第9話 お買い物
さて、種明かしをしよう。
フレアは何故、目が見えないのに相手の位置がわかっていたのか?
それは──【気配察知】と【空間認知】のスキルを持っているからだ。しかも2つともレベルは7……しばらく見ない間に他のスキルも高水準になっていた。
速さの理由は父さんと同じユニークスキル【神速】だ。
このスキルは俺の知る限り──
移動スキル最上位のスキルだと思う。
フレアはきっと俺が依頼でいない間、暇でこっそりスキルレベルを軒並み上げていたようだ。
この調子でどんどん強くなりそうだな……既に余裕でお兄ちゃん超えてるぞ?
今はもう試験も終わったのでレーラさんがフレアに冒険者の説明をしている。
2人はそんなに中は悪くないはずなのだが……レーラさんはミレーユに怯えている為、カタコトで話していたりする。
レーラさんの内心を代弁しようと思う。
『何で私はあの時に冒険者登録しなかったの!』
きっとそう思っているはずだ。まぁ、受付嬢としての業務を遂行しただけなのだが……。
ミレーユの鋭い視線は人を射殺す事が出来るんじゃないだろうか? そう思わせるぐらいの目力がある。
「フレアを『白銀の誓い』に加入をお願いします」
さすがに少し可哀想だと思うのでさっさと帰る為に要件だけ言う。
きっと、他の受付嬢が軒並みクビになって業務も滞っているだろうしね。
「かしこまりました。パーティランクはCになります。依頼はBランクまで可能となります」
今のレーラさんを見てると──
前世であったゲームという奴のNPCと会話しているという錯覚をしてしまう。
ちなみにパーティランクは冒険者個人ランクの平均ランクが多い。今回はミレーユの物言いでCランクになってるっぽい気がする。
「わかりました。では行きますね。ありがとうございます」
レーラさんはマッチョさん同様、心底ホッとした表情をするが──
「近い内に会いに行くわ」
ミレーユのその言葉でレーラさんは絶望の表情に変わる。
近くにいるギルド職員は気の毒そうに合掌していた。
俺達はギルドを後にして、旅に出る為の用意をする為に買い出しに雑談しながら向かう事にする。
「フレアは凄いな~さすがだ」
俺はさっきの試験の事でフレアを褒める。褒めて伸ばす方針だ。
「えへへ、フレアはまだまだなのですっ! お兄ちゃんはもっと凄いのですっ! なんでEランクなのですか!?」
謙遜した後、ぷんぷんと俺のランクが低い事を怒ってくれている。
「皆、お兄ちゃんの凄さがわかってないんだ。それにお兄ちゃんはサポートの方が得意だからね」
そう、俺はそもそも前衛ではない。前線で戦えば死ぬ自信しかない!
それに後衛で更に回復、援護専門になると高ランクパーティ以外では評価が全くされていないのが現状だったりする。
低ランクパーティで求められるのは魔法使いやアタッカーが多い。
俺が一時Cランクまで上がったのも『銀翼』の功績でついでに上がった感じだったしな……。
「むぅ、お兄ちゃんは魔物と戦えるのです! フレアにもそう言ってたです!」
そういえば、フレアにはお兄ちゃんは凄いんだぞ? と無双話を盛りまくったお話を言っていたな……調子に乗って言い過ぎたかも……。
「そうなんだ……でも陰謀で誰も信じてくれないんだ。今回は無かったけど、そこら辺でお兄ちゃんとミレーユの話を聞いても無視するといい。今日はお兄ちゃんとミレーユの事を凄いと思ってる人ばっかりだったからね」
「わかったのですっ! 冒険者ギルドの偉い人が泣いてフレアに感謝してたのですっ! 凄い期待されてるです! お兄ちゃんのお陰なのですっ!」
うん、たぶんそれ違う。マッチョさんはきっと金貨100枚を自腹で払わないで済んだからだと思うよ?
「お、おぅ……お兄ちゃんは凄いからなっ!」
そんな会話をミレーユは微笑ましそうに見ている。
こういう時間は本当2年ぶりだ。
楽しいな……──おっと、店に着いたな。
目の前には雑貨などが売っている店に到着する。
実際、この店は何でも買い取るし、色んな物を売ってたりする何でも屋だったりする。
俺が──いや、父さん達が生きていた頃からよく行っている場所だ。
「懐かしいわね……」
ミレーユも懐かしいようだ。
扉を開けて中に入ると、寡黙そうな爺さんがいる。
「おぉ、エル──!? まさかミレーユか!? 生きておったか……うんうん、良かった良かった……」
爺さんは死んだと思っていたミレーユを見て懐かしそうに頷く。
こうやって、ミレーユの生還が喜ばれるのは俺も嬉しい。
「お爺さん、お久しぶりです」
とても良い笑顔で応えるミレーユ。
「うむ、今日は気分が良い……サービスじゃっ! 無料で持っていけっ!」
爺さんも昔を思い出しているのだろう。とても笑顔だ。しかもサービスをしてくれると言う。
「わぁ、嬉しい。ありがとうございます。じゃあ……野営で必要な道具一式お願いします。1番高い奴を」
ミレーユは爺さんの言葉に笑顔でさりげなく欲しい物を要求する。
爺さんは言ってしまった事に少し後悔しているようだ……少し汗が出ている。
野営一式って安い奴でも金貨1枚ぐらいするからな……。
金貨1枚で日本円なら10万相当の価値があるからな……1番高いのがいくらするかわからないけど、けっこう死活問題なのではないだろうか?
俺は野営するような依頼は受けていないので持ってないから必要ではあるんだが……さすがに爺さんが可哀想だな。
「爺さん、普通ぐらいので大丈夫ですよ?」
「エル……お前はいつも優しいのぅ……しかし、わしも男──言った事に二言は無いっ! ──生還祝いじゃっ! どうせ置いていても売れん奴じゃ、遠慮せず持って行けっ!」
そう言って出されたのは、小さい袋だった。
俺は【鑑定】を使う。
『高級野営セット』
この店で1番高い商品。
全て空間魔法が付与された袋に収納されている。
テント内は空間魔法により広く使え、温度は魔道具により一定に保たれて快適に過ごせる。その他にも必要な物が最新式で揃っている為、貴族しか買えない値段になっている。
お値段なんと、金貨100枚! それが無料でのご提供になりますっ!
可哀想なお爺さん……この後、いったいどうなるのか!? 乞うご期待っ!
……色々と突っ込みたい所がある……まず……いつもの【鑑定】と違うっ!
いつもはもっと簡単に説明してただろ!? なんで今回に限ってナレーションみたいになってるんだよっ!
あれか!? スキルレベルが10になったからなのか!?
乞うご期待って、破滅する未来しか見えんわっ!
俺の【鑑定】がバグっているのは、この際どうでもいい……問題はこれを貰うわけにはいかないという事だ。
今の手持ちは……自分の稼ぎで貯めた金貨20枚しかない……。
さすがにこれを無料で貰うのは躊躇う……この後、爺さんが死んだりしたら後悔しかない。
それにいつも安価で俺に物を売ってくれたり、俺の作ったポーションや素材を高く買い取ってくれている。こんな恩を仇で返すわけにはいかない。
爺さんを見る。
……笑っている……だが、口の端から血が少し滲んでいる。やはり死活問題なんだろう。
このまま血管が切れないか心配だ。
ミレーユを見る……こちらも笑っている……。
しかし、俺はミレーユは昔から世話になっている店を無碍にはしないと信じている。
俺が見守っているとミレーユが言葉を発する。
「お爺さん冗談よ。でも、その野営セットはとてもいいわね……よしっ! マッチョに請求してくれたらいいわ。私の名前を出せば一括で払ってくれるはずよ。出し渋ったら──バラすとだけ言ったら必ず払うから安心して」
……なるほど……これで爺さんは安泰だ。売れなかった野営セットも売れて俺達もハッピーだ。
さすがミレーユ……不幸になるのはマッチョさんだけだ。
まぁ、それなら別にいいか……責任者なのに責任逃れしようとしてたからな。
結局、マッチョさん金貨100枚を払う事になったな……ミレーユ、恐ろしい子……。
フレアも「野営セット無料で手に入れたのです! お兄ちゃんとミレーユ凄いです!」と満面の笑みだ。
こうして俺達は高級野営セットを手に入れる事が出来た。
後日、マッチョさんが払ってくれたと爺さんに教えてもらった。その時の顔は絶望していたそうだ。
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