第14話 嫉妬
「お兄ちゃん……」
しばらく歩いているとフレアが話しかけて来た。
「フレア、どうしたんだ?」
「あれがお兄ちゃんの言ってた奴なのです?」
やっぱり気になるよな……。
「そうだね。あれがお兄ちゃんに嫉妬してる人達だ」
俺もまさかこのタイミングでとは思わなかったが。
「凄い嫉妬されてるです!」
目が見えなくてもわかるぐらい凄かったしね。ちなみに嫉妬ではないと思うが……。
「まぁね。お兄ちゃんは寛大だから気にしないんだ。それにミレーユが怒ってくれたから大満足さ!」
「さすがお兄ちゃんなのですっ!」
フレアにお兄ちゃん凄いゲージがあったなら……きっとメーターを振り切っているだろう。
ミレーユはミレーユでニコニコしている。
さて、本格的に王都から離れた方がいいな……あそこまで煽動もされるとは思わなかった。
「ミレーユ、必要な物はほとんど買ったし──明後日には出発しよう」
「そうね。私がそのうち魔法をぶっ放す可能性の方が高いしね」
その言葉に俺の頬は引き攣る。
ミレーユって昔はもっとクールな感じだったんだけどな……少なくともこんな脳筋発言はしていなかった。
時というのは人を変えるのだろうか?
いや、きっと俺の為に怒ってくれているだけなんだろう。うん、そのはずだ!
まぁ、どんなミレーユでも好きなのは変わらないしね。
「それはやめておこうね? ミレーユが優しいの知ってるから、きっとそんな事にならないと思うけど」
「エルに嫌われたくないもの……しないわよ? 明日はどうするのかしら?」
少し間が空いた上に疑問形なのが凄く引っかかるが、ここはミレーユを信じよう。
「あー、明日は挨拶周りをしたいんだ……仲良くしてくれた人達にね」
「そう……それは付いていって大丈夫なのかしら?」
出来れば遠慮して貰えるとありがたいな……今日みたいな事になったりしたら嫌だし。
「出来ればミレーユにはカレンさんに旅に出る事を伝言して欲しいのと、馬車の手配を頼みたいんだ……後、レーラさんにも用があるんでしょ? 明後日には出るんだし、久しぶりに会いたい人とかいれば挨拶してきたらいいと思うよ?」
「怪しいわね?」
「いやいや、全然怪しくないよ? 何か心配事でもあるの?」
「女の子の匂いがする……」
「ふふっ」
「何で笑うの?」
「いや、浮気の心配されてると思うと──ミレーユがちゃんと俺の事を好きなんだなって実感して嬉しくて笑ったんだよ。大丈夫だよ。知り合いや知人に別れを言いに行くだけだから」
好きになると盲目になると言うけど、ミレーユが今そうなのかもしれないな。こういうのなら嫉妬されるのも悪くないな。
「……ならいいわ」
そっぽを向いて誤魔化すミレーユは可愛い。
フレアは「ひゅーひゅー」とか揶揄ってきてるのもご愛嬌だろう。
「さぁ、日が暮れてきたし家に帰ろう。晩ご飯はハンバーグだぞ?」
「やったのです!」
「エルのハンバーグ……ごく普通の朝ご飯であれだったのに……ハンバーグはどんな風に変わってしまっているんだろう……」
フレアは喜び、ミレーユは昔の俺の作ったハンバーグと今がどれだけ違うのかとぶつぶつと呟く。
俺は苦笑しながら足を進める……。
2人は楽しみみたいだし、今日は普段あまり作らない煮込みハンバーグにしよう。
この世界にはハンバーグという食べ物はあまり、普及していない。少なくともこの王都では俺が作ったのが1番最初だったりする。
俺みたいに前世の記憶持ちや、転生者、転移者という人達がいれば──もっと普及していてもいいと思うが、今の所は前世の記憶にある料理や技術というのは聞いた事がない。
ちなみにハンバーグが存在してなかった理由としては、肉をミンチにする習慣がないらしい。ミンチ肉は動物の餌という認識のようだ。
今ではこの王都の名物料理になってしまった。
一応、商業ギルドに著作権みたいな物はあるんだけど──
知らない俺はハンバーグのレシピと引き換えに雀の涙ほどの金額を渡されただけで印税的な物は騙されて貰っていない。
まぁ、商業ギルドがハンバーグのレシピを独占しようとしたので、ムカついた俺が王都中の飲食店にアレンジレシピを普及させて広めたせいで独占はおろかレシピに価値がなくなり、商業ギルドは俺を恨んでいたりする。
まぁ契約もしていないし、広めてはいけないとも言われていないから向こうの落ち度だと思うけどね。
あれ以降は商業ギルドは通さない事がほとんどだな。信用ならないし……。
この王都では碌な人間としか会ってない気がしてきたな……。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
2人の為に俺が特製のハンバーグを作る。
それだけで十分だ。
ちなみにハンバーグを食べた2人の反応は──
「お兄ちゃんのハンバーグは世界一なのですっ! 今日のはいつもより美味しいのですっ!」
とフレアは興奮し。
「な、なんなの……この至高の食べ物は……」
とミレーユは感動のあまり放心していた。
他にも「エルにご飯を作るのが恥ずかしい」とも言っていたが、俺は気にしないので是非、手料理をいつか作ってほしいと思う。
今回わかったのだが、【料理】スキルは料理に対する意気込みで大分味が変わるようだ……。
自分でも美味しくて感動してしまった。
皆が寝静まった後は──
作業場に移動する。
俺は物作り系のスキルは根こそぎ習得している。
お世話になった人達に少しでも感謝の気持ちを込めて、この先必要になるであろう物を作り続けた。
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