第12話 有名人 1
熱くなっている『紅』メンバーの4人はこの絶対零度の空気が読めていない。
ミレーユは魔力を込めて、いつでも魔法を放てる用意をしているし、フレアは剣をいつでも抜剣出来るようにしている。カレンさんも拳を強く握りしめてプルプルしている。
どうしよ?
良し、ここはカレンさんにさっさと俺を諦めてもらおう。
「カレンさん、とりあえず冷静に考えた方がいいですよ? 俺なんて今回の集落殲滅では全く戦っていませんよ?」
俺は戦闘には参加して【補助魔法】を使いはしたが、戦っていないので嘘ではない。
これならきっと王都での噂通りだと思って諦めてくれるに違いない。
フレアとミレーユは静観してくれている。
ミレーユなんて頷いて俺を見てくれている事から、きっと俺の意図に気付いているに違いない!
「ほらっ! きっとミレーユ様がやったに違いないっ!」
「話から察するに妹を前線に立たせるなんて屑としか言いようがない!」
「そうだ! こいつは後から出てきたんだ!」
「どうせ、手柄だけ持っていくつもりなんだろ!」
想像以上に『紅』メンバーからの食い付きが凄い。
自分で言うのと他人に言われるのは違うな……心に突き刺さる気がする。
もう少し、ミレーユとフレア抑えててくれよ?
「……もういい」
カレンさんはボソッと言葉を発する。
「「「わかってくれた!?」」」
「ええ、私は『紅』から抜けるわ。さぁ、エル行きましょ? エルの凄さがわからない人達なんかどうでもいいわ」
……なんか俺の予想と違う。
なんで脱退する!?
「カレン、合格です」
「カレンお姉ちゃんならそう言ってくれると信じてたのです!」
ミレーユとフレアの2人はその答えが当たり前だと言わんばかり褒めている。
俺は絶賛混乱中だ。
「「「何をっ────!?」」」
「そこから動けば──氷像に変えるわよ?」
ミレーユは4人の足元を凍らせる。
「動いても別にいいのです! フレアが斬り刻むのです!」
フレアは近くにあった木を切断し細切れにする。
俺の為に怒ってくれているのはわかるが、この殺気の中にいるの辛い……足の震えが止まらないぞ?
フレア……この短期間で殺気まで放てるなんて……成長し過ぎではないだろうか?
これが才能の差なのか? お兄ちゃん自信無くすぞ?
「さぁ、エル行きましょう! 私もエルのパーティ入るからギルドに行きましょっ!」
そう言いながらカレンさんは俺を引っ張りながら王都に連れて行った。
戻る途中に小声でミレーユとフレアが──
「カレンを引き抜く為に仲間割れを起こそうとしたのはわかってるわよ?」
「策士なのです!」
──と言っていた……。
もちろん俺にそんな意図は全く無い。言葉だけを聞くと俺が本当に屑のように聞こえてくる……。
ただ、あの場を速やかに収めたかっただけなんだが……2人の中で俺はどんな風に見えているのか聞いてみたい……。
どうしてこうなった!
ギルドに到着すると、カレンさんの加入申請は滞りなく終わる。
ちなみに全てミレーユ主導で行われた。もちろん相手はレーラさんだ。
「エル君……Aランクを引き抜くなんて……」
途中、ミレーユとの会話でレーラさんから、そんな声が聞こえて来たが俺はスルーする事にした。
もう、俺が何を言おうと変わらない気がする。
「えっ!? フレアちゃん……本当に300体以上もオーク倒したの?」
「フレアやったったのです!」
フレアは満面の笑みを浮かべて答える。
何で討伐数がわかるかと言うと、ギルドカードに倒した魔物が専用の魔道具でわかるようになっているかららしい。
俺がオーガを倒した時も調べてくれたら良かったのだが、調べずに嘘吐き呼ばわりされていたりする。
今回は俺のも調べられているから、今はきっと討伐した事はわかってくれているだろう。
「姉さんも700超えてる……」
「当然よ」
ミレーユは【氷結魔法】を使いながら離れたオークを殲滅しつつ、フレアを補助して器用に倒していたからな……討伐数がやはり多い。
「エルは……0ね……」
当然ながら一体も倒してないしね。
そもそもサポート専門だしな。
だから悲しくなんかないさ!
「まぁ、俺は援護しかしてませんしね」
ちなみに1000体を超えるオークをスキル【アイテムボックス】という時間の止まった亜空間に入れてある。【空間魔法】にも似たような物があるが、こちらは習得が困難で持ってる人は俺の知る限り1人だけだ。
オークを買い取って貰おうと思ったけど、肉は普通に食べれるので使い道もあるので売らない事にした。
「これってもしかしてカレンさんが受けていた依頼じゃないですか?」
レーラさんはカレンさんに話しかける。
「そうよ。着いたら終わってたわ」
「まぁ、とりあえず大事になる前になんとかなって良かったです……今回はギルドから討伐依頼が出ていましたので報酬が出ます。金貨50枚になります」
やはり、ギルドはオークの件を把握していたのか。
とりあえずギルドからの依頼を奪った形にはなるけど安全を確保出来て良かった。
それに当面の資金に余裕も出来たな。
そう思っていると、ギルドマスターのマッチョさんが俺達を発見し、物凄い勢いで向かってくる。
「お前らっ! なんか、たっけぇ請求書が俺宛てに来たぞ!?」
マッチョさんは近く来ると怒鳴るように声をかけてくる。
「あら? それはご愁傷様ね? 当然払うんでしょ? さすがギルドマスターよね? それで丸く収まるってわかってるはずだものね?」
それに対してミレーユは口を三日月状にして返事する。
有無を言わせない迫力さえ無ければ、本当妖艶に見えるぐらい綺麗なんだが……。
「……お、おぅ……」
何も言い返せないマッチョさんは尻つぼみになる。
「じゃあ、行きましょう。エルは行きたい所あるかしら?」
既にマッチョさんは空気になっている。
「久しぶりに市場に行きたいかな? 旅をするにしても食料とか必要だし」
哀れなマッチョさんを尻目に俺達はギルドを後にした。
カレンさんとはまた会う約束をして別れた。
「カレンさんがまさかパーティに加入するとは……」
俺は呟く。
「予想通りなんでしょ? 私は元々後衛よりだし、ブレッドの娘だけあって前衛の彼女がいると助かるわ。それにマッチョに意趣返しが出来て満足よ」
うん、とても満足そうな笑みだ。
確かにカレンさんは元剣聖ブレッドの娘だし、自力でAランクになったぐらいだ、期待出来る。
だが、一つだけ訂正したい! 断じて予想通りでらないと! 全く真逆に近い結果になってるからっ!
ただ……これでまた有名になるな……今度はどんな噂が飛び交うんだろうか……。
考えてても仕方ないか……。
「うんうん、とても良い笑顔だよ。俺にはその笑顔をいつも向けてほしいかな?」
絶対零度の笑みだけは向けないでね?
「当たり前でしょ? いつか私をお嫁さんにしてくれるんでしょ?」
「当然っ!」
即答した俺にミレーユは頬を赤らめる。
「ひゅーひゅー、お兄ちゃん早く結婚して幸せにしないとです!」
フレアは俺達を揶揄ってくる。
「こらこらフレア、物には順序があるんだぞ? お兄ちゃんはミレーユを幸せにする為にやる事があるんだ……それはミレーユにもちゃんと言ってある。結婚はそれからだぞ?」
そう、まずはフレアの目をなんとか治してやりたい。これはフレアが寝ている間にミレーユに話している。
もちろんミレーユは了承してくれた。
その為にも旅に出て手掛かりを見つけたい。
俺達だけじゃなくてフレアにも幸せな人生を送ってほしいからな。
「わかったのですっ! お兄ちゃんの伝説を作るですっ! もっと有名になってから世界中に祝福されて幸せになるですっ! そして覇権握ったるのでふっ!」
「うんうん、フレアはとても良い子だね。その為にもお兄ちゃんは頑張るよ!」
覇権は握るつもりは全く無い! というか弱いのに握れないからな!?
フレアと若干話が噛み合っていないが、否定など俺はしない。フレアが笑顔ならそれでいいのだ!
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