてくれたら安泰なんだが?」


「そうよ! 娘と結婚してここに住めばいいのよ! そうしたらあの子も冒険者辞めてお淑やかになるわよ! それに周りの噂なんか気にしなくていいのよ!」


「すいません……娘さんにもよろしく言っておいて下さい」


 2人の娘は冒険者だったりする。毎日、店で出す食材を狩っている。


 もちろん面識もある。

 何故か俺に凄く懐いていたりする……食べさせた料理のせいだろうか?


「決意は固いか……」


「ええ、これ──餞別です。また来た時に食べさせて下さい。それと、新しい従業員決まってないなら、イザベラさんのとこで雇ってもらえると嬉しいです。では、お元気で……」


「おまっ、これ────」


 しんみりするのは嫌なので、餞別であるレシピをテーブルに置いてそそくさと店を出る。


 美味しい料理は皆を笑顔にさせる。この先も人気の店であってほしい。




 さぁ、次はだな。


 お昼時だし、いつものように食事を振る舞うには丁度いいだろう。


 俺は孤児院に到着する。


「こんにちわ~」


「「「エルっ!」」」


「ぐほっ」


子供達が俺の声に反応して近寄って来てくれる。中には特攻してくる子もいたりするぐらい人気者だったりする。


 現在進行形で蹴られたりしているが──うん、人気者のはずだ。


「イザベラさんいるかな?」


 ここの孤児院の責任者であるさんがいないか聞くと。


「呼んでくる~」


 と1人の子供が呼びに行き、しばらくすると白髪のお婆さんが出てくる。


「エルじゃないかい」


「ご無沙汰しています」


「今日はどうしたんだい?」


「これを……」


 俺は金貨が入っている麻袋を渡す。父さん達が残してくれたお金の残り全てと俺が稼いだお金の一部が入っている。

 イザベラさんは昔に『銀翼』にいた元冒険者だ。その縁もあり、けっこう遊びに来ていた。


 前の魔物の襲撃もこの人が隠れて大半を倒している。


 この王都で最強なのは? と聞かれたら間違いなく俺はイザベラさんの名前を出すと思う。


 間違いなく──ミレーユより強いはずだ。


 孤児院の経営状況はこの人がいるからそんなに悪くはないけど、イザベラさんは見た目の通り、相当な歳だと聞いている。


 体調もそこまで良くはない。無理はさせたくないと俺は定期的にこうやって寄付をしたり、食事を作ったりしている。


 まぁ、昔話する事もあるから楽しい。


「いつもすまないねぇ……」


「これで最後になるかもしれません……」


「そうかい……ついに雛が巣立つか……」


 達観したような視線を俺に向ける。


「お世話になりました……これを渡しておきます」


 昨日の夜に急いで完成させた物を渡す。


「……これは魔道具の起動装置だね……」


「はい……ないとは思いますが──もし、何かあった時に使って下さい……けっこう頑丈に作っているので大概は大丈夫だと思います。説明書も入れときましたので、また見ておいて下さい。それと、アメリアさんはいますか?」


「今日はアメリアは──」


「います! 今来ましたっ! エルさんが来てるって聞いてっ!」


 走って来たのか顔を真っ赤にさせてアメリアさんが現れる。見た目は金髪碧眼で三つ編みにしており、おっとりした目尻をしている俺と同い年の女の子だ。


 いつの間にか、イザベラさんの所に通っていた子で俺が来る日は必ずいる事が多い……今の所──


 100%だ……。


 誰から聞いて来たんだろ? 子供に聞いてだろうか? いや、イザベラさんの口ぶりから今日は来ていなかった可能性が高いと思うんだが……謎だ。


「会えて良かったです。もう王都から出ますので、お別れを言いに来ました……」


 俺は要件を告げる。


「──!? なんで……まさか……『紅』の豚共が……」


 最後らへんはぶつぶつ言っていて聞こえなかったが紅の豚って聞こえた気がする。某有名アニメは関係ないだろう。


「ほら、そんな悲しそうな顔しない。また王都に来たら寄るよ?」


 アメリアさんも俺に気さくに話しかけてくれたり、良くしてくれていた子だ。

 何やら父さんのファンだとか……子供である俺を父さんと重ねて見ているのかもしれない。

 ここにいるのもイザベラさんに父さん達の話を聞くのが目的でお手伝いによく来ているぐらいだしな。


「でも……会えなくなるの寂しいです……」


「別に俺が居なくても大丈夫さ……役に立たない英雄の息子だしね?」


 俺は苦笑しながら言う。


「そんな事ありません! エルさんがいなかったら王都はどうなっていたことか! あの騎士団員……絶対許さない……」


 買い被り過ぎだと思う。そして、また最後らへんが声が小さくて聞こえない……。


「ははっ、ありがとうございます。俺なんかが役に立てるなら良かったです。オークの肉が大量にあるんでお裾分けしますね? 確かイザベラさんは【空間魔法】使えましたよね?」


【空間魔法】は希少な魔法で使い手が限られる。それをイザベラさんは使える。さらにそのも……。


「そうだねぇ……貰えるもんは貰っておくわい……」


「なら、後で出しますね。とりあえず──ご飯作らせて下さい。お昼にしましょう」


 俺は厨房を借りて、オーク肉を使い、『トンカツ』と『生姜焼き』を振る舞った。


 子供達は大いに喜び、涙を流しながら食べ──


「エル……お前、旅に出るのやめて、ここで飯作れ……」


 イザベラさんは真顔で残るように言い──


「エルさんがいなくなるともう美味しい食事が食べれなくなるのね……家より全然美味しいのに……」


 アメリアさんは酷く落ち込む──最後らへんは相変わらず聞こえない。


 俺は必要とされる嬉しさを感じながら昼食の時間は過ぎ去っていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る