第13話 有名人 2
雑談しながら歩いていると、最近依頼などで忙しくて行けなかった市場に着く。
いつもは爺さんのとこで買い物してるからな……あそこ何でも売ってるから便利だったりする。
市場を見渡すと、大分活気が戻っている。
前に来た時は疫病が流行ってほとんどの店が閉まっていたからな……。
うんうん、とても良い事だ。
俺は必要な物を片っ端から買って行く。
途中、けっこうな頻度でサービスしてもらったりした。
一通り買い終わり、近くの喫茶店みたいな場所でお店で飲み物をテラスで飲む。
「お兄ちゃんは凄いのですっ!」
ここでもフレアは俺に感動してくれている。ミレーユは微笑ましそうに見ている。
しかし、何が凄いのだろうか?
「凄いとこあったか?」
「だって、皆お兄ちゃんにサービスしてくれてたです! 人望が無いとそんな事ないのです!」
なるほど……確かに一理ある。
だが、真相は俺が疫病が流行っている時に興味本位で周りに聞いたら病気と聞いて、家まで行って回復魔法を使ったり、自作のポーションをあげただけだったりする。
母さんの教え──
『目の前に救える命は救わないとね? お金が無い人はこっそり治しちゃいなさい? 教会に見つかると面倒だからね?』
を守っている。無料で行うとそれを生業にしている人に迷惑がかかる──そういう事だろう。それに俺は恥ずかしがり屋だからフード被ってたのに何でバレてるんだろ?
そういうわけで、今回は教会で回復魔法かけてもらったり、ポーション買うと高くつくから、その時のお礼をしてくれているだけで、いつもはこんなにサービスしてくれない。今日は久しぶりに市場に来て会ったからたまたまだと思う。
「ふっ、フレアっ! お兄ちゃんは王都では有名なんだぞ!」
フレアの期待は裏切りたくない俺は、このまま話に乗っかかる。
ミレーユはにこにこと俺達を見詰める。
ミレーユはきっと事情は把握しているんだろう。
知ってくれている上で俺を見守ってくれているミレーユが愛おしい。
「ミレーユもそう思ってるはずなのです!」
「ふふっ、そうね? エルは王都では有名なのよ?」
フレアの言葉に同意するミレーユ。
有名ではあると思うけど……きっと役立たずな英雄の息子としてだと思う……。
大量の魔物がけっこう前に襲ってきた時はサポートしまくってたから、周りの期待を裏切ったはずだ……今日の『紅』から言われた事もそれが原因だろう。
その噂が広がったせいで、冒険者ランクもその時に下げられるぐらい王都民の反発があったらしいし……。
俺への期待が相当大きかったんだろうな……父さんと母さん──
『銀翼』は偉大だ。
『英雄の息子の癖に前線で戦えないヘタレ』
そう周りに罵られたなぁ……懐かしい思い出だ。といっても数ヶ月前ぐらいの話なんだけど。
今でもけっこう無視されたりもするけど慣れてしまった。
今日はなんやかんやで感謝をされて気分は良い。
こんな日が続けば嬉しいな……と思っていたら──
「おっ? 役立たずの英雄の息子じゃねぇか! 薬草採取しなくていいのか? 冒険者なのに王都を守れないとか存在する価値がない──見るのも目障りだ!」
フラグを回収されてしまった。前世で言うテンプレみたいな状況だ。
……たまにこんな奴がいるから噂が広まるんだよな。服装から察するに王国騎士団の人だろう。あの時たくさんの冒険者や騎士団の人が死んだ……。
英雄の子供なのに後ろで援護や回復していた俺が気に食わなかったんだろう。
こんな人にも顔を知られている事にびっくりするな。
周りの人達も注目している。早く出よう。
俺は口を出そうとするミレーユを手で制止して、返事をする為に言葉を発する。
「……そうですね。では去ろうと思います。王都も近々出ますのでご安心下さい」
「へっ! 澄ました顔しやがって……とっとと消えろっ! お前がいなくなっても誰も困りはしねぇんだよっ! なぁ皆?」
「「「そうだっ、そうだっ!」」」
喫茶店にいるけっこうな人が俺に対して否定的だ……こそこそと「あいつがそうなのか」とか聞こえてくる。
周りの視線が痛いな……。
俺はともかく、フレアをこんな所にいさせるわけにもいかない。
「ミレーユ、行こう……」
「そうね……私のいない間に冒険者ギルドだけじゃなくて、騎士団も質が落ちたわね」
ミレーユさん!? 何煽ってるの!?
「あぁ? てめぇ──!? 【冷笑】か!? 生きていたのか……『銀翼』もアランとキャロルがいなけりゃそこらのパーティと変わらない。そこの落ちこぼれと一緒でお前も大した事ないんだろ?」
「面白い事を言うわね? 『銀翼』は全員が一騎当千──私1人でも騎士団を相手に出来るわ。──ほらっ?」
「……」
ミレーユは剣を騎士団の人の首に当てる。
騎士団の人は全く反応出来ていなかった。
ちなみに、その一騎当千の中に俺はもちろん入っていない。当然ながら攻撃手段が限られるからね……。
従魔とか欲しいな……その為に必要なスキル習得したし……。
というか、ミレーユ……街中で抜剣はご法度だぞ!?
「こんな手を抜いた一撃にも反応出来ないなんて────この国は大丈夫なのかしら? エルがいないと前の魔物の襲撃も危なかったと聞いたけど?」
冷ややかに笑いながら有無を言わせない迫力で言葉を発するミレーユ。
ミレーユはいったいどこまで知っているんだろうか?
ちなみに俺は援護魔法や結界魔法、回復魔法しか使っていないからそこまで言う程ではないと思ってたりする。
「そんなわけあるか! そんな奴がいなくて俺達だけでなんとかなったっ! この王都にこいつは必要無いっ!」
うん、そうだね。たぶんなんとかなった気がする。
SランクパーティやAランクパーティがいなかったら危なかったと思うけどね。そういえばイザベラさんも大活躍してたな……。
しかし、ここまで大衆の前で言われるのは初めてだ……。
やはり、王都を早めに出よう……。
「──ミレーユもういい。……そうですか……父さんと母さんが守った王都を頑張って守って下さいね? では──」
ミレーユは剣を振り下ろそうとしていたので呼び止め、俺は喚く騎士団の人を放置して歩き出し、その場を後にした。
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